第2話
その日の放課後、俺はサユリと駅前の新しくできたクレープ屋に来ていた。
あの後すぐにサユリから【NINE】でメッセージが届いた。
サユリ〈今日の放課後空けといて。話の続きするから。拒否権はないからね〉
連絡するとは言ってたけど早くない?そして強引すぎない?そう思ったがそれを言うとややこしくなるのでここはおとなしく承諾した。
そして放課後、言われるがままサユリについていった結果クレープ屋にたどり着いた。
「あのーサユリさん、これはどういうことですかね?」
「ん?言ったでしょ、埋め合わせしてもらうって。ちょうど来たかったのよねー」
ちなみにここは俺のおごりだ。数少ないお小遣いが……。
「なに?文句あるの?」
「いや別にないけど……。そうだ、昼間言ってた頼み事って?」
「ああ、そうだった。ちょっと待って。食べ終えたら話すわ」
そういって美味しそうにクレープを頬張るサユリ。これは目の保養になる。余程美味しかったのか早々に食べ終えたサユリは本題を話し出す。
「実は私とある先輩に告白されちゃってさ」
ほうほう、恋愛相談か。
「もちろん告白は断ったんだけど、その先輩しつこくて。何回も言い寄ってくるのよね」
なるほど、そういうことか。その先輩がどうすれば諦めてくれるのか悩んでるわけだな。
「で言ってやったのよ。私には彼氏がいるのでお付き合いできません!って」
「え?彼氏がいるのか?だったらそれで解決じゃないか。仮にそれで引き下がってくれなくても俺じゃなくて彼氏に相談するべきじゃないか?」
「……わよ……」
「え?」
「……ないわよ……」
「え?」
「だーかーら!いないわよ!」
あれ?なんか怒ってない?俺なんかしたっけ?
「そういうことね。てことは断る口実として嘘をついたってことか」
「そういうこと。でもその先輩信じてくれなくて。いるなら会わせろだって。でエツジに頼みたいことっていうのが私の彼氏になってほしいの」
「なるほど……えっ?彼氏?!」
「あ!違う違う違う!間違えたの!断るときだけ私の彼氏役をしてほしいの」
「あ、ああ、そうだよな。一瞬びっくりした。うーん彼氏役か……」
なんとなく把握できた。同席して一緒に断ってほしいってことだろう。今までも似たような相談はあったな。困ってそうだし引き受けてあげたいが……。
「俺が彼氏役だと不自然じゃないか?なんていうか釣り合ってないっていうか、あからさま代役のような。すぐバレそうだが」
「ぜんっぜん不自然じゃないわ!むしろ適役よ!……なんなら…役…じゃなくても……」
ん?最後の方聞こえなかったんだが。
「というか彼氏役なら俺よりコウキのほうがいいんじゃないか?あいつならかっこいいし違和感ないだろ。付き合いも長いし頼みやすいんじゃないか?」
「はあ?」
あれ?またなんか怒ってない?さっきから顔も赤いし。
「コウキは論外よ。良い奴だけどチャラついてるし。頼りがいもあんまりない。あれが彼氏なんてありえないわ。それに…かっこよさなら…エツジのほうが…」
けっこう辛辣だな。まあ好みは人それぞれだしな。俺はお似合いだと思うけど。
「ねえ、そんなに私の彼氏役が嫌…なの?」
そう言って俺を見つめるサユリ。その表情は不安を抱えているように感じた。考えてみれば年上の男に何回も言い寄られるなんて怖い思いもしただろう。せっかく頼りにしてくれてるしな。
「わかったよ。彼氏役引き受けた」
「ホント?ヤッター!ありがと!」
さっきまでの表情と打って変わってパッと笑顔を浮かべる。まるで曇天から晴天へ変わるような。余程不安だったのだろう、これくらいのことでそんな笑顔が見れるなら安いものだ。
その後も思い出話や高校に入ってからのこと等を話していたら、いつの間にか日が落ちる時間になっていた。そろそろ帰ろうか、と席を立つ。なんだかんだで楽しい時間だった。
駅へ戻ろうと歩いている途中で「よかった。やっぱりエツジは変わってなかった」とチラッと横目で俺を見ながらサユリは言った。俺に向けてなのか独り言なのかわからなかったが、俺は「変わらないよ」と独り言を呟く。サユリにも聞こえるように。
――――――俺は変わってないよ。変わったのは君たちだ。
駅が近くになるにつれて人は増えていく。今歩いている通りは色々なお店が立ち並び活気あふれている。その賑わいをかき分けながら進む。
駅を目前にあとは横断歩道を渡るだけ、その時だった。
「あれ?サユリちゃんじゃん」
どうやらサユリの知人らしき人に声をかけられた。二人組で同じ制服を着ていることからクラスメイトかなと思ったが当のサユリの方を見ると様子がおかしい。表情は少し強張り、いつの間にか俺の袖を握っている。
ああ、そういうことか。今日の話の流れと一致した。
「こんなところで会うなんて奇遇だね。どっか行くの?」
「……今から帰るところです」
「えー!もう帰るの?だったらもう少し俺らと遊ぼうよ」
「……結構です。告白についても断りましたよね」
「そんな硬いこと言わずにさー。告白の返事は焦らなくていいから。とりあえず遊びに行こうって」
「嫌です!前にも言いましたよね、彼氏がいるって」
「彼氏なんてどうでもいいじゃん。つーか彼氏ってさっきから隣にいるこいつのこと?」
そこで初めてその男と目が合った。
「そうです。この人が私の彼氏です。だからもう誘ってこないでください」
「アッハッハッハ!さすがにそれはないって。どう考えても釣り合ってないじゃん」
「ホントですよ!私たちラブラブなんで」
演技だとしてもむずがゆいな。
「またまたー。もし本当だったとしたら男の趣味悪すぎるって。こんな地味で陰キャみたいなやつより俺と付き合ったほうが絶対いいって」
おいおい言われ放題だな。さすがに俺も口を出そうとするがそれより先にサユリの口が開く。
「頭湧いてるのか目が腐ってるのか知らないけどあんたなんかより100万倍良い男なんだから!」
サユリはなぜか俺よりヒートアップしていた。それにつられて男も声を上げる。
「なんだと?ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」
男は1歩前に踏み出す。すかさず俺は二人の間に入り込んだ。
「なんだよ陰キャ。お前も出しゃばってんじゃねーぞ!」
男の矛先は俺に向いたようだ。一瞬サユリの方に目をやるとサユリも俺を心配するように見つめていた。
大丈夫だって。俺に任せろ。1度引き受けたからには必ず守るから。
俺はふぅと一呼吸おいて、ようやく口を開く。
「サユリは俺の彼女です。サユリが可愛くて好きになる気持ちもわかりますが本人も迷惑しているので金輪際関わらないでください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます