幼馴染がカースト上位に君臨している

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第一章

第1話

 その光景は周りからすれば不自然だったのだろう。教室にいる大半の人の視線が俺の方へ向いた気がした。

 ぱっと見、休み時間に隣のクラスの女生徒が男子生徒に話をしに来たという普通の状況なのだが、その男子生徒が窓側一番後ろでいつもボーっとしている地味で陰キャな俺、二宮にのみやエツジでその女生徒が学校でもトップクラスに可愛いと言われている白石しらいしサユリというミスマッチが注目を集めている原因だろう。


「エツジー!ちょっと聞いてよー!」


「えぇ?!」


 いきなりの訪問とその第一声にとまどっている俺はろくな返事ができなかった。


「私、とある先輩に告白されちゃったんだけどその先輩が―――」


「ちょ、ちょっと待って!」


「ん?どうしたの?そんなに驚いて」


「そりゃ白石さんにいきなり話しかけられたらびっくりするでしょ」


?ってどういうこと?」


 グギッ、痛いところを突かれた。


「今までサユリって呼んでたじゃん。いきなりも何も私たち仲良かったじゃん。ていうかエツジの方こそ高校に入ってからいきなりそっけなくなったんだけど」


「そ、それは……」


 高校に入学してはや一ヶ月、俺は白石サユリとまともに話したことはない。かといって面識がないわけではない。むしろ以前までは仲が良かった。俺たちは小学校、中学校合わせて9年間共に過ごした仲だ。正確には小学校からいつも行動を共にしていた6人組の内の2人であり、他にもあと4人、特別仲が良かった友人がいた。だが、高校入学を機に俺はサユリや他4人と関わるのを意識的に避けるようになった。


「私だけじゃなくて他のみんなも、なんか避けられてるような……。連絡しても返信遅いし、返ってきても一言二言しかないし……。ねえ、私たち何かした?嫌われるようなことでもした?言ってくれなきゃわかんないよ」


「……」


 結論から言うと嫌っているわけではない。ただ少し思うところがあった。

 俺は小学校の頃から聞き上手だったらしい。あくまで周りの人から言われたことだが。そんな俺は友達から相談を受けることが度々あった。内容は様々だったが、人は話を聞いてもらえるだけで楽になるものだし、時にはアドバイスや手助けなんかもした。特に仲が良かった友達には頼られることが多く、慕われていた。その友達こそサユリたちなのだが。あの頃は頼られるのが嬉しくて、もっと期待に応える為にスポーツや勉強も頑張ったし、知識を増やすために努力もした。そのかいあって中学でも関係は変わらずに信頼し合える最高の友達だった。


 その関係に違和感を覚えたのは中学2年生の時だった。その年頃になると容姿に多少なりとも気を遣うものだが、俺以外の垢抜けた5人はそれぞれ美男美女と学校で噂されるほどになっていた。容姿や身なりについて相談されたこともあり、無知な俺も必死で勉強して美男美女化に少しは貢献した。まぁ元がよかったんだろうけど。当の俺はいくら身なりを整えたところで特徴もない地味なモブキャラになるのが精一杯だった。


 もちろん容姿ごときで態度を変えるような奴らではないので俺たちは何も変わらずにいつも一緒にいた。

 気にしていたのは多分俺だけだったのだろう。心の奥底で何かが引っ掛かっていた。どこかで羨望や嫉妬の感情があったのかもしれない。俺だけ釣り合ってない。みんなの株を下げてないか?そんな気持ちは周囲の目を気にするようになる。「なんであいつがあのグループに混じってるんだ?」そんな声が聞こえた気がした。


 結局それ以降はあまり考えないようにした。高校生になればそれぞれ別の場所に行くと思っていたので、中学生の今を楽しみ、また頼られたら話を聞いて、そんな日々を送った。


 あの時は思ってなかったんだ、6人中5人が同じ学校に通うなんて……。


 少し間が開いて俺は答える。


「いやいや何もされてないって。嫌ってもいないし。ただ、高校に入って新しい環境になって新しい友達もできると思ってさ。俺がいたら皆の邪魔かなーって……」


「邪魔じゃないわよ!確かに新しい友達はできるけど、だからといってエツジたちとの関係が無くなるなんてありえないから!」


 「怒るよ!」と声を張り上げて興奮するサユリをなだめる。さすがに注目を浴びすぎた。


 とりあえず目立つのは勘弁だ。


「わかったからごめんて。これからは気を付けるから」


 俺としては今の地味な生活が気に入っている。友達は少ないが同じような空気感の子たちとそれなりに上手くやっている。


 席から見上げるようにサユリを見て思う。やっぱりサユリは可愛い。

 小柄で愛嬌のある顔、鮮やかな茶色の髪は上の方で結ってツインテールにしてある。高校に入ってその可愛さはさらに磨きがかかったようだ。そこらのアイドルグループにいてもおかしくない。

 そんな子と俺がつるんでいたら目立つし反感を買ってしまいそうだ。なにより俺自身が負い目を感じて疲れてしまいそうだ。

 やはり程々の距離を保つべし。今はこの場を乗り切ろう。


「わかってくれたならいいよ。でもこれまでの埋め合わせは絶対にしてもらうからね!」


「あはははは……。日が合えばな」


「……まあいいわ。それで話を戻すけど、今日はエツジに頼みたいことがあって来たの」


 頼み事かぁ。また面倒なことになりそうだな。どうしようかな。


「騒がしいと思ったらあなたたちだったのね」


 俺が返答に困っている時に会話に入ってきたその声は聞き覚えのある声だった。


「あ、エリカだ。どうしたの?こんなところで」


「どうしたのって私このクラスの学級委員長なんだけど。それよりあなたこそどうしたのよ」


 噂をすればなんとやら。我らが学級委員長のこのお方こそ先程の6人組の内の1人、真弓まゆみエリカである。エリカはサユリと違ったタイプで可愛いというよりは綺麗系で美人と言われている。モテるのに違いはないが。きりっとした顔立ちにすらっと伸びた手足、艶のある長い黒髪は女子なら誰しも羨むものだろう。


「エツジに頼みたいことがあって。最近そっけなかったからその事も込みで話しに来たの」


「……確かにエツジ君、最近冷たかった」


 同じクラスなのでエリカとは時々喋ってはいたが以前に比べるとその回数は少なかった。

 ジッと俺の方を見てくるエリカ。そんな目で見られても困る……。


「もう大丈夫よ!なんか高校に入って気を遣ってたみたいだけど。私がガツンと言ってやったわ」


「そうだったのね。よかった、嫌われたのかと思ってたから」


 嬉しそうに微笑んだエリカと目が合った俺は少しドキッとした。


「でもサユリ、もうすぐ休み時間終わるわよ」


「もうそんな時間?!」


 時計を見ると針はあと1分ほどで始業となる時刻を指していた。


「んーーーーーーーー仕方ないわね。あとで連絡するからちゃんと返しなさいよ」


 そう言い残したサユリは慌てて自分の教室に戻っていった。


「相変わらずにぎやかね」


「そうだな」


 「改めてこれからもよろしくね」と言い残しエリカも自分の席へ戻っていった。


 やれやれ、これからどうなるんだ?

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