大好きな人

雨世界

1 なんだよー。(拗ねながら)

 大好きな人


 プロローグ


 好きだよ。(照れながら)


 本編

 

 なんだよー。(拗ねながら)


 大好きな人ができました。


 私に大好きな人ができたのは、私が高校生のときだった。高校一年生の冬。私にはとても悲しいことがあった。悲しくて悲しくて、もうなにもできないくらいに落ち込んでいた私は、その冬にある一人の私と同い年くらいの男の子と出会った。

 ずっと雨降りの中にいた私と同じように、その男の子も、ずっと、雨降りの中をたった一人で、(ぼんやりと空を見上げて)佇んでいた。


 私は傘を指していた。最近、買ったばかりの水色の傘だ。

 男の子は傘を指してはいなかった。雨の中で髪の毛を濡らしたまま、どこか遠いところを見るような目をしていた。(でも、きらきらとしたとても綺麗な目をしていた)黒色の高校の制服も、靴も、全身がびしょ濡れになっていた。

 雨はそれほど強くはなかったのだけど、もうずいぶんと長い時間(私よりもずっと長い時間だ)その男の子は雨降りの中にいるようだった。


 その日、私は雨降りの中をなにもするでもなく、ただぼんやりとしながら歩いていた。(なんとなく、そうしていないと落ち着かない気分だった。少なくともからっぽになった家の中にはできるだけいたくはなかったのだ)


 街を歩いていても、傘をさしている人は、私以外に誰もいないようだった。雨が降っているのは私の周囲だけで、それ以外の場所では、どこにも雨は降ってはいなかった。(少なくとも私の目にはそう見えた)


 だから私と同じように雨降りの中にいる男の子を見つけて、私はとてもびっくりするのと同時に、なんとなく同じような境遇にいる仲間を見つけたような気がして、少しだけ気分がほっとした。(本当に、安心したのだ)


 私はその男の子とお話がしたいと思った。(できれば友達になりたいとも思った)

 普段は知らない人に声をかけることなんて絶対にできないのだけど、その日はどうしても、その男の子とお話がしてみたかった。

 

 そしてお互いの悲しみを少しでも癒すことができたら、(あるいは、少しの間でもいいから私たちの世界に降る雨が上がったら)それはどんなに素晴らしいことなのだろうと、本当に心の底からそう思った。


 でも、臆病な私はそれでも結局、その男の子に自分から話しかけることができなかった。私は何度もなんども、その男の子に声をかけようと思いながらも、その男の子の横をなにをするわけでもなく、ただ歩きて通り過ぎてしまった。


 ……だめだ。私はどうしていつもこうなんだろう。


 冷たい雨の中。水色の傘のしたで、またなんとなく溢れ出してしまった涙をぬぐいながら、私はそんなことを思った。


「あの、すみません。ちょっとだけいいですか?」

 すると、そんな幼い男の子の声が、私の後ろから聞こえてきた。


 その声を聞いて私はすごくびっくりした。


 最初、その声が私に向けられている声だと、私は気がつかなかった。だけど、私はどうしても気になって、道の上で立ち止まって、そっと後ろを振り返って、雨降りの中にいる男の子のことを見た。すると男の子は確かにじっと、私のことを見つめていた。


 男の子の声は、確かに私に向けられている声だった。


「……あの、突然すみません。なんていうか、すごく変な話だと思うんですけど……、あなたを見かけて、あなたと少しだけ話がしたいと思って、つい声をかけてしまったんです。ごめんなさい」と小さな声で男の子は言った。


「そんなことありません。あの、変なお話だけど、実は私もあなたと同じように、あなたとお話がしたいって、そう思っていたんです」と涙声で私は言った。


 本当に変な話だけど、そんな風にして、雨降りの中で、私はあなたと出会った。


 私たちは私の水色の傘を二人で使って、落ち着いて話ができる場所まで、雨の中を歩いて移動をした。


 それから、私たちの周囲にだけ、ずっと降っていた雨が降り止むのは、あなたと出会ってから、三年後のことだった。(雨が降り止んで、私たちは本当にびっくりした。二人ともきっととても驚いた顔をして、晴れ渡った青色の空と、その青空にかかる大きくてすごく綺麗な光り輝く虹のある雨上がりの風景を、とても長い間、見上げていたのだと思う)


 晴れた天気の中で、私は思った。


 ……あなたのことが、本当に大好きだって。


 大好きな人 終わり

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大好きな人 雨世界 @amesekai

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