ついてくんな……
軽井 空気
いつもの日常、最悪の出会い。
ワタシは何処にでもいる高校2年生の女子。
趣味は読書。
と言ってももっぱらライトノベルだけどね。
もちろんマンガやアニメだって見る。つまり何処にでもいる普通のちょっとオタクな女子高生なのでした。
「よし。」
ワタシは鏡の前でくるりと回る。
女の子なら着替えた後大体やるアレだ。
ワタシの部屋には大きな姿見がある。
高校の入学祝いにお父さんが買ってくれたものだ。
「――――も高校生だ。そろそろオシャレは必要だろう。」
そんなことを言ってプレゼントしてくれた。
貰った時はまさかの変化球で驚いたものだ。
「どうせワタシはオタクの地味娘ですよ~だ。」
なんて憎まれ口をたたいたりしたものだ。
だがそこはやはり女の子。
オタクだってオシャレに目覚めることはある。
ワタシがそうだ。
今ではこの姿見で
「父さんそうゆうつもりじゃなかったんだけどなぁ~。」
はいはいごめんなさいねぇ~。
1人娘のファッションセンスが斜め上で。
それでも制服はちゃんと着こなすし、髪もちゃんとイケてる感じですよ。
学校じゃ清楚系の人気者なんだから。
ほら、鏡に映るワタシきれいでしょ。
と笑顔の練習。
ファンサービスは日ごろの努力からよ。
さて、制服におかしなところはない。
私の通う学校は結構な有名校。
制服も校則が厳しめだ。
と言うか今どき珍しい紺のセラー服に赤いリボンタイ。
古めかしくも一周回ってオシャレかも。
スカートも長めで紺の学校指定のソックス。
昭和の女子高生のコスプレか。
ワタシは嫌いじゃないけど、変なおじさんとかに狙われないよね。
一応私お嬢さまだし。
お小遣いいっぱいでコスプレしまくりだし。
この姿見だって、お父さんが海外出張で買ってきたアンティーク品だ。
ずっしりと厚みのある鏡体に、精緻な彫り物のある額があめ色になるまで磨かれている年代物。
たまに何か映るんじゃないかと思う時があるほどだ。
「――――、朝ごはんできたわよ~。早く降りてきなさ~い。」
「は~~~~~い。今行く~~~~~。」
階下のお母さんに返事をしてからもう一度ワタシは鏡を覗き込んでチェックする。
ちなみにワタシは彼氏募集中だ。
贅沢は言わない。
あまり着飾らないで清潔感がある人がいい。
趣味が合うオタクならいいがまぁそこくらいは条件として最低限必要だろう。
それでも贅沢を言うなら、ワタシのことをいつも見守ってくれるようなヒトがいいかな。
「お母さんおはよう。」
「おはよう。」
「お父さんは?」
「今日から出張よ。行く前に――――の顔見たかったって言ってたわよ。」
「ありゃりゃ、それは悪いことしちゃったな。」
ワタシのお父さんはまだ子離れができていない人だ。
しかし、仕事がら出張で家を空けることが多いから、1人娘のことが心配になるのも仕方ない。
安心して、お父さんの娘は元気に過ごしてます。
ポコペン。
おや、LINEだ。
ナニナニ?
『—―――、今日帰りにアニメ野郎に寄らない。』
中学校からの友達からだった。
『アニメ野郎でいいの?』
そう返す。
アニメ野郎とはアニメグッズやマンガ、ライトノベル、それととある乙女たちが買いあさる薄い本を取り扱う、いわゆるオタクショップである。
ワタシも、そして同じ穴の狢である友達も大変お世話になっているお店だ。
『そうそう、カドカワ先生の新刊、アニメ野郎の特典が1番欲しいの。』
『つまりできるなら他の店のも欲しいと?』
『ビンゴー。ちゅうわけで放課後はしごしよ。』
「お母さん、今日友達と遊ぶからちょと遅くなってもいい?」
「あら、今日はお母さんも用事があって帰れないのよ。」
「そうなの~。じゃあついでに晩御飯も食べてこようかな~。」
「あんまり遅くならないようにしなさいよ。」
「は~い。」
『行く行く~。それとウチ今日はお母さん居ないからご飯も一緒に食べに行こう。』
『OK、OK。いいですな~。付き合いますよ。……軍資金が残ってたら。』
どんだけ買うつもりよ。
「――――、早く食べちゃいなさい。電車、遅れるわよ~。」
「おっおうっと、はーい。」
ワタシは急いで朝食の残りを口に入れていく。
と、
そこでつきっぱなしのテレビに意識が向いた。
「げ、ワタシ今日の運勢最悪じゃん。」
オタクの夢見る女子は占いとか信じちゃう方なのだ。
『—―――座のあなた。今日は外出は控えた方がいいですよ。人生最悪の出会いが待っているかも。背後には要注意ね。ラッキーアイテムは塩。』
「……塩でも撒いて追い払えってか、相手は幽霊かよ。」
と、げんなりしてしまった。
この番組の占いはよく当たるのだ。
テンション下がるわ。
『……晩御飯、かがみ屋の塩とんこつでどう?』
『お、ラーメンすか、いいっすね~。』
家を出る前に友達にはLINEでそう伝えておいた。
私の通う学校はそこそこ遠い。
だから、通学には電車を使う。
ワタシの家も学校も駅から近いから歩く距離はそんなにない。
だが、電車に乗っている時間が結構長いのだ。
その時間約30分。
私の通う学校が各駅停車しか止まらないからどうしても時間がかかってしまう。
近くの駅で乗り換えとかすれば少しは短くなるけど、ワタシは乗り換えとか好きじゃないんだよね。
だから今日も各駅停車で学校に行く。
いつもの場所。
ホームの端の方。
ワタシが乗るのはいつも1番前の車両。その1番前のドアだ。
電車は何時もそこそこ混んでいて、そこそこすいているくらいだ。
しかしいつも通り椅子には座れない。
だからワタシは何時もの定位置に向かう。
電車に乗って、ドアから真っすぐ5歩。
そこがワタシの定位置。
ワタシが降りる駅まで開かないドア、だからワタシはここにいつも立つ。
ドアに背中を預けて学校までの30分を読書に費やすのだ。
さて、
今読んでいるのは「私のアニキがこんなに格好いいわけがない。」だ。
ライトノベルとしては結構有名な作品で、アニメ化もされた。
すでに完結している作品だったのだが、つい先日ifストーリーの新刊が発売されたので、ファンとして読むのが当然だろう。
特に私の推しキャラの白猫ルートとか完全書下ろしだから読みごたえがあってよかった。
ついつい読み込んでしまい、駅に着くまでに読み終わってしまった。
「さてどうしよう。」
仕方ないのでスマホでweb小説でも読もうと思った。
「きさらぎ駅~、きさらぎ駅でございま~す。扉の前は大きく開けて、お降りのお客様の道を開けてください~。」
「お、軽井 空気さん書籍化決まってたんだ。いっがい~。」
スマホでよく見る小説投稿サイトを覗いたら、少し前に読んでいた作品が書籍化する告知が目に入った。
「「異世界転移した地球に転生した俺が領地貴族になって現代日本の文化を~特にオタク文化を流行らせるにはどうしたらいい?」が書籍化とかマジか~。出版社やる~。」
とりあえずTwitterでフォローしてたしおめでとうと祝っておく。
「おいあれ、マジかよ。――――」
「嘘、やめてよ――――。」
「何考えてんだアイツ。」
ん?
なんだろう。
ワタシの周りが騒がしい。
気になって顔を上げると。
「馬鹿、やめろって。」
「早く戻れ。」
「うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ!」
前に立っている人たちが怖い顔で私を見ていた。
「?」
ワタシは首を傾げた。
だって非難されるようなことはしていない。
後ろのドアは閉まったままなのだから道を開ける必要はないわけだし――――――
きっきいいいいいいいいいいいいいい――――ドン!びちゃぁ。
電車がすれ違う時のドン!という衝撃が背中の扉ごしに感じる。
ただ、いつもと電車の音が違うのと――――――耳慣れない、不快な湿っぽい音がした。
「きゃぁぁぁぁぁぁ。」
「うわあああああああああ。」
目の前にいた人たちが慌てて私から目をそらす。
そして騒ぎは電車の中に広がっていく。
そこで私は気が付いた。
みんなが見てるのは私じゃない。
ワタシの背後だ。
ワタシはゆっくりと背後を振りかえ―――――――――
「――――っひ!」
ワタシの背後には血まみれの男性がドアにへばりついていた。
その男性には下半身が無かった。
腸がはみ出てベッタリと電車の窓に張り付いていた。
「い、いや……
ぐりん。
最後の最後なのだろう。
ワタシはその男性と目が合ってしまった。
「――――――――――――――――――!」
「きゃあああああああああああああ!」
ワタシは悪夢を見て飛び起きた。
いっぱいの汗をかいていたのでかなり不快だ。
「はぁ、はぁ、――――あ~、最悪。ひっどい夢。」
そう愚痴をこぼしながらワタシは着替えるために姿見の前に立つ。
「………………………………あは、今日もいるし。」
鏡にはあの日電車に飛び込んだ男性の上半身がワタシに覆いかぶさるように映っていた。
ちなみに彼は地縛霊のように私に取り憑いてしまったらしい。
霊能者に見せても、無理にはがすより自然と成仏するのを待った方がいいとのこと。
はは、占いどうり最悪の出会いがあったわ。
とりあえず、塩まいときゃ一時的に消えるし実害もないから、着替えとお風呂場に塩撒けばいいだけかな。
これも占い通りだわ。
ちなみにその後のワタシは、イベントで「心霊写真が撮れるコスプレイヤー。」として有名になりました。
~完~
ついてくんな…… 軽井 空気 @airiiolove
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