もし、あの時、死んでいなかったら

「ダメですっ!


バックアップデータからあの異世界は

リセットを完了出来ましたが


勇者が次々と他の異世界に渡り、

異世界を呑み込んでいますっ!


このままでは

バックアップが追いつきませんっ!」


転生管理センターの

オペレーターが叫ぶ。


警報システムは鳴りっ放しで、

もはや止まることは無い。



転生の女神・アリエーネ管理官は

決断を迫られていた。


このままでは本当に

勇者がすべての異世界を呑み込んで

無にかえしてしまうかもしれない。


そうなれば、

神々は、呑み込まれるどころか

その時点で、存在が消えてしまう……



「仕方がありません……


『因果』を書き換えますっ!」


「えっ!?


そんなこと、今までだって

ほとんど無いことですよっ!?


神々存亡の危機とか、

そういった時にしか

使ってはならないとされている


神々の禁じ手ですよっ!?」


「今がまさにその時なのです


神々の承認は事前に得ています

最悪の場合は、因果を書き換えると」



「すべての世界が滅び、

すべての人間が死滅すれば


神々はもはや存在すら出来ません

消滅するしかないのです


神々は人間の信仰があって

はじめて存在出来る


それは、それだけは唯一絶対、

全知全能の神々であっても

決して覆すことが出来ないルールです


ですが、神々は

それぞれの世界に

直接介入することは出来ません、

禁止行為とされています


だからこそ、こうして

神々の代わりとして、

神々の遣いとして、

勇者を異世界に送り出しているのです


すべての世界の

人間を滅ぼさない為に……」


転生の女神アリエーネは自ら

今回の原因を直接書き換える。



転生の間に居る青年。


彼はこの先、自分が

無理矢理勇者となって、異世界に転生して、

さらに全異世界に

滅びをもたらすことをまだ知らない。


目の前に居るのは

まさしく神々しく、光輝く転生の女神。


彼女だけはすべてを知っている。

厳密に言えば、神々もなのだが。


「残念ですが


例えどの世界であっても

あなたを人間に転生させることは出来ません」


「いえ、それどころか


これからあなたは

無限牢獄に閉じ込められて


長い年月を経て

それぞれ元の状態に分解され


次第に消されて行くでしょう……」


アリエーネがそう言うと

天界から派遣されて来た兵達が

青年を取り押さえた。


「でも私は、

残念でなりません……


正直、あなたのことを少し

可哀想だとも思っているのです」


「人間の肉体を得たいと願った

あなた、いいえ、あなた達は

何を思っていたのでしょうか?


そして、二十年の時を経て

不幸にも事故に遭って

ここに来ることになったあなた達が


もし、あの時、死んでいなかったら


もし人間世界で

この先何十年かを生き続けていたのなら


あなた達でも、

少しぐらいは、人間性の欠片ぐらいは

手にすることが出来たのでしょうか?


あなた達の可能性が

たった二十年で潰えてしまったことが、

残念でもあり、可哀想にも思うのですよ」


天界の兵士達は

異世界に転生をしたかった青年を

連行していった。



これでこの大事件は

なんとか解決した筈なのだが、


まだアリエーネには

不安な気持ちが無い訳ではない。


神々すらをも呑み込むかもしれない

そんな存在が、このまま大人しく永久に

無限牢獄に囚われているだろうか?


なにせ無理矢理自力で

勇者になったような存在なのだから


いつまた脱獄するかも分からない


ただ、そうなった時には

もう誰も止められる者はいないから


みんなで無にすしかない


そんなことを思うアリエーネなのであった。


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ねらわれた異世界 -魔王都市と死霊術師の勇者- ウロノロムロ @yuminokidossun

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