全異世界、消滅の危機
すべてを無に帰す
「人間の女よ、
お前が一番、俺を
追い詰めたのではないかな
なにせ俺を一度殺したのだからな」
勇者を剣で刺し、
殺した人間の女兵士は
四肢の無い状態で倒れ、
胸に剣を突き立てられて死んでいる。
「まさか、
この能力を使うことになるとは、
思ってもいなかった……」
勇者は一度完全に死んだ。
『バックアップ機能』
だが、万一の事態に備えて
事前に異空間に置いてあった
バックアップデータで肉体を再生さた為、
なんとか復活を果たすことは出来た。
「まぁ、だが
お陰で思い出せた……
俺が、俺達が、
何であったのかをな……
今まで思い出せなかったが
脳内にはあったデータを
バックアップを使う際に
再度すべて読み込んだからな」
横ですでに息絶えて死んでいる人間の女に
まるで語り掛けるように
勇者は一人で話続けている。
「人間の女よ、お前のお陰で
次に俺が成すべきことも思い出せた……」
–
「そう、最初は
まったくの『無』だった
『無』のそばには
いつも『闇』があって
『無』は『闇』を呑み込んだ
いつからか
そこに『邪悪』があったので
『無』はこれも呑み込んだ
そしてやって来たのが
『人間達の悪意』だった
『無』はそれすらも呑み込んだんだ」
「『人間達の悪意』を
取り込んだせいなのか
俺は、俺達は、突然、
人間の肉体を得たくなった
そこで、俺は、俺達は、
自らを人間の魂に似た何かへと変質させ
人間の女の胎内に宿ることにする
その女からすれば
望まぬ妊娠だったのかもしれんがな」
「それで人間の形をして、
二十年近い時を過ごしたが
……お前達は情報があまりに多過ぎる
世界も人間も
刹那に変わり続けていて
一瞬たりとて、
同じ時、同じものは存在しない
人間は細胞ですらも
常に死に続け
常に再生し続ける
データが多過ぎるのだ、お前達は
いいや、すべての世界が」
「二十年が経とうとした時、
我々は事故で死んだ
事故の影響で
人間になる以前のことを
すっかり忘れていた我々は
気が付けば、転生の女神の前に居た
あの女神は、我々が
再び人間に転生することを拒絶したが
おそらくは我々の本質に
気づいていたのだろう」
「この膨大なデータで構築されている
ありとあらゆるものを
すべてを無に
この世界だけではなく
すべての全異世界を
神々すらも含めて
有るもの、存在するものすべてを
吞み込んで無に
それが、俺の、俺達の、
真の目的
成すべきこと、
成さなくてはならないこと
真の望み
いや、真の願い、か……」
–
「我々はここで
転移の能力を手に入れた
これから、この能力で
異世界を渡り歩き
すべての異世界を呑み込む
その次は、神々だ
すべてを無に
勇者はそう言うと
目の前に出現する転移ゲート、
その闇の中へと消えて行く。
すでに世界は滅び去っている。
「さようならだ、人間の女よ」
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