マルチアングル・バースト
四肢を失い、
勇者の重力制御能力によって
空高く浮いている魔王。
「その体でもなお、
あなたの不屈の魂は
生き延びようとするかもしれません
前回の私のように
瞬間移動という手もありますからね
あなたを確実に仕留める為に
ここは私も最善を尽くすべきでしょう」
『時間停止』
まさしくこの世界の時を止めた勇者。
時が止まった世界の中で動けるのは
勇者と勇者が発動した能力のみ。
「時間も数秒に限られていますし、
そう頻繁に使えるものではありませんので
トドメの時に使おうと
最初から決めていたのです
あなたの動きを完全に止めて
トドメを刺す為に」
勇者は改めて、
時の止まった世界で
空に浮かんでいる魔王を見上げた。
「同じ人間世界の出身者として、
あなたには最大の敬意を表すとしましょう
この異世界に、
人間世界の文明社会を
持ち込もうとしたあなたには
ある意味、
最も相応しいのかもしれませんが」
–
『
時が止まった世界で
一人宙に浮く魔王。
その周囲を遠巻きに
取り囲むように浮かび上がる
おびただしい数の紋様。
「あなたがどれぐらい
不死身なのかは分かりませんが、
これだけの数が直撃すれば、さすがに」
ゲートを通過して出現する
白く細長い流線型。
「人がつくりし
最近にして最凶
これだけの時を経て
今なおこれを超える大量虐殺兵器は
生み出されていないと言う
人類兵器史上の最高傑作……」
無数とも思えるミサイルが高速で
一斉に魔王へと直撃する。
『
閃光と共に広がる大爆発。
それは周囲数十キロメートルにも渡る。
その衝撃は
地上を激震させ、揺るがし、
爆風が大地を吹き飛ばす。
その後、大気中に舞い上がった粉塵が
黒い雨となって降り続いていく。
−
魔王に勝利した勇者は
戦場を後にする。
まだ生き残っている者もいるだろうが、
いずれこの世界は完全に滅ぶ。
目的を達成した勇者は
当てどなく歩き続けている。
巻き上げられた
土埃が、砂塵が、空気中を舞い、
ほとんど何も視界には入っていない。
振動の余韻で気配もよく分からない。
爆音の後で耳も若干遠い、
鼓膜が破れたのかもしれない。
単なる偶然にしては
すべての条件が重なっていた。
それをただの幸運で
片付けてしまってよいのか?
誰かの大いなる意思によって
つくり出された決定的な瞬間なのか?
それも定かではない。
ただ、事実として分かっていること。
――勇者は後ろから剣で刺された
「グッ!!」
剣は勇者の鎧の継ぎ目から
土手っ腹を貫通して刺さっている。
その箇所をピンポイントで刺す、
それもまた奇跡に近い。
吐血する勇者。
ゆっくり振り返ると、
そこには勇者に左腕を奪われた
女兵士が立っていた。
「おっ、お前はっ、
…………誰だ?」
もちろん勇者は
そんな女のことなど覚えてはいない。
最初にこの世界に転生して来た際に
剣の試し切りをしただけの関わりだ。
勇者からすれば、
わざわざ覚えているようなことではない。
「お前はっ! お前だけはっ!
生きていてはいけないんだっ!
絶対っ、生かしておいては
いけない奴なんだっ!!」
鬼のような形相で
涙を流している元女兵士。
「……そうか、
この世界も拒絶するのかっ、俺を……」
「……そうか、
それが人間と言うものか……」
口から血を吐き、崩れ落ちる勇者。
そのまま倒れ込み、
勇者は死んだ。
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