絶対的スルースキル

「貴様だけは、許さんっ!!」


渾身の剣を振るう魔王。


音速を超える衝撃波

ソニックブームが地を切り裂いて

勇者に迫る。


直撃するかと思われた瞬間。


突如、真っ暗な闇が

勇者の前に現れ、

衝撃波を呑み込む。


何の変哲も無い

ただの大きな黒い円。


しかしそのふちには紋様が描かれている。


『転移スルー』


これもまた

異世界へと繋がるゲートであり、

敵が放つ遠距離、中距離攻撃は

すべてこの中に消えて行く。


肉の盾のように、丸ごと

一刀両断されることもない。


破壊することも、

切り裂くことも出来ない闇。


すべての攻撃は

ただ呑み込まれて消えて行くだけ。


そして、このゲートの先に

繋がっている筈の異世界、

それがどこなのかは誰にも分からない。



「これならばっ!」


魔王は再度ソニックブームを放つと、

続け様に魔法攻撃を連続発動させる。


魔法攻撃は一旦横に大きく外れて

カーブを描きながら勇者を狙う。


正面からのソニックブーム、

両サイドと上方からの魔法攻撃。


変則的な軌道を含めた

四方からの同時攻撃であれば、

さすがにすべてを防ぐことは出来ない筈、

魔王はそう考えた。


だが、転移ゲートは四面すべてに出現し、

これをあっさり呑み込んだ。


禁忌の能力『転移スルー』が持つ

絶対的なスルースキル。


決して勇者に攻撃が当たることはない。


「私を狙っている限り、

貴様の攻撃はすべて私に向かって来る、

それを防ぐのは難しいことではない」


当たり前のことを言っているが、

確かにそれは真理である。


どんな軌道を描く攻撃であろうとも

最終的には勇者の元にやって来る。


であれば、軌道は無視して、

自分の周囲を固めればそれで済む。



魔法攻撃ですらも

ゲートに呑み込まれた魔王は、


近接戦闘に切り替えて、

地を蹴り、一気に間合いを詰める。


脅威的な瞬発力により

一瞬で勇者の懐に入った魔王は

右の手に握る剣を振るう。


だが、ここでも

転移のゲートが魔王の攻撃を遮った。


魔王の剣が当たる瞬間、

ゲートを出現させた勇者。


勢いよく振り下ろした右腕を

魔王が停められる筈も無く、


魔王の右腕は剣と共に

その闇の中へと突っ込む。


そこでゲートが閉じられた為、

魔王の右腕と剣はそのまま

どこかの異世界に転移したまま、

もう二度とは戻らぬことになる。


「グッ!!」


思わず呻き声を上げる魔王。


右腕のその先は

もうこの世界には存在していない。



「もういいだろう、魔王よ

このまま大人しく殺されてくれ」


「まだ、まだだ、

我にはまだ左腕も、

両脚も残されている」


「いや、もう無いんだよ

君の両腕も、両脚も」


「なっ!?」


そこで魔王は自らの異変に気づく。


確かに両の腕も、両脚も、

体から切り離されている。


それは切断された訳ではなく、

分子レベルで分解されて

切り離されたと言った方がいい。


『分子分解』


これもまた禁忌の能力の一つ。


勇者が触れたものを

意のままに分解出来る能力。


勇者は魔王の右腕が

ゲートに呑み込まれた時に、

気づかれないように

魔王に触れていたのだ。



そして、もう一つの禁忌の能力は、

最初からすでに発動されていた。


『時間調整』


魔王の超スピードに対応する為に

勇者は自らの時間速度を早め、

魔王の時間速度が遅くなるよう

時の進行速度を調整していた。


いくつかある禁忌の能力、

それらはすべて、

神々にも等しい力を持つ。


「ここまでだよ、魔王」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る