うすあじのどあめ(おまけ的な)。
わたくしごとならぬ僕ごとで、
実は、人生初の恋人が出来た。
僕に彼女が出来たのだ(あれ? ファンファーレは?)。
その恋人とは、僕が大好きで大好きで。どうしようもなく大好きな彼女——晴後フウチである。
銀髪で。可愛くて。照れ屋で。年上で。
甘えたがりで。構ってちゃん。
年上だけれど、性格は年下のように感じてしまったりするが、やはりお姉さん属性持ちなのだと思えることは当然あって、なにげに結構積極的な一面があることだろう。
あるいは僕を理解してくれているから、僕に任せていては、一生経っても告白を先延ばし先延ばしにする——と。そう思った結果、積極的にならざるを得なかったのかもしれないが。そう思われたなら、男子として非常に情けなくもなるが、そう思ってまでも僕から告白されたい、と。願ってくれていたのだとすれば、
先日、僕はフウチに告白をした。好きだと伝えた。伝えてから、初めてキスをした。厳密に言えば兄妹の黒歴史が存在するが、当然ノーカウントにしているので、僕の人生ファーストキスで間違いない。
タブレット端末に『キスして』、と。そう書いて僕が逃げ場を作らないように、フウチは先手を打って来たのだ。まったく、僕のことを理解しているよ。本当に。
もし先日、そのようなリクエストを頂戴しなければ、きっと僕は告白出来なかったと思う。なにせチキンメンタルが発動していたからな。いつか言う——と。そうやって逃げていた可能性は否定出来まい。
そんな風に自分を無理矢理でも納得させることは、ある意味僕の特技のようなものだからな。
まあ特技というか、単にヘタレなだけなのだが。
僕のヘタレ具合を理解して、僕に告白するきっかけをくれたのだ、フウチは。
素敵過ぎるぜ。僕の惚れた女の子は。
端的に言ってしまえばただの自慢だ。
僕の惚れた、人生初の恋人を自慢しているだけである。可愛いだろ僕の彼女的な自慢。
先日のキスは、数日明けても覚えているぜ。
直前に僕があーんしたのど飴の味がしたことも含めて、しっかりと鮮明に記憶している。
とまあ、こんな具合に内心、自慢を繰り返していると、万が一この内心が誰かに知れてしまった場合、爆発を願われてしまうだろうし、暗殺されてしまうかもしれないので、我が身可愛さにこの辺で僕の彼女最高に可愛いんだぜ自慢は終わりにしよう。
いったん、終わりにしよう。ふふふ。
そんな僕は、爆発を願われているであろう僕は——あるいは暗殺に怯えながら——、現在学校に向かっている。
時刻は、朝の九時に迫る時間である。
夏場なので、この時間でも既に暑い。
夏休み中ではあるのだが、諸事情によって学校に行かねばならないのだ。諸事情というか、単なる補習なのだが。
夏休みに入る前、これこそ諸事情で学校を休み続けたことから、僕は期末試験を受けていないのだ。
ぶっちゃけズル休みみたいなものなので、補習を受けることに不満もないしな。
熱が下がってからも学校に行かなかった僕が悪いだけのこと。補習は単なる自業自得だ。その結果、夏休みの半数以上が補習になってしまったけれど(なにせ全教科なので)、自業自得ならば文句の言いようがないし、文句を言える立場でもないからな。大人しく補習を受けるさ。
学校に向かい、歩く。夏も本格的に真夏に突入しており、かなりの暑さ。歩いているのもしんどくなる暑さなのだが、僕はそれでも学校を目指して、歩き続ける。
夏なのでワイシャツ一枚。手に持った
こんなことなら、教科書を学校に置きっぱなしにしておけば良かったとも思ってしまうが、僕は教科書を置きっぱなしにしたくない派なので、毎日持ち帰っている。
置きっぱなしにしたくない派とか、なかなか真面目だな僕——と。自画自賛したくもなる派閥だが、しかし僕が教科書を毎日持ち帰るのは、中学時代から今年まで(つい最近まで)、ぼっちだったからであり、つまり教科書を置きっぱなしにしてしまうと、家でやることがなくなってしまうから、なのだ。
机が友達だった。いやまあ、机は僕を友達だと思ってはくれまいが。一方通行の友情だったのだろうが。
そう考えてみると、ここ最近の僕のリア充っぷりはなかなかどうして、立派なものがあるぜ。
馬鹿な親友が居て、生意気な後輩が居て。
驚くべきことに、恋人まで居るのだから。
ともすれば、あの頃の僕が(ぼっち時代の僕が)、現在のこの充実した僕を目にしたら、いの一番に爆発を懇願し、暗殺に乗り出すかもしれない(とすら思える)。
良かった良かった。あの頃の僕が今の僕を知る方法が存在しなくて、本当に良かった。
そんなことを思いながら、校門を通過して
補習が終わったら持ち帰ることにしよう。さすがに。
靴を履き替えた僕は、教室に向かう。クーラーが設置されているので、教室に入ればこの暑さともおさらばだぜ——と。途中、校内の自販機に寄り、飲み物を買い(もちろん二本買い)、教室のスライドドアを開ける——ガラガラ。
「暑…………」
誰も居なかった。誰も居なかったので、教室に入れば暑さとおさらば出来るという僕の予定は、早速破綻した。
仕方ないので教室にあるクーラーのリモコンを操作して、部屋が冷えるのを待つことにしよう。
エアコンを起動させて、席に着く。教室にこもった暑さの影響で、誰も座っていなかった僕の椅子が結構暖かく、早く冷えねえかなあ、と。机に寄り掛かり、ぐたあ——とする。溶けたように。
だが、さすが教室のエアコン。
業務用エアコンというパワーのおかげもあり、十分ほどする頃には、暑さもだいぶ緩和した。とは言え、まだ暑いことには違いないけれど、外と比べればかなり涼しいし、入室直後とは比べものにならないくらい、冷んやりしてきた。
ガラガラ——と。
僕が教室の冷え具合と業務用エアコンの力強さを称賛したりしていると、教室のドアが開いた。
「おはよう」
僕はドアを開けた人物——これから夏休みの半分以上、補習を共にするパートナーに挨拶をする。
補習を共にして——これからも共にありたい。
そんなパートナー。僕の恋人に、挨拶。
『おはよう。詩色くん』
僕の言葉に、彼女——
別に声が出せないわけじゃあない。
ならフウチが声を出さずに、筆談を
今、特訓しているらしい。家で小説や漫画を音読して、猛特訓していると僕は聞いている。
フウチの座席は、僕の隣。
開けたドアをゆっくり閉めて、僕の隣にてくてく歩いてくる。夏服が素敵過ぎるぜ。思えば夏服になってから、フウチの制服姿を見るのは初めてなのだ。諸事情あって、な。
だからその夏服。半袖の制服と生地が薄くなったスカートに、目を奪われてしまう。トレードマークの銀髪もキラキラしていて、教室に差込む陽光がとても良く似合う。
『……なに?』
僕が着席してフウチをアホみたいに見つめていると、着席をしたフウチが僕に問うた。
「い、いや……、その。夏服、似合うなあって」
恋人——そうは言ってもまだ日は浅い。もともと口下手の僕は、恋人関係になろうとも上がってしまう。ドキドキする。
『……ありがと。えへへ』
タブレットに書き、僕に向けるその表情。頬を赤くして、口元を隠すように向けてくる。まるで進展していないように思われるかもしれないが、互いに目を見て話せるようになったことは、とても大きな進展で、僕とフウチの進歩だろう。
「あ、そうだ。これどうぞ」
思い出したかのように僕は、鞄からさっき買った飲み物を取り出した。買ったのは、僕用にコーヒー(微糖)。フウチ用にコーヒー(カフェオレ)。
カフェオレを渡した。
『ありがとう……』
と。受け取ったフウチは、冷たい缶で頬を冷やすようにしてから、
『あのね……?』
と。書いた。
そしてフウチも鞄から飲み物を取り出し、僕に。
「はは」
思わず笑みが溢れる。フウチが渡してくれたのは、僕が僕用に買った飲み物と同じドリンク。微糖のコーヒーだった。
「ありがとう。もしかして?」
『うん……えへへ』
もしかして——僕が言うと、フウチは鞄から僕が渡したカフェオレと同じものを取り出した。
「考えること、一緒かよ」
互いに同じドリンクを購入して、互いに同じドリンクを渡そう——と。どうやら僕たちの考えは同じだったらしい。互いにドリンクを交換して、僕はフウチの体調を確認する。
「喉の調子はどうだ? 平気?」
実はフウチが声を出せるようになってから、僕は一緒に病院に行っている。
診断の結果、喉に問題はない——が、やはり年単位で声を出せずにいた影響は少し存在して、あまり大きな声を出すことは控えるように、と。そのように医師から言われている。
普通の生活をするぶんには意識することはないかもしれないが、発声をする——それだけでも筋肉を使っているのだ。つまり、年単位で声を出せずにいたフウチは、発声に使用する筋肉が少なからず衰えていることになる。
とは言え、これから普通に生活して、そして普通に発声をしていけば筋肉はしっかりと元に戻るので、その辺の心配はいらない。いきなり大声を出すと、
そう考えてみると、フウチが声を出せるようになったきっかけの叫びは、かなりの荒治療だと言わざるを得なく、もちろん僕はきちんとフウチに謝罪している。まあ、結果オーライと言ってもらえたので、僕は感謝することしか出来なかったが。
ともあれ、フウチの声帯、そして喉については、問題はない。一安心できる状態である。
僕からの問いに対して(喉の調子どうだ? に対して)、フウチはコクリと
『うん。全然大丈夫だよっ! 発音練習がんばってるよ!』
と。書いた。あまり無理して欲しくはないが、フウチはみんなとお喋りしたいと努力しているので、ならば僕は応援することしか出来まい。
「のど飴ならいつでも言ってくれよ」
僕が出来ることは、これくらいだろう。なにも出来ないよりも、そしてなにもしないよりも良いだろうしな。のど飴を持ち歩くことにしているのだ。
『ありがとう』
「のど飴食う?」
『じゃあ……うん』
フウチは書き向けたまま、小さな口をひと口ぶん開いた。あーんの要求だ。
可愛いから思わず笑ってしまった僕は、
『ぱくり』
少し指を食われたが、無事のど飴をフウチの口に届けるミッションを完了したぜ。
そんな風に思っていたら、フウチは、
『……うーん』
と。なにやら首を
「のど飴、それじゃないやつが良かったか?」
味が不満だったのだろうか。だとすれば僕のミスだ。これはすぐにでも新しいのど飴を買いにコンビニに走り出して、なんなら売っているのど飴を全種類コンプリートせねばなるまい——と。僕がパシリの才能を開花させそうになっていると、フウチは、自分の人差し指を唇に触れさせ、照れ臭そうに、書いた。
可愛く尖らせた唇を人差し指でなぞるようにして、頬を赤く染めながら、タブレット端末を僕に向けて来る。
『……ここに味が足りないなあって』
うすあじのどあめ。終わり。
星だけでいいんで、貰えると嬉しいです。
てか、くださいアヒャヒャ(゚∀゚)/⭐︎
可愛ければ筆談でもいい? ふりすくん @tanamithi
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