秘密のノート

第4話

「……」

　尊は黙ってしまった。

「尊。 私の方が先に嘘ついたんだ。弟が部屋に入ってきても、ノートは多分読んだりしない。尊に預ける必要なんて本当はなかったの」

　尊は、

「……うん。どこかでそうかもしれないとは思ってた」

　と言った。

「なら、どうしてノート預かってくれてたの？」

「青子の大切なノートなんだろ？

……違うな」

　尊はふぅと息を吐いた。

「ごめん。嘘ついた。俺、家で偶然ノート落としちゃって。それで拾う時に俺の名前が書いてあるのを見てしまったんだ」

「……うん」

「それで、誘惑に負けて、ノートを見た」

　尊は私を見ずに言った。私はこの後どう転ぶか分からない運命を受け入れるように、

「そっか」

　と言葉を吐いた。

「気持ち悪かったでしょ？」

　私の言葉に、

「それはない！」

　と尊は即答してくれた。私はそれだけで泣きそうになった。

「尊は、何でノートの通りにしてくれたの？」

「嬉しかったんだ。青子が俺のことを好きって分かって。それで、青子が喜ぶならと思ったんだ」

　ノートには日記のようなものが書いてあった。尊と出会った日から、特別な日を書き記していた。それだけでなく、未来で、尊とこんなことがあればいいな、と思うことを書いていた。最近の尊はノートに書いてある通りに行動してくれていたのだ。

「でも、読みながら、本当は見てはいけないものなのにと思うと、申し訳なかった。ただ、それ以上に青子を幸せにしたかった。だからノートを返せなかったし、ノートを見てないと嘘をついた。このノートには青子を幸せにできる答えがたくさん詰まっていたから」

「ノートを見たのは尊が悪いんじゃない。私が見るように仕向けたんだから。

大きなかけだったの。嫌われるかもしれない。でも、想いが伝わるかもしれない。もしくは、何も起こらないかもしれない」

　すっかり日が傾いた教室の中で、私と尊はそれぞれの想いで言葉を紡ぐことがなかなかできなくなった。でも、私はノートに頼るんじゃなくて、言わなければいけない。

「尊。私、尊のことが小学生のときからずっと好きなの」

　尊は、

「うん。伝わってるよ」

　と言って、あのノートを私に返した。

「本当は、ノートを見た時点で俺から言うべきだった。

これからはこのノートからじゃなくて、直接青子から情報をもらおうと思う。青子を幸せにする情報。

青子、俺と付き合ってくれ」

　私は信じられない思いでノートを受け取り、半泣きで微笑んだ。

「本当に？　私でいいの？」

「青子が好きなんだ」

「嬉しい！」

　　　　　　　　　　　　了