05 &α

「かんどり」


「うん?」


「涅槃と華。あれでよかったのか。本当に」


「いいの。涅槃なんて、存在しない。そう思わせてあげたほうが、ふたりにとって、幸せだから」


「残酷だな。追ってきたものを、あいつは二度と見れなくなる」


「それでも、生きることはできる。夢を追って死ぬよりも、現実に生きるほうが幸せだわ」


「おまえが言うと説得力があるな」


「あなたみたいに、夢に一途に生きるのは、難しいのよ」


「まあ、俺には不死鳥が付いてるからな」


「わたしも、いつかは死ぬわ。無敵じゃないし、不死でもない」


「分かってるよ」


「そうやって死ぬ、その瞬間まで。あなたのことを考えていたい」


「そうか」


「どんな写真になったの?」


「ほら」


一輪の、華。


「え。二人が写ってない。それに、アトリエ全体の華も。なんで」


「全体を撮っても意味はない。あいつが涅槃の華を思って配置したという、その一つの想いだけで。この写真は完成している」


「わっかんないなあ」


「おまえだって。自分の身体は撮られたくないだろ。それと同じさ。夢と幻想は、心の中にあるからこそ美しい」

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涅槃の華 (夢と幻想 連作Ⅱ) 春嵐 @aiot3110

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