ストレス

向日葵椎

ストレス

 何にも、何にもない白い世界でした。

「びったんたん、びったんたん」

 寝転がってうたいます。

 ちょっとヤケクソになった末にいつのまにかここにいました。

「びったたたたん、おああ、びったんたん」

 ヤケクソです。ヤケクソのうたです。

 残念です。かわいそうなうたです。

 さて、そんなときちょっとだけ遊びました。

「びったん炭鉱、びったん炭鉱」

 ちょっと変えましたが大して面白くもありません。

 しかし、気づくと地面が揺れています。

 ぐらぐら、ぐらぐら。

 起き上がってあたりを見渡しておりますと、驚き。

 目の前で何かがすさまじい勢いで下から上に、白い地面から白い空へとぐんぐん伸びていくではありませんか。

 あっ、巻き込まれる。

 下から伸びる不思議なものは最初はあまり太くなかったのですが、それが徐々に太くなっていったのです。

 岩山でした。

 しかしそう思ったときには視界がくるくる転がって、白だか山の黒だかがよくわかりません。

 くるくる、くるくる。

 最初は楽しかったのですが、そろそろ飽きてきました。

 しかしそれもながくはつづかず、すぐに尻もちをつきました。

 視界がぐらぐらするのが収まって、目の前にはつるはしがありました。

「つるはしだ」

 つるはしですね。

 すぐに手にもって近くの岩につきたてます。

 カッチン、カッチン。

 楽しいですね。

 ふと、あたりを見ます。

 猫です。猫がつるはしを持って岩につきたてています。

 それもたくさんいます。十や二十どころではありません。

 なんで猫なのでしょうか。

 そうです。

 こういうときには猫を出しておけばいいんです。

 かわいいですからね。

 さて、それから自分も岩をたたいておりますと、何か音がきこえます。

 ごう、ごう。低くうなるような音です。

 気にしながらもつるはしを振り上げます。

「あぶない、にげよう、にげよう」

 そんな声がきこえました。

 声のしたほうを見ますと、洞窟の入り口から出てきた猫が叫びながら走っていくではありませんか。

 語尾に「にゃん」をつけないんだな。

 そう思いました。

 でもそれどころではない事態みたいです。

 つるはしを持っていた猫たちも、それに気づくと散り散りに走っていきます。

「にゃん」

 言ってみました。

 やっぱり足りないような気がしたからです。

 そうして満足していました。

 さて、洞窟からすぐに、半透明の黄緑色の液体がどっと流れてきます。

 すぐに足元がつかり、膝がつかり、腰がつかります。

「しゅわしゅわだ」

 そうです。

 この液体を見ていますと、気泡が次々のぼってきているのがわかります。

 ついに指につけて舐めました。

「おいしい」

 どうやら液体の正体はエナジードリンクだったようです。

「いっぱいある」

 泳げるほどです。

 うれしくなって泳ぎました。

 飲みながら泳ぎました。

「ちょっと、ちょっと」

 声がします。

「さっちゃんだ」

 幼馴染のさっちゃんでした。

 手漕ぎボートに乗っています。

 しばらく会っていないけど、ワイシャツにスラックスだけどわかります。

 なんでこんなところにいるのでしょう。

「ちょっと、だめよ。そのしゅわしゅわには有毒ガスが混じってるんだから」

「もうおそいよ」

「吐いて、それから乗って」

「乗ってから吐いてはだめかい」

「それはだめよ。毒を吐くほうが先なんだから」

「えー、先に乗りたいんだけど」

「もう。ほら、そんなこと言ってるから手おくれになってるじゃない」

 そんなことを言われましたものだから、自分の手を見ます。

「あっ、肉球だ」

 手のひらにはピンクの肉球がありました。

 あと白や茶色の毛がふさふさしています。

「あーもう、猫になっちゃったじゃない」

「いいんじゃない、たまには――にゃん」

「なりきろうとしないの」

 さて、そんなことを話しているうちにエナジードリンクの海の流れが速くなります。どこかへ向かって流れています。

「乗って」

 さっちゃんは言いました。

 最後にちょっとエナジードリンクを舐めてからボートによじ登ります。

「まったくもう、毒だと言ったろうに」

「もう猫だし」

「もどりづらくなるぞ」

 人間へでしょうか。

 ボートはどんどん進んでいきます。

 岩山はとっくの後ろで黒い点になっています。

 白です。白い世界です。

「そういえばさ、さっちゃんはどうしてここに」

「そりゃああれよ、超能力者だからだよ」

「あーやっぱり」

「あれ、もう話してたっけ」

「いや、ほら前にさ、さっちゃん給食のピーマンにピーマンビームしてたじゃない。だから、そうかなって思ってた」

「あーあれね。今でも使う技だわ。けっこう便利」

 さて、ボートが進む先のほうを見ておりますと、なんだか光り輝いております。

 何かあるのでしょうか。

「あそこは」

「いってみればわかるよ」

 少し胸が苦しくなってきました。

「いきたくないような気がする」

「大丈夫だよ」

 少しこわいような気がします。

「もどったらきっとつらい」

「なんだ。もどるってわかってたか」

「もうね。なんとなく」

「だがな、もどるんじゃない、すすむんだ。どうだ、かっこいいだろ」

「かっこいいっす。はんぱねえっす」

 もう光の出どころにぶつかりそうです。

「あ、そういえば。ひさしぶり。じゃあ」

「またどっかで会うだろ。こっちもいいが、むこうは想像以上だからな」

「めっちゃスタイルいいとか」

「ばかやろう」

 頭をはたかれた。

 目が覚めた。

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