番外篇・アンドロギュヌスの雛
ミロクのモノローグ①めざめを知らぬ雛
本日のアタシは、どの角度から見ても
あしらわれたトーションレースとピンタックが甘やかな少女性を醸す
マダム・チェルシーから頂いた栗色のスーパーロングのエクステンションを付けて、ちょっぴり筋肉質過ぎてイヤになっちゃう足を肌の透けない黒いタイツで
二十五・五センチの黒いストラップシューズ。
幼年時代、
不謹慎よね。
お約束の地へ向かうアタシは、
今日は、おともだちに逢うの。
おともだち、麗しの百合、
『ミロクちゃん、高校生活は
元気にしているかなって
ところで、マダム・チェルシーは、どれだけ海外が気に入った? 永住する気なのかな!? 凱旋ライヴを待っていたら僕たち、おばあちゃんに
もし、よかったらなんだけど、お店とライヴ以外で逢いませんか? 食事でも一緒に
感動しちゃった。マダム・チェルシーの
あっ、アタシは月彦さんに恋愛感情なんてもの、持ち合わせていなくってよ。
月彦さんには、日芽子ちゃんっていう小動物系のキュートな彼女が居らっしゃいます。おふたりの蜜月を邪魔する気ないの。
『月彦さん、ごきげんよう。お誘い嬉しゅうございます。
お恥ずかしいことにアタシ、コスメとヴィンテージのお洋服を買い過ぎて、貧血じゃなく金欠気味でございますの。ですから、
アタシの希望どおり、月彦さんは適正価格のファミリーレストランを待ち合わせ場所に指定してくれた。そのレストランには
かつて、マダム・チェルシーが日本国でライヴをしていたころ、うちあげが開催されたレストランだったの。
★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜★
アタシがマダム・チェルシーのライヴに通い始めたのは、中学三年生の夏だった。
学生生活と家庭生活の両面でストレスを溜めていて、発散可能なライヴという場が必要だったのよね。
アタシは公立中学の校風に馴染めなくて、家庭では良い息子さんで居るのも窮屈で、学校でも家でも、ひとりきりって気がしていた。
夏期休暇中、大切にトリートメントして伸ばした髪が
ねぇ、どうして男の子が髪を伸ばすと変な目で見られちゃうの?
法律で決まっているわけではないけれど、世間一般の常識とか校則とかが、アタシの姿を異端な者として
申し遅れたワ。アタシ、男の子なんだけど、女の子に憧れているのです。
厳密には女の子の
性的嗜好が男の子を求めているのではないのよ。
と云うか、当時、まだ十五歳だったから、
めざめを知らないのね。性というものに。
十八歳の
周囲のめざめきった男子とアタシは別のイキモノだと思う。
同調できないの。だから、ひとりきりって感じるのよね。
教員って
校則に従わないアタシに「処分」をチラつかせてきたワ。
アタシは
親の面目を気にして自主的に泣く泣く髪を切るなんて、アタシって超絶、話の分かる良い子でしょう?
ショートボブでメソメソしていたら、マダム・チェルシーが、愛用のエクステンション(自毛に
世界が変わったワ。
アタシ、堂々と空を仰いで生きていけそうな自己肯定感に充たされた。
エクステをシール装着して、休日はレディース・ファッションに身を包む
両親は異分子を認めたくない目でチラ見するばかり。
でも、久し振りに遊びに来たおばあちゃんは違った。
真っ直ぐにアタシを見て肯定してくれる。
「あらあら、ハジメちゃん。髪が伸びて
これ、エクステですけれど、そんなに自然に見えて!?
「ハジメちゃんは、どんな
ともあれ、おばあちゃんの言葉に慰められた。
母方の祖母と、ライヴで逢えるマダム・チェルシーが、アタシの心の支え。
そうそう、ハジメちゃんって、アタシのことよ。
本名、
ライヴ・ネームは、ミロク。
両親に与えられた名前と、自分が与えた名前。
アタシはミロクに少女性を託した。
キャッ、自分語りが長くなったワ。イヤね、女の子って。
だけど、もう少し女の子の回想にお付き合いくださいませ。
話しておかなきゃ。
アタシにとって、マダム・チェルシーが、神サマだってこと。
『ミロクのモノローグ②
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