5.ドラッグストアは愛の器
同棲への
「愛する人が現れたのです。私の人生に、ようやく。彼と一緒に住みたい。いけませんか?」
自分で言うのも何ですが、お嬢様育ちです。蝶よ花よと育てられ、二十五歳に成りました。ふたつ下の妹には既に両想いの彼氏が居て、一刻も早くゴールインしたいもようです。上から順に片付かなくてはなどという、古いしきたりに
「
「おめでとう! ヒメちゃんも、ようやくアオハルする気になったのね」
「お姉ちゃん、頑張ってね。応援するよ」
そんな調子で、あたたかく追い出され、いいえ、送り出されました。
私は、あえて言いませんでした。
愛する人が女性だということを。
「
事実でした。
五十代の店長の目に、月彦は
「ドラッグストアって、
どうやら妹は、御盛んなお年ごろなのです。
「ねぇ、どっちが先に挙式するか競争しよう」
御盛ん極まりない競争を持ち掛けられました。
「お互い頑張ろうね」
返す私。何を頑張るのか分かりませんが、嫁ぐような気持ちで舘林家に、やって参りました。
表札は三名の家族構成ですが、父の修一さんは海外に単身赴任中で長期不在。オートロックの厳重セキュリティーのレジデンス。その一室に住まうのは、母・茉祐子さんと、娘・月子さん。
「
店長の目は、お幸せでございます。月彦を、ヴィジュアル系バンドマンを目指す青年と認識して疑わないのですから。
しかし、
「ちょっと待ってよ。
三十代のキャリアウーマンな先輩に、心配されました。
「櫻井さん、レズビアンだったのかしら。一緒に居て、そんなふうには感じなかったけれど」
私は率直に言い放ちます。
「人を好きになるときは性別なんて超えていくものです。今回、好きになった人が女の子だっただけ」
「……そうよね。世の中には色んな愛のカタチがある。OKだわ」
この職場は大きい愛の器です。
同棲を始めることにより、少しばかり遠方からの通勤になりましたが、店長に交通費が倍かかるから辞めてくださいと言われることも、同僚に百合な愛を否定されることも無く、私はバイトーハンとして勤務しています。
バイトーハンとは、アルバイトの登録販売者のことです。
ドラッグストアは何でも縮めて表現するのが好きな業界。
たとえば
順にドラッグストア、基礎化粧品、男性化粧品、薬剤師のことです。
薬剤師が店長の場合、往々にしてヤクザ店長と呼ばれます。
どんなに優しい
ちなみに当店の店長は登録販売者です。
「同じ資格を持つ者同士だ。櫻井さんのことは、同じ土俵に立つ者同士と思っているよ」
私の人格を尊重しているのか、部下への教育を放棄しているのか、よく分からないことを言いながらもフレンドリーな店長でした。私が社割でゼロカロリーゼリーを買うことに対し、
「櫻井さんは、こんなもの必要ないと思うけど。仕事きついかな? 少し小さくなったよね。オレたち、一応、美と健康に奉仕する職種なわけだから
と、体調を気遣う優しさを持ち合わせています。しかし、ゼロカロリーゼリーを食するのは私ではなく月彦です。こういう発言は九十八パーセント反感を買いますが、私は食べても肥らない体質なのです。
月彦と同居を始めてから幾分、小さくなったのは事実でしょうか。アノレキシアとは決して感染する病ではありませんが、食べないことが当たり前の彼と暮らしていると、徐々に食べなくても平気になってきて、不思議なものでした。
「大丈夫です。私は
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