4.アンドロギュヌスなキミ
ご予約の夏の日から四ヶ月後。
「たいへんお待たせ致しました。ご予約頂きましたトキメキ❤フルール・コレクション。いよいよ入荷しております。ご都合の良いお日にち、お時間に、お越しくださいませ。当店は年中無休です。営業時間は朝九時から夜九時まで。
別紙に記した、お決まりの
「店員さん、何度もかけてね。
その
「
お母様は、麗しのキミの名を「ツキコ」と発音しました。
一月初旬、マダムという形容が相応な品の良い女性が
「タテバヤシ・ツキコの母でございます」
キミの代理で、口紅とマニキュアをお買い上げ。
「ご予約の商品と、特典の化粧用コットンと、本年度のカレンダーです。あの、ツキ……コさんに、お大事に。お伝えください。お元気になられましたら、是非、また、お越しくださいませ」
紙袋に
「ありがとう。優しい店員さん。
快く伝言も預かってくださいました。
二月十四日、バレンタインデーに、
その姿を「降臨」と呼びましょう。うっとり
「いらっしゃいませ。お久し振りです。お元気そうですね」
悪意なく言いました。軽はずみな要素など無いはずでした。
しかし、キミは気分を損ねます。赤い唇を
「お元気そうって、肥ったってことだよね?」
「違うんです。口紅が、とてもお似合いで。唇の色が好もしくて、お元気そうという意味です」
「そういう意味か。ねぇ、僕、入院させられてね、三キロも肥らされちゃった。足が
電解質の異常で、一時的な
「今日はスカートなんですね。美しいです。アンドロギュヌスのように」
トキメキ❤フルール・コレクションのポスターの端に、天使が浮遊するイラストが描かれていました。アンドロギュヌス。性別を持たない天使を眺めて浮かんだ言葉でした。その言葉にキミは瞳を輝かせて、私の名札と顔を見詰めます。そして、何の前置きも無く告白するのです。
「
突然の告白を受けた私は、お客様とデートを重ねて、トントン拍子に愛を育んでおりました。
最初から分かっていたことです。
彼が
だけど私は、そんな区分けも嫌いなら、その呼称も大嫌いです。
だって、まったく障害じゃない。
デリカシーに欠ける呼称で、正常な人間を分類しようとしないでください。
重ねるデートの場は、騒がしくて入場料金の必要なアミューズメントパークやシアターではなく、無料施設ばかりでした。それは、彼が無職で私がアルバイトという
晴れの日は児童公園、雨の日は図書館が定番です。
或る休館日、待ち合わせた私たちに雨が降りました。傘を破るような
雨宿りの場を探します。道すがら、ファミリーレストランやファーストフード店が軒を連ねていますが、アノレキシアの彼を誘うことは
「僕の部屋に、おいでよ」
家に招き入れられました。彼のお母様に歓迎されました。
数日後、法的な意味を持たない玩具の指環を交換して、
麗しのキミと私の同棲生活が始まったのです。
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