第18話庭の手入れの高説講義

…合理的思考?そんな綺麗な言葉で表現できるものではなかったことだけは確かだった。

この世全ての公正を測る天秤を司る絶対的調停者でも全知全能の権能を持つ善の象徴でも理解はできないだろう彼女の「正義論」。

あまりにも尊大すぎたその持論は稀代のレアケースとして歴史に刻まれていったのだ…

主に未開の地の探索用具の設計理論、その原型として。


「…それで霜月女史はこの説に関してどういう見解を元に読み解くのがいいと考えるかね?」

彼女たちが激論を交わすこのラボの中は寒々しい色調の光で満たされ、交わされる論理だけが己の存在を主張している。

この場においてはその簡素さこそがふさわしい。霜月は満足げに論争の先を続ける。

「そうね…"現行言語が気に入らなかったから新たな言語体系を組んでオーバーテクノロジー無双してやった”というところが肝かな。真面目にゼロから神話を丸ごと一本書き上げた敬虔な殉教者、と言えば聞こえはいいわね。」

おおぅ…と声にならぬ感嘆を漏らした霜月の同僚は思いもよらぬガチめな考察を持て余して肩をすくめる。

「それより貴女に頼んでおいた”教典”の解読と運用における基礎理論体系はできているの?」

霜月はおどけた様子で口笛を吹く真似をする彼女にキツめの視線を向けて釘を刺しておく。

「この区画は私の権限であらかじめ封鎖してあるから逃げられないわよ。観念しなさい。」

捉えようによっては「私の為に死ね」とすら同義の宣告。勿論そのとおりの意味で言っているのであろう。いつも通りの事だ。


その言葉を最初から想定済みな筈の彼女はやれやれといった様子で虎の子の解析データを献上する事を決めるしかなかった。

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水瓶座の時代の乙女たち”シーン・クロニクル” @sinati

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