第17話神託を受ける者の愉悦

「”魔女の夜”の奇跡」再来か…随分面倒な事になったものだな。

レポートに目を通した後、メルナは事態の詳しい顛末を聞く気力も無く天を仰いだ。

正直これ程の規模の儀式術式が今まで見過ごされていたとは夢にも思わなかった…

彼女の副官はその様子を何を感じるでもなく待っていた。大体こうなるだろうなと想定していたらしく動揺は無いようだ。

ちらっと視線を向けてそれを確認したメルナは事の次第を察して、示すべき所感を纏めようと思考を巡らせる。

”魔女の夜”…それは先天的に異能を有していた偉人や傑物の心的世界を複写して人々に取り込ませ、超常の力を発現させようという領域組成系魔術の総称またはそれが行使されている空間を示す言葉だ。

しかし、元々そのような超自然的な力を許容できる器というのは先天性の特質によるところが大きい。

それを”聖典”の強引な複写によってむりやり器の成型を成そうというのは魔術的、生物学的にも考えられないことだ。

それは金属成型用の薬品を紙風船に注ぐような愚挙と言っても間違いではないほどのこと。

そして神々の権能や天使の力を入れられる器を量産する事によって人々も救われると考えるのは人間の到達できぬ「楽園」の住人か人の理を外れて生きる仙人かどちらかだ。

どちらにせよ日々の日常を崩す存在に変わりは無い。

よってそれは救いをもたらす方法ではない。


そうして自前の論理武装を整え直したメルナは副官の持ってきた上からの指示書を破り捨てた。

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