コンビニss

@tamanomatatabi

コンビニの縁

 

「店長お疲れ様でした」アルバイトから色紙寄せ書きをもらい、なんともむず痒い思いをしたのはもう三日も前だ。

雇われ店長をしていた佐藤祐樹は、10年営業したコンビニを閉店することになり今は商品は無くガランとした店内と、10年分の書類と10年ため込んだ埃と汚れを最後だからと、ゴミ袋とモップで格闘していた。

書類の詰まったダンボールをカウンターの上に置きゴミ袋を入り口まで運び

腰をトントンと叩きさあ、残りは外のタイルを洗おうかとモップに手をかけようと思った時、携帯の着信音に気づいた。アルバイトの鈴木君からだ。


「店長すか?今日店います?」何かあったのか?と少し考えながら

「えーと、17時までいる予定だけど何かあった?」

「あー給料をとりに行こうと思って」なるほど何かトラブルでもあったのかと思いきやなんのことはない

「良いけど、今回は振り込みもできるよ」頭の中で給料をとりに行く段取りをしながら答えると

「なんか、太田さんと中村君もとりに行きたいって言ってたので、あと」

「店長寂しがってるかなと」


電話越しに少し茶化したような声で話てきた鈴木君に少しめんどくさそうに

まぁ、少しは寂しいよと答えながら、じゃまた後でと伝えると電話を切った。


 時計を見ると、午後1時を少し回ったとろなんとなくやる気を削がれてしまった佐藤は、給料をとりにいくついでに昼食でも取ろうか店の入り口の鍵を締め車に乗り込んだ。車で15分ほど走った所にもう一つのコンビニ店舗がある。

 『複数経営』コンビニ業界の今の経営戦略だ、競合ひしめくコンビニ業界で一店舗での利益確保が難しくなり、オーナーの利益の安定化のために複数の店舗を経営することで、利益を確保しているが、良いことばかりではないのが現状だアルバイトの補充と管理が必要になるそんな中できたシステムの一つが『給料の手渡し』だ。

3日で辞めるアルバイトもいれば3年と働いてくれるアルバイトもいる。

バックレ防止策として給料は手渡し、急にこなくなるけど給料は手渡しだから取りにくる時気まずいよねというものだ、効果があるのかないのかは定かではないが定着してしまったシステムだ。この面倒くさいシステムは果たして効果があったのか?そんなことを考えているうちに、店舗についた。


レジにいるアルバイトにバックルーム入るからと声かけをしてから入ると

少しお腹のでた中年の男がパソコンが置いてある机に書類を開き何やら書き込んでいた。

「オーナーお疲れ様です」佐藤が声をかけると、少し驚いた様に体を震わせこちらを向いた。

「ああ、佐藤君お疲れ様どうしたの?」

「アルバイトの鈴木君たちが給料欲しいみたいでとりにきました」

「ああ、そこの金庫の中にあるから持って行ってよ」

そういうと、ペンで金庫を指しながらまた書類に目を落とした。

金庫を開け名前を確認して封筒を取り出し、バックに入れるとオーナーが話しかけてきた。

「これ新しい店のレイアウト何が変わったかわかる?」

少し悪戯っぽい口調だなと感じながら、机の上の書類に目を落とした

「冷凍庫が増えたのと、カウンターの位置ですかね」

「そうでもまだあるんだよ他の場所わかる?」

困った様子を見て少し、嬉しそうに目を細めると指を刺し

「ここ、雑誌コーナーの前ガラス張りでしょ?そこに外側に縁みたいに出っ張っているとこがあるけどそこがなくなったの」

そう言われればそうだ、よく人が座っていたと

「まあ、戻った時見てみれば良いよ、寂しいけど、もう見ることもなくなるし」

「そうですね、戻ったら見てみます」苦笑いをしながら

そういい、レジで昼ごはんのおにぎりと飲み物を買い店を出た。


 簡単な昼食をとり、店内を見渡しながらふと少しの遊び心が出てきた

レジカウンターに座ってタバコでも吸ってみようか、と。

店内は禁煙でましてレジカウンターに座りタバコを吸うこんな事10年間なかったはずだ車のドリンクホルダーに置いてある灰皿を持ち出し、カウンターの上に腰掛けた、10年間24時間誰かがいた店は、もうすぐ誰もこなくなるのだ。

タバコに火をつけゆっくりと、煙を吐いた。


 寂しのだろうか?店内を見渡しながらふと疑問に思ったのは、この言葉だ。

比較的若くして店長になった22歳の時にはもう店長をしていたが、トラブルばかりだった、売り上げ、クレーム、アルバイトのいざこざ、考えれば考えるほど良い思い出がない正直ほっとしたという気持ちの方が大きいのだ。


 優秀だったわけではない高校を出て仕事をやめ、フラフラしているところを拾われたというのが概ね正しい、もちろん始めた頃はふんわりとした、良いイメージがあったのは言うまでもないが、オープンして3ヶ月後には目にクマを作り、シフトを眺めながら今日は、何時間寝れるのだろうか?と眺めてはため息をついていた、それでも頑張っていればいつか花開くのではないかと、真っ暗なトンネルを歩く様に日々の仕事をこなしていくのだが、3年たち6年たちその中で、今はトンネルを抜けたのか?という疑問が生まれてくる確かに、休める日もあるがトンネルを抜けてこれなのか?と。


 二本目のタバコを取り出し火をつける、苦虫を潰した様な表情を何度もしながら日々を抜けてきたとするなら、寂しいより、晴れやかな気分になるはずだと、しかしながら自分としてはそのどちらでもない、寂しさと思えば苦痛が勝ち、晴れやかかと問われれば、疑問が残る。

 昔言われた言葉に『店舗は子供みたいなものだと』手をかければ、良い店舗になるし雑に扱えば悪い店舗になると、言いたい事はわかるのだがなんとも言えない気持ちになる、定のいい『店が悪いのはお前がサボったせいだ』と従業員の尻を叩くには、面白い言葉遊びの様にも思える。そんなことを考えていると二本目のタバコも吸い終わり、灰皿にタバコを押しつけ蓋をする。


「考えても仕方ないか」言い聞かせる様にそれとも、振り払うかの様に独り言をいうと、残していた外掃除に向かった、ゴミ箱をどかし入り口の周りに水をまきデッキブラシで擦ってから水をまきモップで水分をとる。

残りは灰皿かと入り口から少し離れた所にある灰皿に目を向ける、そう言えば雑誌コーナーの前はガラス張りになっているその前に、20センチほどのでっぱりがある、縁と呼ぶのか角と呼ぶのか正式な名称は知らないのだがこれが、なくなるのかと、眺めていると小学生ぐらいの男の子三人組が自転車をのって近づいてきた自転車を止め、降り用途した時に声をかけた。


「ごめんね、もう閉店したんだ」 

急に話かけられた三人組は目をパチクリさせながら、お互いの顔を見合わせ、こしょこしょと話をしていた、何かあるのかと眺めると一人の男の子が自転車を降りガラスに顔を近づけ店内を物珍しそうに見ていた、もう一人の子は怒られるのではないかと、こっちを見ていたが

見たかったら見ていいよと伝えると、驚いた顔をしながら自転車を降り一緒に眺めていた、もう一人の子はあまり興味がないのか不貞腐れたような顔をして、その縁の様な所に腰掛手持ちぶたさなのか手提げ袋からゲームカードを取り出すと

大事なお宝カードなのかキラキラ光ったカードを眺めていた、しばらくそうしていたが、一通り見終わると三人組は自転車でどこかに行ってしまった。


 三人組を見送りながら、この縁に何人腰かけたのだろうかとふと思ってみると、名前も知らない縁でしかも、座り心地は抜群に悪いだろうにと残りの仕事を片づけ店内に入り、時計を見た16時か1時間くら待つかと行儀悪くカウンターに腰掛け店内を眺めながら、タバコに火をつけ物思いにふけるのも悪くないと

 雑誌コーナーに目を向けながら、縁に腰掛けた人を思い出す、高校生や大学生ちょっと不良っぽいのが多かった、あれは迷惑だったゴミは散らかすカップ麺を食べてそのまんまにする、他のお客様から注意しろとクレームをもらう散々だ、やはりあんな縁無い方が良いのではないかと思った時ふと出てきたのは、一人のお客様だパズルがハマる様にその時の光景が出てくる。


 最初は特に、気にも止めなかったのだが女性がくる時間は15時少し過ぎてから、少年が来るのは16時少し前だちょうどその時間帯はお昼のピークが過ぎ

外のゴミ袋の交換と軽い外掃除の時だ、目が合うと少し会釈する最初はそんな感じだったと思うが、しばらくするうちにある違和感を感じるのだ、少年が来る方向と帰る方向は同じ、女性の来る方向と帰る方向は同じだが女性と少年の帰る方向は真逆なのだ、そんな小さい違和感がありなんとなく目に留まる様になったのだ。そうだ

 確か40代といった所の女性で、どのくらいの期間きていたのか正確にはわからないが、一リットルのパック飲料を一本買うと長いストローを一つが女性の注文だったレジ袋はいらない、しかしながら

注文は全てジェスチャーだ人差し指でストローを差し、一と指を立て袋は控えめに小さく手をふる、そして持ってでると灰皿のある隅の方でコンビニの縁に腰掛けタバコを吸いながらパック飲料を飲む、そのあと小学生の男の子が自転車で来て、その女性から少しのお金をもらい、お菓子を買って少年が嬉しそうにその女性に話ているのだ30分ほどすると女性は、少年に帰る様に促すのだ、名残惜しそうに振り返る少年に小さく手を振る。そんなやりとりを外掃除ごしに何度か見他ことがある。


 それから、11月だったか12月だったか少年が来なくなったのだ、女性は黒のダウンジャケットを着ながら、15時から17時の2時間寒空の中。一リットルのパック飲料を飲みながらタバコを吸う

ただ、遠くを眺めているその目は寂しとも言ってる様には思えなかった、

まるで自分の選択を咀嚼する様に煙を吐いては、またタバコに火をつけていた。


 ある日夜、ダンボールに抱えて来店してきた、こんな時間にめずらしと思いながら、レジのお客を捌いていいきその女性の番になった。

「郵便を送りたいのですが、ガムテープ貸してもらえますか?」初めて聞いた声に少し驚きながら、ガムテープと郵便伝票を渡した。

書き終えるとカウンターの前にあるゲームカードに目を落としていた。

「小学生に人気ですよ」

そう伝えると少し驚いた様に見えたが、何枚カードを手に取りレジに出した。

会計を終えカードをダンボールの中に入れるとガムテープで貼り伝票を渡した。


 その後、店内を周りいつも通り一リットルのパック飲料を買いいつもの様に長いストローを受け取ると、外の縁に腰掛けタバコを吸うのがガラス越しに見えた。夜の来店者もだいぶん落ち着き交代のアルバイトに連絡事項を済ませ残りの自分の仕事をしようと机に座りその横の受け取ったダンボールの宛名の苗字を見た時になんとも言えない苦いものが口いっぱいに広がったのを覚えている。


 

 それから、その女性が来店する事はなかった。



「お疲れさまでーす、給料取りに来ました」鈴木君の声に入り口を見ると

見慣れた顔ぶれが並んでいた。給料を渡し店の鍵をしめた時ふと聞いてみた。


「あのさ、ここに黒のダウン着て座っていた人って覚えてる」

三人は顔を見合わせてさあ?っという感じで

「いつの、話っすか?」

「私ここでのバイト半年なんで」

「僕は夜勤しかわからないですね」

そうか、まあならいいやと答え縁に腰掛けタバコをに火をつけた。


「あー店長が遠い目してる、私が時給2000円で話聞いてあげますよ」

「店長寂しいんすよ」

「太田さん時給2000円はぼったくりじゃない?」


キャッキャと楽しそうに話ているのを、眺めながら寂しとも、晴れやかとも言えない感情が出てくるのを、味わいながらゆっくりと煙をはいた。





 



 




 


 

 




 

 

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