「くそったれがあ!」
倉井さとり
「くそったれがあ!」
「いやー、あのホームセンターの店員のおにいさん……イケメンなだけじゃなくてさ、若いのに。いや私も充分若いよ。でもあんなに
なんだよ……この
はあ……山びこさえ返りませんねぇ……。どうせ私は
普通さ、こんな大声出したら、ちょっとくらい反応あると思うんですけど……。
はぁ……しんとしすぎ。もう
子供の頃よく言われたっけ。あんたはじっとしてられない子だねえって。おしゃべりだねえって。お母さんの方が、私の5倍はおしゃべりだと思うけどね……。そんでさあ、
今まで生きてきて、くそったれなんて初めて言ったわ……。
うう……お母さんとお父さんさあ、おしゃべりなのはいいんだけど……変なところで
笑えてしまいますよ、2人おんなじ目をしてさ……あんたら
なんでもお
うう……だからなのかな、両親がべったりなのを見て育ったからなのかな。付き合う人とは、いつでも一緒にいたくてさ。……お、重たい女。そ、そんな言葉をじかに言われるなんて、夢にも思わなかった……。だって、そういうのって
ていうか、
しかも、しばらくしゃべってなかったせいか、声が出なくてさ……。ホームセンターのおにいさんに返した言葉が『けっこうでふ。あひがとうございはす』。私は
ホント嫌になる……。恥ずかしい……。めっちゃ
服もずたぼろ、
だあー! くそたわけえー! くそたわけ? できんじゃん私、言えたじゃん、くそったれ以外の汚い言葉。ていうかどこで
くそったれですね! ホント! なんでこの
……まったくみんなして……私を
ごめんね、お母さんお父さん。大切に育ててくれてありがとう。でもさ、私もうダメみたい。
私が、もっとちゃんとした、強い子だったらって。
お母さんとお父さんが、生きていてくれたらって。
ひとりっきりの子供なのに、2人の
絶対に
当たり前だよ、こんな最低な私に、誰も構ってくれるわけないじゃんね。
振られるのだって、当然だ。当たり前だよ。2人が死んで、2年も経って、いまだに死んだ親のことばっかり話すんだもん。そりゃあさ、うんざりもするよね。
今思うとさ、重い女って言葉は、彼なりの優しさだったのかなって。さすがに夢みすぎとも思うけど、本当に
いくらさ、お
この木、よさそう。すごく立派な木。こんなに
カバンから、……バカだよねぇ、山に登るのに
店員さんの笑顔なんて
あー本当、不器用で嫌になる。
だけど、これで準備完了。あとは
ぶら
月のない夜だからなのか、それとも山の上だからなのか、
それにさ。
さっきまで、風なんて少しも吹いてなかったのに、こんなに葉がさらさら鳴ってさ。少しも死んでないじゃん、この山。なんだよ、すごい生きてんじゃん。
今頃になって、遠くでフクロウが鳴いてさ。くそったれだよ。
こんなの見たらさ、生きたいって思うじゃん。反則だよ、本当。
思うよ、これを見れるだけで、生きてる価値があるって。本当、くそったれだ。
……生きたいけど、……どうだろう、
それが問題じゃ、くそったれがあ!」
「くそったれがあ!」 倉井さとり @sasugari
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