猫の私が干支になれなかったワケ。

文壱文(ふーみん)

猫の私が干支になれなかったワケ。

 昔々、神様に憧れている猫がおりました。


 その猫は灰色の体毛をもち、黒い虎模様が特徴的で、そのような猫が神様になるために文字を書いておられたそうです。




「皆の者」




 神様は言いました。




「言葉を巧みに、私を感動させたものを上から順番に神の位を与えましょう」




 そう、神様は仰られたのです。


 私は努力をしました。言葉をどれだけ上手く扱うか。


 ライバルの中には、ペンすら持つのに一苦労なネズミさんや、蛇までいました。


 私はただひたすらに、そのような者たちも視界に入れずに執筆を続けました。




「これでよし! あとは……」




 思わず読み返してみます。すると、頭の中にスラスラと言葉が入ってくるので、どこか違うなと思ってしまいました。




 私の理想の文章──それは適度に咀嚼できるような文章なのです。


 あまりにも読み易いと感動するのも忘れてしまいそうで、私は怖く思ってしまうのです。




「今度こそ……完成!」




 私は遂に理想の文章が完成しました。強弱があり、適度に咀嚼して飲み込める。


 そんな理想の文章。




 私はすぐに神様のもとへ出発しました。自分の文章で感動させるために。




 他の者たちも執筆が終わっているみたいで、皆こぞって大急ぎです。誰が一番最初に到着できるか、これがとても大事でした。




 私は道中で少し寝てしまい、それから再び神様のもとへ進もうとしました。




「あれ? 原稿がない!」




 どうやら、私の原稿は盗まれてしまったようです。




──ちゅっちゅっ!




 そんな笑い声が、最後に私の耳を震わせました。

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