人攫い

取り囲む全ての塔から奏でられし

貪欲な歓喜の角笛に惑わされるまま

虚空の箱の中へ身を落とす真っ白な花弁

どんな無邪気な毛布に朝を約束されても

次の夜には無言の食卓を迎える

曇った鏡の前でしか物語を知らないリデルの耳には

鋭い警句も幼い胸の淵まで届かない


残忍な応酬の果て切り落とされた手足の

代わりに

与えられた毒牙に優しさを滲ませれば

一晩で何人殺せるか

殉教者達の聖なる右手の御許では

疑心の夜着を装った行列の最後尾で

蹄も立てず黒馬車が控えている


零れ落ちた刃物で原罪をこの身に立証しても

未だ誰一人十字架の存在を疑わない

落ちるために階段をのぼる

君は道連れ誰からの指図にも汚されぬよう

無垢のままで塔の上へ連れて行ってあげる

ちいさな手の中キャンディーは

なぜ一つしかないの

と首を傾げ







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る