3体目
お葬式。額縁のなかで海が笑っている。皆は泣いている。僕は泣いているフリをしている。だって、もう人の「死」なんて見すぎて何も感じれない。でも、今回のは流石にちょっとショックだったけど…。
海は僕の目の前で車にはねられた。何もかも捻れていて即死…だったと思う。僕は遺体となった海から僕の方に血が流れていくのを見ながらこう思ってた。
痛みを感じる前に死ねただけ海は幸せだったのだろうか…。
「何で…何で海くんが…!!わぁああああああん!!」
クラスメートの愛川麗子さんが泣き叫んでいる。確か海のことが好きだった子……。涙と鼻水で顔はグシャグシャだ。彼女を見ていると心が苦しくなる。本当は僕だってあんなに泣きたいよ…。だけど、もう見すぎて何も思えなくなっちゃったんだよ。
海が死んでから数日。教室はすっかり元の賑わいを取り戻していた。まだ海の机には死んだことを意味する花瓶が置かれているのに。
「あはははは!何それ~めっちゃ面白いね!」
あんだけ泣いていた愛川さんも、もう笑えるようになっている。あぁ…海への想いは数日で断ち切れるようなものだったのかな。
「菱科!次、移動一緒にいこう!」
「…うん。ちょっと待ってて。」
かくいう僕も海のことを引きずらず、新しい友達を作っている。元々少し仲が良かった秋月裕太くんだ。
海は…あの世でこんな愛川さんや僕達を見てどう思っているのかな?悔しく思っているのかな?悲しく思ってるのかな?それか…案外人間ってそんなもんだよなと呆れているのかもしれない。
「なあ、菱科。久遠が死んだ日に4歳の女の子も路上で死んでたんだって!怖くない?」
「…そうだね。」
「だろ?あ~怖っ!」と言いながら秋月くんがわざとらしく腕をさすっている。
そういえばあの日、海だけじゃなくて女の子も死んでたなぁ。僕は1日に2人の死体を見ちゃったってことか。運がない日だった…。
学校が終わり、家に帰った僕は数学プリントを机に広げる。宿題は早く終わらせた方がいい。あとで楽できるから。
……一人だ。妙に暑い光が僕の部屋に差し込む。4時。昼と夜の真ん中。約束の時間。海が来なかった時間。……一人だな。
数学のプリントをいつの間にか最後まで解いていた。ほとんど無意識にやってたから間違いだらけだろうな…って思ったけど、全問正解だった。
人間ってスゴい。別のことを考えていても問題を解くことができる。
人間って脆い。車にはねられたら死んでしまう。
死に愛されてる @hdsohht
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