第4話 貴方だけを

午後からの授業の内容は、全く耳に入って来なかった。ずっとずっと、昼休みに目撃した間宮君と友香の姿が、脳内で再生されている。


ノートに押し当てたシャーペンの芯を折った。また出して、また折った。


渡したくない……。


渡さない……。


私の中で、何かが壊れて、黒い感情がとめどなく溢れてくる。


この数ヶ月。友香が、私と口聞かなくなった理由、やっと分かったよ。その頃から、間宮君と仲良くなって、それで私を無視し始めたんでしょ?


それって、友情わたしより、恋愛じぶんを取ったってことだよね?


アンタも、間宮君が好きならさ、私みたいに、はっきり言えばいいじゃない?黙って、コソコソと、人の好きな相手奪うとか、最悪なんだけど。


ノートの上が、折れたシャーペンの芯だらけになる。


渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない。渡したくない……。


(……決めた)


私はエンドレスな、この感情に終止符を打つことを決める。


告白しよう。


ずっと秘めてた、この想いを彼にぶつけよう。


先に抜け駆けしたの、友香なんだから。私は堂々と、気持ちを明かしてたんだから、姑息な真似をした友香とは違う。私は何も後ろめたくなんかない。ただ、純粋に、この気持ちを間宮君に伝えるだけよ。


彼だって、私の気持ちに気づいてるはず。時々重なり合う視線から、そう思ってた。


友香のことがあって、私との距離が埋めにくかったのかもしれない。それなら、私から縮める。この距離を。今度は、私が彼に近づく番よ。


友香だけが知ってる彼なんて、許せない。


これからは、私だけの間宮君になって。


私だけの物になって。


渡さない。


教室に、終礼のチャイムが鳴り響く。


間宮君はバスケ部だから、部活が終わるまで、校舎の屋上で、ずっと待ってた。


その間、彼にどんなシチュでコクるか、何回も考えた。抜け駆けした友香から、一気に間宮君の気持ちを奪いたい。普通にコクるよりも、インパクトがある方がいい。


うん、そうだ。


いっつも妄想してたことをしちゃおう。


何回も何回も、頭の中だけで彼としてきたことを。ほんとに、しちゃおう。


彼はびっくりするかもだけど、一気に私に興味が引き付けられると思う。友香がだいぶリードしてるから、飛び越えなきゃ彼は手に入らない。


そうよ。妄想を現実にしちゃお。


屋上から下を見ると、間宮君が一人で校舎から出てくるところが見えた。私はダッシュで屋上を後にし、猛スピードで階段を駆け降りる。


そして、校門を出ていく彼の後をそっと追いかけていった。


夕日に照らされた間宮君の背中は、相変わらず凛としていて、それを見ているだけで、好きって感情で胸がいっぱいになる。いつから友香が、彼を好きになったのか知らないけど、入学式のあの日、間宮君を遠目に見つけた、あの瞬間から、ずっと好きだった。


間宮君。


私だけの物になって。


私は、少しずつ少しずつ、距離をつめていく。そして……彼の両目に手を伸ばし、そっと塞いだ。


「ダァ~レダ?」


私はドキドキしながら、彼の次の反応を待つ。


立ち止まった間宮君の肩は強ばり、背中が小刻みに震えている。


「あ……っ……」


あの冷静沈着な間宮君が、ひどく動揺してる。


こんな彼、初めて。


私だけが知った間宮君。


貴方だけを見てたよ。


ずっと、ずっと……。


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