第3話 抜け駆け

やって来たのは、友ちゃん。


どういうことよ?友ちゃんには、何百回も、私が間宮君のことが好きだと伝えてる。なのに、私に黙って間宮君と二人きりで会うのって、おかしくない?


私は柱の陰に隠れながら、静かに様子を見守る。二人は向き合うと、少しの間沈黙した。


「急に呼び出して、ごめん」


そう切り出したのは、間宮君。


えっ……しかも間宮君の方から呼び出したの?心の奥で、ジリッと何かが焼けるような音がする。


「どうしても君に伝えたいことがあって」


「……何?」


訝しげに聞く友ちゃんに、間宮君は、震えるような小さな声で答えた。


「……如月麗奈のことなんだけど」


……えっ!?私のこと!?


すると、友ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で叫ぶ。


「麗奈のことは、話さないで!」


あまりにも強い友ちゃんの拒絶ぶりに、私は驚いた。


「気持ちは分かるけど……でも、君だから聞いて欲しい」


「今は、聞きたくないの……!」 


……どういうこと?二人は一体?


「もう、私行くね……」


友ちゃんは苦しそうな表情を浮かべながら、その場を立ち去ろうとする。


「待ってくれ……田村!」


間宮君が、去りかけた友ちゃんの腕をつかんだ。そして……。


「×××××××××××××××××」


友ちゃんに何かを伝える。


友ちゃんが驚いた表情で、間宮君の方を振り返った。


「×××××……?」


「×××××××××××」


「×××××××××××」


「×××××××××××」


二人とも離れてしまって、しゃべっている声が、よく聞き取れない。ちゃんと会話を聞きたくて、柱の陰から移動しかけた時。


「何で……間宮君なの。何で、私に……」


「俺だって、どうしていいか、分からない」


「……どうして、私じゃないのよ!!」


友ちゃんは目に涙をためながら叫ぶと、その場を走り去っていった。


「俺だって……どうしていいのか……」


一人その場に残された間宮君は、苦悶の表情を浮かべて、額に手を当てる。


少しの間、無言で佇んでいたけど、彼も静かに、その場を後にした。


……何よ、これ。


あの会話、単なる知り合い程度の感じじゃないよね?どうして私じゃないの、とか、俺だって、どうしていいのか分からないなんて台詞……恋愛絡みとしか思えない。


間宮君のあんな感情的な言葉遣いや、表情を初めて見た。


ずっと好きで密かに追っかけてた私には、見ることの出来なかった彼を友ちゃんの前には見せるんだね。


今だけ?……ううん、きっと違うよね?


今までも、私に内緒でコソコソ会ってたんじゃないの、二人で?


ひどいよ、友香ともか……。親友だと思ってたのは、私だけなの?私の気持ち知ってながら、相談乗るフリして、間宮君に近づいたわけ?


「……たくない」


友香には、渡したくない。


間宮君を友香に、渡したくない……。


焼けるような感情が、私の心の底に、じわじわと広がっていく。


目の奥が、ちりちりと熱い。


密かに間宮君を見てるだけで良かったのに。その横顔を、その背中を追いかけてるだけで良かったのに。知らない間に、友香は、それを軽々と飛び越えて、先にいた。


やっぱり、嫌だよ。


友香に取られるなんて。


誰かに、間宮君を取られるなんて。


……渡さないから。


……間宮君は、渡さないから。


渡さないから。


心の底に、暗くくすぶる嫉妬を感じながら、私も体育館裏を立ち去った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る