書いてて思ったけど雨上がりとか好きみたい

@rairahura

特に誰ということもなく

簡単な造りの宿を出ると初夏の空気を肺一杯に吸い込みぐっと伸びをする

視界の下方には足首ほどまでの短い草が

上方には吸い込まれそうなほどの澄み渡った空が

緑と青のコントラストを成して地平線の果てまで続いている

東からは一日の始まりを伝える朝日が差し込んでいた

同行人も起きてきて軽く朝の挨拶をすませる

今日はどこまで行けるだろうか

日が変わらないうちに平原を抜ける予定だったが聞きしにも勝る広大な大地を眼前にすると考えを改める必要があるように思える

どこかで野営を挟まなければならないかもしれない

とすれば宿の主人に相談して必要なものを揃えるべきだろう

朝の日差しを浴びて軽く体を解しながら本日の予定を考えていると眩しいほどの空に陰りが射してきたことに気づく

ぽつぼつと下草を軽く叩く音が聞こえたと思ったのもつかの間

その音はあっという間に勢いを増し広い広い平原中に雨粒の塊が滝のように降り注いできた

「バケツをひっくり返したような」とはよく聞く表現だがまさしくと言ったところだ

突然襲い掛かった水の勢いに平原を覆う青々とした草は一瞬のうちに叩き伏せられていく

見上げればいつの間にやら厚く黒い雲が重々しく見渡す限り一面の空を覆っている

先ほどまで見えていた日差しは少しきついと感じるほどだったが今や一部の隙もなく雲に隠されていた

自分たちが滞在していた宿からはほんの少し離れただけだったはずだが雨のカーテンに遮られて影も形も見えない

この辺りでは時折急な豪雨が降るとは宿の主人から聞いていたがまさかこれほどとは

あの宿は無事だろうか

木造の平屋はあまり丈夫な造りには見えなかった

この平原にあって雨を想定していない訳はないだろうがこの豪雨ともあればやや心配になる

空から殴りつけるように降る大量の水は平原に幾筋もの川を作り出していた

「ほんとにあっという間だったねー」

「そうだな」

私たち2人は唐突に表れたこの光景を土手の窪みから眺めていた

雨が酷くなる前にこの乾いた窪みを見つけられたのは僥倖だった

ここまで激しく降ってしまうと宿に戻ろうにも土地勘のない自分たちではもはや方角すらわからない

雨の中をあてどもなく彷徨えばあっという間に体力を解われることは想像するまでもない

下手をすれば先ほどまではのどかと言えるほど平和だった平原のどこかで命を落とす可能性すらあるだろう

平原に住まう他の生き物も流石にこの雨の中で走り回ることはできないようだった

窪みから伺える外の景色には殴り倒された草以外の命の姿が一切見えない

彼らの幾らかは自分たちがいる窪みにも避難してきているようだった

普段は存在しない大きな生き物が突然2人も自分たちの避難所に入り込んできたのだから驚いてしまっているだろうか

意識を向けられたことを察したのか近くにいた気配がさっと窪みの奥まったところまで駆けていった

今さら出ていくことはできないがせめて彼らの領域を邪魔しないようにと体を端の方に寄せる

もう一人の居候にもその馬鹿でかい図体を少しでも縮めるように言う

そいつは文句を言いながらも言われた通りに縮こまってこちらに身を寄せた

この雨はいつまで降り続くのだろうか

昨夜宿の主人から聞いた話からするとそこまで長引くわけではないようだが

彼と自分とで時間の感覚が違うとは言い切れない

別の場所に住む者は別の価値観を持つものだ

もしかすると日が暮れるまで(雲に遮られて日は見えないが)

いや一晩中もしかしたら数日振り続けてもおかしくはない

どこかの地域では雨季には何週間も雨が降り続けて砂漠が大河に変わるという

さすがに数日も経ちはしないだろうがこの少しの間でもこの冷えた空気に晒されることは望ましいことではない

少しでも体力を温存しなければじっとしていると雨粒が草を叩く音が耳に入る

規則正しく鳴るその音はどこか心地よくて意識を手放しそうになるが頭を振って無理やり覚醒させる

「寝てていいよ」

何を察したのか隣に座っているやつはそう言った

そういう訳にもいかないだろう

この窪みは今のところ乾燥しているがいつ雨水が流れ込んだり崩れたりするかわからない

眠ってしまって初動が遅れたらどうするつもりだ

そんな感情をこめて視線をやるとやつは何を考えているのか何も考えていないのかいつも通りののんきな顔でこちらを見ていた

「見てるから大丈夫だって」


やつの手が規則正しくこちらの背を叩く

雨はざあざあと相変わらず降り続けている

そんな子供を寝かしつけるようなやり方でこの私が

ねむって

しまう


わけが




楽しげに歌う鳥の声が耳に入ってきてふわりと意識が覚醒する

少し目を閉じるだけのつもりだったのにいつの間にか寝入ってしまっていたようだ

あれほど気を付けていたというのに不覚としか言いようがない

私がいる窪みには幸運にもどうやら雨水が流れ込んでくるようなことはなかったようだった

相変わらずひんやりと乾いた地面が手に触れる

先ほどまで姿は見えずとも近くに気配を感じていた生き物たちはもうこの窪みの中にはいないらしい

ここまでぼんやりと状況を整理しているとふと背中の方からなにか暖かさを感じることに気付く

窪みの奥の方を見やっていた視線を返して振り返ると当然ながら窪みの入り口が目に入る

その入り口からは溢れんばかりの光が射していた

そういえば眠る前にはそれ以外の音が聞こえないほど激しく鳴っていた雨の音が全く聞こえない

こんなことに今更思い至るあたりまだしっかり目覚めてはいないらしい

兎にも角にもどうやら雨は止んだようだ

自分の感覚が正しければ今は昼過ぎといったところか

幸いなことに数時間で止んでくれたようだ

外から射す強い光に目を細めながら外を伺う

窪みの上に生えた細長い草からはぼたりぼたりと支えきれなかった雨粒が滴る

目の前を落下していく水の粒は日の光を受けてまるで宝石のようにきらきらと輝いた

身体を起こすといつの間にか掛けられていた毛布が滑り落ちる

これは自分のものではない

とすると

まだうまく回らない頭を無理やり動かして考えていると窪みの入口に1つの影が現れた

外の様子を見て戻って来たらしいその影はこちらが起きていることに気付くと嬉しそうに笑う

「雨あがってるよ!」

「…そうみたいだな」

あれほど大口を叩いておいて眠ってしまった気恥ずかしさで礼を言えずにぐずぐずしてしまう

するとそいつは何が楽しいのか満面の笑みを湛えてこちらに歩いて来る

暖かくて大きな手に引かれるがままに立ち上がり窪みから出る

冷えた身体が昼の日差しに晒されて温まっていくのを感じた

見上げれば先ほどまでの厚い雲が壁のようにさっぱりとした快晴だった

雲1つない吸い込まれるような深い青が視界中に広がる

そこから下に目を向けると平原中の土地が低い部分に水が溜まったのかいくつもの池ができていた

平原に現れた池に湛えられた水は静謐に空の青を映していた

あんなにも雨に殴られて伏せていたというのに植物は逞しいもので日の光をその身体いっぱいで受け止めるように頭を上げている

辺り一面から緑の匂いが立ち昇る

近場に水場が無いのにどうやってここまでの平原ができたのか不思議だったが合点が入った

こうやって時折空からの恵みが降り注いでいるのだろう

恵みと言うにはいささか乱暴な気がしないでもないが

そう目の前の景色を眺めながら考えていると繋いだままだった手に手を引かれる

「戻ろっか」

景色に圧倒されて全く気付かなかったが自分たちが滞在していた宿は相変わらずの姿でほんのすぐ近くに建っていた

やはりこの地にある建物だけあってあれほどの雨でも心配はいらなかったようだ

決して恥ずかしいなどではないが繋いでいた手を離してからさっさと宿に向かって歩き出す

後ろからぶーぶーと文句を言う声がするが全く聞こえない

勢いのままに宿の戸を開けずかずかと入る

宿の中も雨漏りするようなことはなかったようで朝見たときから一切変わらない様子で自分たちを出迎えた

宿の主人は戻ってくることがわかっていたかのように食事の準備を終えていた



飽きた

というかこいつら誰やねん

今思ったけど平原に建物立てるなら木造じゃなくて石造りか遊牧民のあれ的なあれの方がそれっぽい気がするそもそも人が宿泊できるレベルの建物建てるための木とかどこから持って来てるんですか

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