第3話 多分これが世にいう異世界転生

「・・・・・・まし。起きて・・・・・・・」


謎の女性の声に呼ばれ、修一郎は目を覚ました。目の前に広がる大空はどこかで見たようなくらいまっすぐな青色をしていた。


「やっと起きましたわね?」


修一郎の視界にひょっこり金髪の女性が映り込んできた。


「俺は・・・・・・?」


修一郎は自分が死んだはずだと思っていた。確かにあの時ガスがカプセル内を充満していたし、それ以外に何をするでもなく、大人しくしていたのだから。


「おかしな人」


女性は笑って見せた。


修一郎は自分が女性に膝枕の上に頭を置いていたことに気づき、頭を慌ててあげた。そして辺りを見渡すと赤、青、白、黄色、桃と色とりどりの花が咲いていた。お花畑にいるような気分になっていた。


「ここが天国ってやつなのかな?」


修一郎がふとつぶやくと女性は頭にはてなを浮かべる。


「天国?何をいってるんですの?」


女性の不思議そうに見つめる顔が修一郎の不信感を強めた。


「俺は死んだはずなんだ。死んだ人間はそこから三途の川なり、天国へ行くなり、しなきゃいけないんだ。場所分かる?」


修一郎の言葉に女性はまた一つはてなを浮かべた。


「随分変な方ですの。あなたはここで寝ていたのに?」


話がかみ合わないなと修一郎はだんだんイライラしていた。


「あのねえ!俺は死んだの!確かに死んだの!分かる?だからここはそういう場所の筈なの!三途の川だとか、そういうスピリチュアルな場所の筈なの!」


女性はついに顔にはてなが出るようになった。


「じゃああなたはどうして生きているんですの?」


「はぁ?」


女性の言葉の意味が理解を飛び越えて行った。


そのまま女性は修一郎の左胸を触り始める。


「何するんだよ!」


「やっぱり!あなたの立派な心臓は鼓動を打ち鳴らしていますわ!」


女性の言う事が本当に分からなかった。


「俺は死んでるの!分かる?」


「じゃあ自分自身で触ってみればいいでしょう?」


女性の言うとおりだった。修一郎は自分の胸に手を当てる。


ドクドクと生きた鼓動が聞こえた。


「生きているのか?俺が?」


修一郎は自分が何を話しているのか分からなかった。


これは何かの悪い夢なのだろうか?とすら思った。


「さっきから変なことを言う人ね?」


女性がはてなを浮かべていた理由がよく分かった。間違っていたのは修一郎自身だったのだ。


「一体何が起こっているんだ?」


背筋が凍るような怖さを覚えた。修一郎はただ自殺しようとしただけなのだ。それで何故こんな目に合わなければならないのだ。


「それにしても死んでるはずなんだ!っておかしな人」


女性はクスッと笑った。


「冗談がましいかもしれないけど本当なんだよ・・・・・・」


修一郎にとっては真剣な出来事だったが伝わりそうにない。


「面白い話。私はクリス。クリスチーナ・クランディー。あなたは?」


「え?」


女性は自らをクリスと名乗ったが修一郎は正直それどころではなかった。


「出会ってもう10分も経とうとしてるのにお互い名前も知らないなんてそんな悲しいことはないでしょう?」


クリスの言うとおりだった。


「俺は登坂修一郎。よろしく」


「トサカシュウイチロウ?随分珍しい名前ね。出身は?」


登坂修一郎と言う名前はクリスにとっては珍しいようだった。日本名として普通の発音だろう。なんならクリスの方が日本人からしたら珍しい。


「出身はもちろん日本ですよ。あなただってここ日本にいるんです。自分の名前如きで驚いていたら生活出来ないですよ?」


日本?クリスはまたはてなを浮かべる。


「だってここは日本でしょう?」


「さっきからおかしなことばかり言いますね。ニホンなんて聞いたことないですよ。」


ものすごいヘイトスピーチだな、と修一郎は思った。


「すごいこと言いますね。アニメとかご覧にならないんですか。訪日外国人の多くは日本のアニメや漫画が好きだからと聞きますよ?」

「アニメ?マンガ?」


全てが通じない、そんな事を修一郎は思い浮かべた。言語はお互い分かっているのにも関わらずである。


「お互い日本語を話しているんですから。それも流暢に」


「お互い話しているのはグルテム語じゃないですか。何を言ってるんですか?」


もう修一郎には何が何だか分からなかった。


「すいません。つかぬ事をお伺いしますけども、ここはどこですか?」


修一郎は恐る恐るクリスに尋ねる。どうか日本のどこかでありますように・・・・・・!


「ここはグルテム王国。そのお城近くのお花畑ですよ?」


もはや聞いたことない国名だった。バチカン市国とかよりもっとマイナーな国名だろう。


「周りにどんな国がありますか?」


クリスはそろそろ不穏な面持ちを見せる。自分の常識を疑われるような不快さを覚えたのだ。


「あなた、私の事バカにしてます?」


その不快感は言葉として表に出た。


「バカにはしてないです!ただ知りたいだけなんです!ここがどこかを!」


はぁ。とクリスは溜息をつく。


隣国はアラスト王国。上っていくと、アルステリア山があります。と随分ぶっきらぼうな言い方をされてしまった。


修一郎は別に社会科、もとい、世界史は得意分野でも苦手分野でもなかったが、さすがに社会常識はあった。だからこそ先ほどから意味不明な地名や国名の羅列に耐えられなかった。


そういえば昔先輩に1冊の本を渡された事を思い出した。


「俳優を名乗るなら最近流行りの本くらいは読んでおけ」という言葉と共に渡されたものはその時世間で流行っていたという「現実世界ではダメダメなのに何らかの手段で地球外だが地球に似た場所へと転移してしまう」という意味不明な作品であった。なんてジャンルだったか・・・・・・?


「異世界転生だ!」


修一郎はそのジャンルの名前を思い出すと大声で叫んでいた。


「ほんと変な人・・・・・・」


横にいたクリスの変人を見る目にも気づくことなく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自殺転生~一度死んだ命で異世界ではそれなりにチートだと?その力で世界を暴け!~ 山本友樹 @yamaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ