第1話

「ゔぐあぁッ……うあ"あ"ぁ!?」


 俺は向かってくる狼に為す術無く、片足の脛をその牙がしっかりと食い込む程おもっきり齧られる。一層の事速く食い千切って欲しいと思うほど、振り払おうとしてと鋭い牙が骨にヒビを入れガリガリと削っていく頭が俺は耐えられず、狼の頭を掴んでも離れないので、思いっきり狼の頭をもう片方の足で蹴り飛ばす。


「は、離せぇっ!!」


 狼はキャウンと高い鳴き声を出すと、次にゆっくりと立ち上がり、仲間を呼ぼうと遠吠えを上げる。


「おい待てやめろっ……!」


 俺は足の痛みに耐えながら、掠れた声で必死に遠吠えを止めるように訴える。が、そんな声は届く訳もなく、俺の周りをぞろぞろと複数の狼が囲み始める。


「やめろ、やめろおおおぉ……!」


 大声を出そうにも、意識が足の痛みに優先され、不思議と声が出ない。そうしている間、俺の叫びが合図と言わんばかりに狼は一斉に俺の身体に飛びついて来た。


「うぎっ!? ぎゃっ! うあ"あ"あ"ぁぁ!!!!」


 俺は声にもならない叫びを上げながら、腕を引き千切られ、腹の肉を噛みちぎられ、内臓をかき混ぜられ、頭と身体も真っ二つに引き裂かれる。


「…………」


 そうして俺は死んだ。


──────────────────


 目を覚ますと俺はまた同じ場所に立っていた。ただ先程と一つ違うのは、俺の死体であろう最早原型を留めていないを目の前で複数の狼が喰い散らかしている所だった。


あの謎の空間で青年が言っていた通りだった。俺は死ぬ事が確定される前で復活し、世界の時間は正常に作動する。そして……死ぬ事で新たなスキル得る……。


所有スキル:

・【死亡転生】

・【噛み付き耐性】Lv1(25%)


 今の表示で何となく理解した。死ねば死ぬ程スキルは成長していき、俺自身が強くなるのか……。


 いやいやいや、こんなの冷静で居られる筈が無い。今すぐキャンセルさせて貰えないだろうか?


 そう思っていると頭の中から声が響く。


「やぁやぁ、早速派手に死んだねぇ。君の理解した通りさ。死ねば死ぬ程君は強くなる。どうだ? 面白いだろ?」


「ふざけるな。今すぐルールを変更しろ」


「おや? 元の場所に返してくれとは言わないんだね?」


「もう俺は死んでいるんだろ? お前のせいでな」


「理解が早くてよろしい。君は僕に殺された。勿論、生き返るなんて無理さ。まぁ……そのままゲームクリアまで行ったらもしかしたら新しい人生のチャンスはあるかもね?」


 ゲームクリア? いや、この青年が俺のやっている事がゲーム同等だって事は分かるが、この実験に最後なんてあるのだろうか? あったとしたら、俺は何回死ぬ?


「ゲームクリアだと?」


「あぁ、君が何度も死に続けて、いつか無敵の力を得た時、もしかしたら僕の気が変わるかもしれないって話さ。保証はないけどね」


「クソ……もういい。どうせ幾ら死んでもこの世界では俺は理不尽にも何度でも生き返る。本当に死ぬ事を許されて居ない以上、もう諦めてお前の実験を全うするしか無いな」


「そゆこと〜。じゃ、困った事があったらいつでも呼んでねぇ〜。あ、一つだけ忠告だけしておこう。君も理解していると思うが、君の死んだ事実はその世界には残るんだ。もし君が何度でも生き返る生物だと他の者に知られたら……どうなるか分かるよね?」


「分かっている。調子に乗るなって事だろ?」


「よろしい。それじゃあねぇ〜」


 そうして頭の中の声は、ぷつりと消える。これからどうするべきか、実験に付き合うと言ってもやる事が全く思いつかない。一先ずは、目の前の狼の群れを倒す事だろうか。


 今此処で逃げようにも、また食い殺されるだけだ。と言っても野性の動物なんかに勝てる訳が無かろう。もう、死ぬ事を覚悟してやるしか無さそうだ。


 俺は声を張り上げて狼の注意を逸らす。何がなんでも今の状況を打破してやる。


「俺はこっちだあぁ! 掛かって来おおい!」


絶賛俺の死体を食事中の狼は、もう一人の俺の存在に気がつくと、喉を唸らせる。


「ガルルルル……」


「次こそは……ぶっ殺してやるっ! おらぁ!」


 俺は足元に落ちている小石を幾つか拾い、全力投石する。が、それも当たる筈もなく、俊敏な動きで俺の小石を避ける狼は、俺の隙を狙っては、容赦なく俺の首に噛みつく。


「うあああああああ!!!!」


 俺の首筋に噛みつく牙は、まるで吸血鬼の様に俺の血を急速に吸い上げ、同時に肉を破られた勢いで、俺の首元からは血飛沫を上げる。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッ!??」


 あまりの激痛に俺は叫ぶ事しか出来ない。こんな激痛を俺はこれから何度も体験する事になるのだろうか。


 そうして俺は、出血多量で死んだ。


──────────────────


 俺はまたしても目を覚ます。状況は全く同じ、ただ俺の死体が目の前にもう一体増えただけだ。どうやら復活する度に精神が壊れない様に若干の補正がかかる様だ。


 現に俺は自分の二つの死体を見ても冷静でいられる。ただそれも今のうちだろう。殺される瞬間の記憶は残り続けるのだから。


所有スキル:

・【死亡転生】

・【噛み付き耐性】Lv2(50%)


 今の状況を打破するのに後何度死ななくちゃならないんだ?


 駄目だ。無駄死になるべく避けよう。次は不意打ちに挑戦だ。


 俺は、付近に両手サイズの少し大きめの石を見つけたので、しっかりと持ち上げる。重さはそこそこあり、不意打ちに成功すれば一撃で狼を仕留められる程の重さはある。


「これで……殺すっ!」


 俺は息を殺し、食事中の狼の背後にゆっくりと近づく。そして……。


「死ねええええぇ!!!」


狼の真後ろについた瞬間、殺意剥き出しに叫びを上げ、思いっきり石を振り下ろす。結果は、狼の後頭部にクリーンヒット。ぐしゃっと音を立て、一匹の狼の首辺りの骨は粉砕されただろう。一撃で絶命だ。


 しかし、そんな達成感も束の間、俺の叫び声に気が付いた他の狼は、俺に飛び付き、俺は咄嗟の事で尻餅を突く。


 そしてそのまま、正面から首をガブリ。狼が大きく口を開け、牙は俺の喉仏を潰し抉る。激痛と喉を潰された事で息が詰まる感覚が同時に襲う。最早声すら出ない。ムシャムシャと俺の喉を喰いつぶす狼の前で、俺は出血多量でだんだんと感覚が薄れていき、死んだ。


──────────────────


 目を覚ます。正に地獄だ。死んでも死んでも状況は変わらない。もう鬱になってもいい。でも不思議と冷静になってしまう。死にたいと思っているのに死ねない。


 俺は大きく溜息を吐く。


所有スキル:

・【死亡転生】

・【噛み付き耐性】Lv3(75%)


 表示を見る限りは25、50、75、とパーセンテージが上がって行っている。恐らく後一回死ねば、100%になるんだろう。それでどうなる? 噛み付きが無効にでもなるのだろうか? というか、耐性の時点それが機能しているのか不思議でならない。


 痛いのは変わらないのに、三度目の死の時点で耐性は50%だった。この耐性とはどんな意味を示しているのだろうか? 噛み付きだから分からない?


 まぁ、良い。きっと後一回。後一回死ねば良いんだ。どうせどう足掻いたってこの状況を打破するのは無理だろう。俺は別に生前狩りをしていたなんて過去は無い。熊や狼に襲われれば、一貫の終わりだ。


 来い。死ぬ準備は出来ている。何処からでも噛み付いて来い。


「掛かって来いやぁあああ!!」


「ガルアアアァァ!!」


 俺の叫びに気が付いた狼の群れは一斉に俺にの腹を噛み付いてくる。出来れば首に来て欲しかったのだが、腹は死ぬのが遅い。死ぬまでの痛みは耐えられるものではない。だからせめて早く殺してくれ。


「うあああああっっ!???」


 早く、早く、早く、早く、俺の意識よ途絶えろ。最早俺は死ぬ事を願うようになってしまった。痛み無く死にたいと。


 そう喰い散らかされながら、必死に願う。すると、いつの間にか俺は死んでいた。


──────────────────


 やっと……だ。


所有スキル:

・【死亡転生】

・【噛み付き無効】


 あぁ、やっと救われる。さて、復讐の時間だ。此処にいる狼は片っ端から殺してやる。無残に、俺の痛みを思い知らせてやる。


「来いッッ!!」


 この展開は何度説明しても同じだ。獣は何処までも欲に正直なのだろうか。同じ死体が周辺に四体も転がっているのに、新しい生きている物を見つけると、何も疑いもせずに襲ってくる。


 狼は俺の顔面に飛びつき、次は俺の顔を囓ろうとする。しかし、まさか本当だとは、幾ら噛みつかれても痛く無いし、血も出ない。俺は静かに俺の顔面を噛みつく狼の首を掴み、左に九十度。首をゴキッと音を鳴らして折る。さぁ、どんどん掛かって来い。


 次の狼は噛み付きを引き剥がした後に頭を踏みつぶし、次の狼は石で何度も殴り、次の狼は、俺自身が首元を噛み付いてやった。


 とてつも無く不味い。


 は、ははは……もう気が狂いそうだ。俺の死体を含めて、此処にある死骸を全部食ってやる。きっと何か成長はあるはずだ。

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