第2話
不味い不味い不味いッ……周囲の枝をかき集めて火を焚べて、焼いても不味い肉は変わらない。狼の肉は辛うじて食えても、人間の肉は余りにも不味い。
妙にしょっぱくて、生臭く、そして硬い。でも喰えばきっと何とかなる。我慢して死ぬ気で喰えば……!
そう自分の死体の肉を齧り付いている時、横からボロボロな服を纏った老剣士がこちらに寄ってきた。老剣士はどうやら腹が減っている様で、肉を齧り付いている俺を見かけたらしい。
「そこの若者や……どうか、どうかこの老人に分けてくれぬか……」
例え腹が減っていてもこんな腐った様な肉を与えるのはどうも気が引けるが、これを断ったとて、どこかでぶっ倒れてくれたら後味が悪い。俺は嫌々にも肉を与える事にした。それに、もしこの老人がこの世界について知っているのなら、何か情報が貰えるかも知れない。
「いやはや、ありがとうございます……。一応、これでも戦う力はあるのですが……如何せん食える様な物は無く……」
「そうか……」
俺は最初何も言わずに老人に肉を与えた。狼の肉を。
老人は何も疑う事なく、その肉に齧り付くと、口に入れた瞬間、眉間に皺を寄せながら、苦しさを誤魔化す様な表情をする。
「む!? ……こ、これは……なかなかクセのある味ですな……」
「不味いだろ? それは狼の肉だ。そしてこっちが人間の肉……」
別に悪戯しようと思った訳ではない。稀にサバイバーと言ってどんな物でも美味いだとか、栄養だと言って食える奴もいるからだ。だがこの老人は違った様だ。
「人間の肉……ですと? はっはっは、また御冗談を」
「それも俺の肉だ。俺も腹が減って仕方が無いんだよ。それは身体が幾らでも再生する特異体質でな。腹を満たすには十分だろ?」
「んぐっ!? はっはっは……そうでしたか。なるほど、なるほど……本当に肉を与えて貰いながら申し訳ない。これ以上は遠慮させてもらおう」
「正直に不味いと言え。俺もこの不味さを我慢して食ってるんだ……」
そう言って俺は黙って老剣士の前で自分の肉を食っているが、そろそろ限界か。あからさまに体調が悪くなっているのを、俺の腹が警告を出している。さて、死ぬか。
「ゔっ!? がはっ!!」
俺は、老剣士の前で吐血する。まるで内臓がみるみると腐っている感覚を覚えながら、余りの腹痛に吐血、目眩、動悸、息苦しさ、吐き気凡ゆる負の症状がフルコースで襲ってくる。
「オ"ェッ……ゲホゲッホ……あ、あぁ……」
「どうした!? 若者や! おおおお!!」
──────────────────
目を覚ますと、目を丸くして驚く老剣士が、俺の死体を揺さぶる途中で生き返った俺の存在に気が付き頭を上げる。
「爺さん。俺は生きてるよ」
所有スキル:
・【死亡転生】
・【噛み付き無効】
・【猛毒無効】
一回の死亡で猛毒無効が身に付いた。きっと長時間かけて自分の身体を蝕んでいたからだろう。臓器にダメージが及ぶ度に、それが部分的に死んだと判定され、体が完全復活するまでに成長が加算されたか。
俺が生きている事を死体の前で老剣士に言うと、飛び上がる様に驚く。
「ほわっ!? なんて事じゃあ……体が再生するとは言ったものの、まさか死から復帰するとは……これではまるで不死身では無いか!」
「そうだな。だからさ、この事は誰にも言わないでくれよ? 余計な奴らに目を付けられたら面倒だからさ」
「確かに、そうじゃな。分かった」
で、恐らく死んだ理由は拒絶反応だろう。何せ人間の肉は食うと様々な病気を発症する言うが俺の場合、食ってから一日も経過していない。身体に合わない物を無理に摂取した事で、身体の耐性が限界に達し、溜め込んでいた物が一気に吐き出される衝撃がアレだ。それも、死ぬレベルの。
「さて、俺は爺さんに秘密を喋ったんだか、俺も話を聞かせて貰おうか」
「なに? 儂はお主の求める情報など持っておらんぞ?」
「別に脅迫してる訳じゃ無いよ。俺はつい最近此処に来たばかりなんだ。だから、もし知っているなら此処らへんの情報でも教えてくれないか?」
「なるほど! お主も儂と同じ浪人だったか。ええじゃろう」
老剣士は、何やらボロボロになった服のポケットから、これまたボロボロの古そうな地図を開いて、現在位置を確認する。
「ん〜、此処は例のアレ以外何にも無い草原じゃのぉ」
「例のアレ?」
「うむ。何処の国のもんか知らぬが、中継拠点という物があっての、要は境界線を監視する場所じゃ。更に、不用意に近づく者を問答無用に殺すかなりヤバい所でもある。この先を行くなら少し迂回せんといかんのぉ」
なるほど拠点か。なら早速そこに話を聞きに行こう。きっと話が通じれば良い情報をくれる事間違いなしだ。
「ありがとう。なら俺はそこに行くよ」
そうして俺は老剣士に軽く手を振り別れようとした所、必死に止められる。
「待て待て待て! 早まるで無い! 例えお主が不死身でも、彼処は常に厳戒態勢。運よく潜り込めても即座に殺されるのが落ちじゃ!」
「それで良いんだよ。爺さんは何処に行くんだ? 情報を手に入れたら共有しよう」
全く聞く耳を持たない俺に老剣士は、唖然とした表情になると、どうやら諦めた様だ。
「ほ、お主がそこまで死にたいと言うのなら止めはせん。儂とお主は赤の他人じゃ。儂が情を入れるのも可笑しな話じゃろうて」
「あぁ、そうだな。じゃあまた、何処かで会うだろう。またな」
「うむ。達者での」
俺は次こそ老剣士に別れ言い、聞いた拠点の方向へ向かう。
死ねば強くなる!地獄過ぎる異世界転生譚! Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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