少女と不良『百合ぽい』
赤木入伽
少女と不良
【第二話】
「ずっと好きでした! 付き合ってください!」
少女が告白したその不良は、かなりの女好きでしたが、かなりのイケメンとして有名でした。
なので、このように不良の周りには当然のように女の子が集まり、当然のように不良は女の子からの告白を受け入れ、ひとしきり遊ぶのが日常だったのです――が、
「失せろ」
驚いたことに、不良は即座に少女の告白を断ったのです。
「好みじゃねえ」
と、不良は語りましたが、少女はむしろ不良の好みと言って良い顔立ちでした。
ただ、それを知ってか知らずか、少女は諦めませんでした。
朝から晩まで不良にアタックし続けたのです。
学校の登下校時も、バイト中も、コンビニ前でたむろ中も、不良にアタックし続けたのです。
一ヶ月間も。
さすがにストーカー並みではありましたが、不良の仲間からは受けが良く、もはや少女は不良の仲間と言って良い存在にまでなっていました。
しかし、不良は少女を睨み、尋ねました。
「……てめぇ、俺のこと気づいていて、やってんのか?」
すると少女は悲しげな顔で不良に答えました。
「……あなたこそ、私のこと気づいていて、やっているの?」
【第一話】
吉村夏樹という小学生の女の子は、目が見えなくなってしまいました。
けれど、お医者さんには「手術すれば治る」と言われたので、夏樹は悲しい気持ちにはなりませんでした。
それどころか夏樹は病院を冒険したり、音だけで何が起きているか推理したり、めったにない機会を満喫していました。
また、入院生活をともにする一ノ瀬翼という女の子とも友達になりました。
「そんなら、ジブンの手術が終わるまで、ウチがジブンの目になったるわ」
翼もまた入院するくらいの病状ではありましたが、明るい関西弁で、夏樹と一緒に遊んでいました。
しかもいよいよ目の手術の日となったら、
「なあ、ウチら、大きくなったら結婚せえへんか?」
「うん。いいよ」
仲が良くなりすぎた夏樹と翼は、結婚の約束までしてしまいました。
ただ、そんな明るい雰囲気がお医者さんをリラックスさせたのか、手術はなんの問題もなく終了しました。
そして一週間後、目を覆う包帯を外す日のこと。
「わぁ……ちゃんと見える」
夏樹はまぶたをパチパチして、首をぐるぐる回して、そこにあるもの全てを目の奥に映しました。
手術はちゃんと成功していたのです。
しかし、不意に夏樹は不思議そうな顔をしました。
「あの子は?」
夏樹の目に映るのは、お父さんとお母さん、お医者さんと看護師さん、あとは同部屋に入院する知らない少女が三人だけでした。
「あの子はどこ?」
夏樹は両親に訴えますが、その言葉を聞いて、同室の少女の一人が顔を暗くしました。
「あのね、私、翼って名前の子と友達になってね、結婚の約束したの。翼って名前の男の子と――」
【第三話】
ひとしきり揉めました。
罵倒もしましたし、泣きわめきました。
ただ、少女と不良は分かり合えました。
「……ごめんなさい。……あなたを試すみたいなことして……」
「……いや、俺のほうこそ……。俺は、お前に勘違いされて、それがショックで……。だから最初は気づかないフリしてたんだけど、でも、今のお前を傷つけたいわけじゃなかったから……。ごめん……」
互いにうつむき、謝罪しました。
そして、少女は不良に抱きつきました。
不良の背は高く、少女の顔は不良の胸元に埋められました。
その胸は見た目以上に柔らかなもので、少女は思わずクスリと笑い、不良は「なんだよ」と言います。
なので少女はもう一度謝ります。
「ごめんなさい。でも、あなたって顔が中性的なのに、胸はちゃんとあるんだなって――」
「んだよ、わりいかよ」
不良は不満そうに、けれど頬を赤くして言います。
ただ、
「ううん。背が高くて、胸も大きいなんて、憧れのスタイルだわ」
少女が笑顔で言って、その頬はまたさらに赤くなりました。
そして、さらに、
「ところで……、あの時の結婚の約束って、まだ有効? 翼ちゃん」
「え……、いや……、さすがにガキのころの話やし……せやけど、ジブンが良いなら」
少女――夏樹が問うと、不良――翼はこれ以上ないほど顔全体を赤々とさせました。
少女と不良『百合ぽい』 赤木入伽 @akagi-iruka
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