28.いま、なんねん?
さて。
「王女様、おめでとうございます!」
「どうぞお幸せにー!」
ファーブレスト王国第一王女ローザティア殿下と、ガルガンダ公爵家子息セヴリールの結婚式は快晴の日に国を挙げ、盛大に行われた。
次期国王と王配の誕生を、民は皆喜びを持って迎えた。賓客として招かれた近隣国の首脳たちもその華やかさと次期王の聡明さ、美しさに魅了され、親しい国はより交流を深め、そうでない国も今後の友好関係を約したという。
クローラン伯爵位を継いだ上でツィバネット男爵家への婿入りが内定していた元第一王子ティオロードの出席は叶わなかったが、後々に開かれた身内だけの宴には招かれたそうだ。
ただ、そのとき彼は学園卒業時よりも筋肉のついたたくましい体つきになりつつあったにも関わらず、かなり疲れた顔をしていたらしい。
「何だ、まだ訓練には慣れんのか?」
「……姉上も義兄上も、何でアレを平気でこなせるのですか……」
「あの訓練を涼しい顔でこなせるようにならねば、ファーブレストの王なぞやれぬからな」
「私も、殿下にふさわしい男であろうとして鍛えましたから。国王陛下も、未だに基礎訓練に混じっておいでですしね」
「…………なんだか俺、王族離れてよかったかも!」
王女とその配偶者の涼しい顔に、元王子は自分の至らなさを心の底から確信したようである。
彼を婿として迎えたツィバネット男爵家は、ほどほどに繁栄した。ただし男爵家の血を継ぎティオロードを婿として迎えたクラテリアは、領地の運営や貴族としてのマナーに疎く後々まで苦労した、という話だ。
「やっぱりめんどくさいですー!」
「クラテリア様! 基本的な礼儀を覚えなくては、国内どころか海外にまで恥を晒すことになりますよ!」
「ティオ様あ、たすけてくださーい!」
「彼女は元王家のメイド長だからね、しっかり教えてくれるよ。ちゃんと覚えたら、胸を張って外国の大使たちとも会談できるようになるから! 頑張れクラテリア!」
「ひいいいいいいい!」
さほど大きなものではないツィバネット男爵の屋敷から、よく大声が聞こえるのが一種の名物となっている。そうしてそれを聞いた子供たちは、ちゃんとした挨拶や食事の仕方を覚えないとあんなことになりますよ、という親の言葉をよく聞いたという。
アルセイラ・フランネルは、程なく七歳年上の侯爵家嫡男の妻として迎え入れられた。ファーブレスト王家の遠縁に当たる家柄で、彼女は夫と仲睦まじい家族を作り上げたそうだ。
ニルディック・ワンクライフとリーチェリーナ・ベオティカン、ジョエル・オーミディとマリエッタ・プラネル、そしてステファン・ガルガンダとミティエラ・グサヴィットは結局元の鞘に収まり、それぞれに夫婦となった。もっとも全ての家庭において、妻の発言力が大きくなったことは言うまでもない。
そうして時が流れた現在、ファーブレスト王城には一つの噂が囁かれている。
王城の地下には存在しないはずの地下牢があり、そこには囚人がひとり収められている。
『彼女』はいつ収監されたのか記録がなく、ひょっとしたら長い、長い時間を生きているのかも知れない、と。
「……いま、なんねん? なんがつなんにち?」
地下の食料庫や倉庫などで、時折その声は聞こえるという。
か細く力のない、囚人の声が。
弟の婚約破棄に姉は怒る~王女殿下の憂鬱な日々~ 山吹弓美 @mayferia
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