&α 内偵の後の

「でね。その中堅社員が良い仕事するのよ。それに、こんなにかわいいわたしのかおを見ても欲情しないの」


「そりゃあすごいねえ」


「それでね。その中堅社員さんのお嫁さんがまたきれいでね。あ、わたしのほうがきれいなんだけどね」


「おまえさ」


「うん?」


「黙って酒呑んでれば最高なんだけどなあ」


「あはは。むりむり。わたしお酒呑むと饒舌だから」


「顔はいいのになあ」


「あなたはどうなのよ。イケメンのくせに黙ってるけど。なにかしゃべりなさいよ。いいおとこがだいなしよ?」


「喋ることがねえんだよ。毎日テロリストと顔突き合わせて笑ってたんだぞ。それも、子持ち偽装の女までいて」


「きれいだったの、その女性テロリスト」


「全然。おまえを見てるからな」


「あら。うれしいわ。あっ店員さん。ビールおかわり。ピッチャでください」


「はあ」


「なによ」


「ピッチャで呑む酒はうまいですか、美人さん」


「それはもう。最高ですよイケメンさん」


 普通の居酒屋。普通の風景。紛れる内偵者が、ふたり。

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生きる内偵、死ぬ内偵 春嵐 @aiot3110

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