魅入る程の姿を引き連れて
スタスタスタスタ……
てくてくてくてく…………
何気ない効果音のつもりには聞こえるだろうが、俺の内心はこうだ。
――待て待て待て待て。
どういう基準と仕組みで選んだのかは知らんがなんだこの俺に刺さるような容姿は!
訂正:俺好みのこの容姿は!!!
……いや、一旦ソレは忘れて、今の自分がすべきことを思い出すんだ。
「……ふぅ…………」
深呼吸を入れる、落ち着け落ち着け……。
――初めて入った奴隷にはまず、宮殿内の案内と、束縛魔法の永久付与が義務として課されている。
前者は急用があったときにすぐ奴隷が主人や従者の元に向かえることができるため。
後者は身勝手な逃亡への対策だということで、世界共通の法律として定められているもの。
「………………」
「………………何か御用でしょうか、主様。」
「! …………いや、何でもない。少しボーッとしていた。」
――この御時世、奴隷へ貼られているレッテルは『絶対従順』。
向こうから様子を伺いに来るという言動は普通見られないが…………。
「…………」
一度見ると見入ってしまうような気がする。あんま見ないようにしとこう………………。
□□□□□
「――――それでここが俺の部屋だ。困ったらいつでも来て、何でも聞いてくれ。……どうだ、屋敷の構造は分かったか?」
無言でこの少女はこくりと頷く。
まあこんな流し説明で100まで理解できるとは思わないが……それより補足しておこう。
「ああそうだ。お前、奴隷になってからどれくらい経ってるか?」
言わずとも予測は付くが、奴隷は経験値が大きく差に出てくる。
心身の負担は勿論のこと、一定の作業のルーティーン、主人への気に入られ方…………言ってしまえば媚び方、など。
この子のように無言で清楚に振る舞って従順に尽くすことも、そのやり方の一つと言えるだろう。
だがそんな思考を打ち消す答えが、彼女から帰ってきた。
「…………ざっと、900年くらいでしょうか…………自分では記録を取っておらず、正確な数値は不明です。申し訳ありません。」
深々と謝罪する姿は無論愛らしいものなのだが――今はそんなことどうでも良い。
900年。
破格の数値に、俺は流石に戸惑いながらも思考と会話を続ける。
後ずさらなかっただけまだマシだろう。
「900か……長寿種族――――いや、今ここで聞くのはマストじゃないな。少し俺に着いてきてくれ、案内したい場所がある。」
「了解です。」
即答でハッキリ返事をする様を確認してから、足を進めた先にあるのは。
『巨大異空間図書館-グレイリア』
その場所の入り口には、こう書かれた札が吊してあった。
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