第5話:未来に向けて
クヴァールは今日も聖なる竹林を護っていた。
襲い来る魔獣を屠る事だけを考えて、全力でハルバートを振るう。
その側には、柔らかな毛皮と布の入った籠が置いてある。
その籠の中には、まだ生まれて日の経っていない赤子がいた。
クヴァールが養子にした子供だった。
「おっぎゃあ、おっぎゃあ、おっぎゃあ」
赤子の籠の側にいた男が、直ぐに赤子を抱き上げた。
この村の男で、クヴァールが護る母竹の片親だ。
既に乳が張って来ているので、借り乳するために村外周の警備から、聖なる竹林の護衛役に変更してもらっていた。
実際には護衛ではなく赤子の世話役であり乳父だ。
「おお、よい、よし、よし、直ぐに乳をあげるからな」
村の男は赤子の事を不憫に思っていた。
クヴァールから聞かされた話では、赤子の両親は二人とも死んでしまっている。
クヴァールが村に行く前に魔獣の襲撃があり、母竹を護るために殺されていた。
もしクヴァールが約束より早く無報酬できてくれていなかったら、自分達も死んでいたかもしれないし、愛しい子供も生まれる前に喰われていたかもしれない。
そう思えば、村の男が籠の子に同情するのも当然だった。
「「「グッオオオオオオオ、グッオオオオオオオ、グッオオオオオオオ」」」
村の男は、いきなり三頭もの熊のような魔獣が現れて腰を抜かしてしまった。
普通の人間にとって、魔獣は全て死の使者なのだが、その中でも熊型魔獣は飛び抜けて強力な死の使者だった。
しかもその熊型魔獣が三頭も同時に現れたのだ。
自分の子供を護ろうと思っていても、本能が身体を硬直させていしまう。
「これは金になるいい相手だ」
だがクヴァールは余裕綽々だった、いや、自分にそう言い聞かせていた。
自分がただ独り敬愛する養父、育ての親でもあり師匠でもある漢。
一人の漢としても心から愛したが、最後まで父として師としてしか接してくれなかった、片想いの相手。
師父のような漢になりたいと、今も想い続けている人。
師父が両親を亡くした自分を養子にして育ててくれたように、両親を失った赤子を一人前に育ててみせると誓っているクヴァールは、襲ってきたのが熊型魔獣三頭であろうと、恐れているわけにはいかなかった。
赤子を抱えて守護役をするために必要な武器も戦い方も、師父を見て育っているから完璧に学んでいた。
双剣術にも使える、ほんの少し短めの剣を、連続して熊型魔獣三頭に投げつけ、同時に自分も突進していた。
短剣の刃渡りや重みでは熊型魔獣の急所届かないが、特注の総真銀製の剣ならば、確実に斃すことができる。
こうして聖なる竹林を護る系譜が続いていく。
男性愛の結晶の護り手 克全 @dokatu
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