第4話:夜這い

 クヴァールは危険な深夜の夜道を駆けていた。

 聖なる竹林を護り、母竹から子供が誕生したその日だった。

 いや、既に日付は変わっていたが、同じ夜ではあった。

 クヴァールは聖交には加わらず、酒だけ飲んで空き家で眠ろうとした。

 クヴァールは悪趣味ではないので、自分が加わらないのに聖交の場に残って、愛し合う男達の営みを見て楽しむ気はなかった。


 クヴァールも予測はしていたのだが、その空き家に夜這いをかけてくる者がいた。

 まだ十三歳の若衆が、常人離れしたクヴァールに憧れたのだ。

 いや、ひと目見て恋焦がれたと言ってもいい。

 村の指導者達も、わずかな期待を込めて止めなかった。

 万が一にもクヴァールが若衆を気に入って村に残ってくれれば、村にとってこれほど喜ばしい事はなかった。


「すまないな、俺には忘れられない想い人がいるのだよ」


 クヴァールは若衆にそう言うと的確に当て身を喰らわせた。

 痛みのないように、翌日に痛みが残らないように、絶妙の力加減をして。

 そしてクヴァールは空き家を抜けだし、村から出て行った。

 普通の人間なら、魔獣や獣の闊歩する夜の世界に出て行かない。

 だがその歩みには、一切の怯えも躊躇いもなかった。


「ウォオオオオオン」


「「「「「ウォオオオオオン」」」」」


 村を出たクヴァールを、直ぐに狼の群れが察知した。

 魔獣ではないものの、普通の人間には十分命の危険がある相手だ。

 そんな狼が自分を狙っていると分かっても、クヴァールは平気だった。

 むしろ嬉しそうに片頬をわずかに歪めていたが、これが彼の笑顔だった。

 今日は高価な虎型魔獣を手に入れたが、これは競売に出して金に換える心算だったので、食用に狼肉が手に入る事が嬉しかったのだ。


 狼や山犬の肉は独特の香りがあって、人によって好き嫌いがあるが、腸さへ取り除いてしまえば、クヴァールには美味しく食べられるいい獲物だった。

 毛皮も安くない値段で買い取ってもらえるから、情け容赦せずに狩る。

 次の護衛先は決まっているが、まだ契約日は数日先だった。

 早めに入って無料奉仕するのなら、自前の食糧があった方がいい。

 寒村の中には、護衛に提供する食糧すら、自分達の食事を削って都合をつけている所があるのだから。


 クヴァールは自分を襲おうと集まってくる狼の群れに無造作に突っ込んでいった。

 何の危機感も持たず、無人の野を行くが如く、一気に狼の群れに向かう。

 そして愛用の槍を縦横無尽に振るい、毛皮の価値を損なわないように、最小の傷で狼を屠っていく、わずかに片頬を歪めながら。

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