第3話:聖交

 クヴァールが魔獣を斃した直後に、母竹から子供が誕生した。

 喜びが爆発した両親が、交互に父乳を与えている。

 これが神が与えた奇跡の一つで、子供を宿す事はできなくても乳は出るのだ。

 愛児を抱く二人の男の笑顔が、クヴァールには何よりの御褒美だった。

 だが、金銭的な利益も確保しなかればいけない。

 金が絶対ではないが、稼げるときに稼いでおかなければ、今回のように本当に困っている村を、無報酬に護ってやることができなくなる。


「では、約束通り斃した魔獣は俺がもらうぞ」


 誰も何も文句を言わず、表情を変える事すらなかった。

 心根の卑しい村では、ちゃんと契約していても、何かと難癖をつけて、クヴァールが斃した魔獣を奪おうとする。

 まあ、そんな時は、クヴァールも一切の容赦はしない。

 村の上層部を皆殺しにする事も厭わない。

 その方が多くの村人に感謝されることがほとんどだ。


「これからこの子の誕生祝をするんです。

 貧乏村で大したもてなしはできませんが、酒でも飲んでいってください。

 独り者もいますんで、その……」


 神の奇跡で授かった子供が無事に母竹から誕生する。

 これほどめでたい事はないので、どんな寒村でもできる限りの祝いをする。

 そしてその後で、聖なる宴をもよおす。

 早い話が、子供を授かりたい男が性交をするのだ。

 まあ、神聖な儀式という事で、聖交と当て字しているが、やる事は同じだ。

 貧乏なこの村では、クヴァールに感謝を表すのに、独り者の男を提供すると言っているのだが……


「せっかくの御好意だから、酒は御馳走になろう。

 だが俺には心に決めた男がいるから、聖交は辞退させてもらうよ」


 クヴァールの言葉に、心から残念そうにする若い男が多かった。

 まだ恋人のいない男達にとって、クヴァールのような漢は格好の結婚相手だ。

 いや、恋人や結婚相手になれなくても、一夜の相手としても極上の相手だ。

 初体験をすませていない若衆だと、一生の思い出に菊座を捧げたいと思っていた者もいただろう。


 まあ、村の指導者層に強かな狙いがある事など、クヴァールは先刻承知していた。

 万が一にもクヴァールが気に入るような若衆がいれば、精強無比の戦士が村の住人となってくれる。

 聖なる竹林を護るのも、魔境で狩りをするのも、これほど心丈夫な事はない。

 だからこそ、この機会に男を勧めたのだが、あっさりと断られた。


 クヴァールには忘れられない初恋相手がいた。

 共に学び、共に戦った幼馴染の事を忘れて、他の男に抱かれることも、他の男を抱くこともできない。

 

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