羨ましい



あの子は私の前を歩いている。


もちろん、隣合わせに歩いていたときだってあった。


でも


ほんの少しの気持ちと、

ほんの少しの勇気と、

ほんの少しの根性の違いで、


私は、おいていかれてったのだ。

しかし、あの子は待ってくれてた。

なのに私は意地になって、あの子を突き放した。

気がつけば、あの子は私の前にいた。


「・・・憂鬱過ぎるな・・・・・。」


専門学校での講義。

将来のことを考えながらぼんやりと話を聞いていた。

わざわざ高校を中退してまで決めた進路。

自分の夢を諦めたくはないがために受験をした、声優になるための専門学校。

プロの声優さんがわざわざ講義したり実技をみてくれたりしているのに。


・・・・そうじゃないあの子が、同等の立ち位置にいるのが辛かった。

ぼんやりとしているうちに講義は終わり、私は座っている席から動く気さえ失せていた。


「ねぇ、海ちゃん。」

「なに?」


同期の友達のまゆが、私に話しかけた。


「空さんと知り合いなんでしょ?」

「空?」

「うん。角館空さん。歌がすっごい上手な人!」


それを聞いて、さらに憂鬱な気分になる。


「で?」


「空さんって、どんな人?私、見たことなくて。

歌声は聞いたよ。

澄んでて、柔らかくて、素敵だと思ったの!」


憂鬱な気分はもう仕方がない。

そう割り切った。


「空ちゃんは、お人好しかな。」


そう、うらやましいくらいに。

もしも私が空ちゃんと同じ立場にいても、私は空ちゃんみたいなことは絶対にできない。

学校に来ない人間を、毎日毎日始発の電車に乗って迎えに行くなんてできない。


「努力家で、音楽が好き。」


あの子はいつまで

いつまで私の前にいるの・・・・・?


「空さんのこと、好き?」

「・・・嫌いになれたら、こんな憂鬱にはならないだろうな・・・・きっと。」


私はずーっと羨ましかった。

自分の意思を貫いていけるあの子が。

本当は、大好きだった。


「会えば、わかるよ。」


あの子はうらやましいぐらいに、自分で自分の世界が変えられていること―――――。

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いつでも 大路まりさ @tksknyttrp

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