第62話 死と誕生

 いったいどこをどう歩いたのか……気がついたとき、わしはアクタを入院させている闇医者やみいしゃの診療所の前にいた。


「アクタ……」


 「実験」の話でしばらくアクタとは離れていたからな。


 とにかく一刻も早く会いたい、そう思ったよ。


 さきほどのおそろしい事件のことなど、すっかり忘れてな。


「アクタ――」


 ……死んでいたよ……彼女は……


 「子」を産んだ、そのショックでな……


「あ……があああああっ!」


 衰弱すいじゃくしきった体での出産……しかも、よりによって「双子ふたご」……


 それに、肉体も精神も、耐えられなかったのだ……


「ああああああああああっ!」


 わしはさけんだ……


 ひたすら、むせび泣いた……


 アクタの死……


 それによって誕生した、「わが子」を抱きしめてな……


 そしてすっかりなみだてたころ……


 またわしに、悪魔がささやいた……


 あるおそろしい考えが、頭に浮かんだのだ……


(『第63話 呪われた存在』へ続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る