第52話 毒虫の鏡月
「人間って、何だろう?」
「なぜ僕は人間であって、虫ではないのだろうか?」
彼はしゃがみこんで、その毒虫をじっと観察した。
「お前は、いいね」
名前もわからないような毒虫に、彼は語りかける。
「人間は、疲れる。僕は、君になりたいよ」
似嵐鏡月の
*
京都の
鏡月は
「あらら鏡月、もうへばったん? あんたが
「鏡月っ! なんや、そのザマは! 次期当主としての
それでも鏡月は次期当主の座を
「お父様、鏡月は
「そうやもしれん。まったく、人間がどうたらなんぞ、考えんのになんの意味があるんやろうかの。はーあ、似嵐の家も、わしの
*
「僕はきっと、向いていないんだ、人間に……だから、君になりたい……僕は、毒虫になるんだ……」
そっと手を
ほら、もう
「
竹林の奥から
似嵐一族の者より
「若様、お
「アクタ、ありがとう、心配してくれて。でもここにいたらダメだ。僕といっしょにいるのが
「何をおっしゃいますか。若様はわたしのようないやしい
アクタは
「アクタ」とは「
だが、彼女は幸せだった。
鏡月だけは心を許し、大切にしてくれていたからだ。
若様だけは、わたしを人間
それがなによりうれしく、
鏡月もまた、純粋に自分に
それはいつしか、特別な感情に変わっていた――
「アクタ……!」
「――っ!?」
似嵐鏡月は、アクタを
「おやめください、若様! 身分が違いすぎ――」
口づけ。
アクタの思考は吹っ飛んだ。
ああ、信じられない。
「願い」がかなった。
うれしい。
こんなに幸せで、いいのだろうか?
「ん……」
見つめ合い、ほてった顔を
「若様、どうか、こんな
「僕のほうこそ、こんなことをしてしまって……許しておくれ、アクタ……」
竹林の
*
鏡月の姉・似嵐皐月だ。
彼女はペロリと舌をなめ、その場から姿を消した。
『事件』が起こったのは、明くる深夜のことだった――
(『第53話
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