泥沼シンジケート
ヒデころ
泥沼シンジケート
「私の言う事が間違っているとでも言いたいのか! 正義のため、世のため人のために日々活動する、この私を!」そう、私は正しいのだ。「私に反発するということは、それはお前達、正義に楯突くのと同じことだ!」
私は正義の味方。だから私は正しいのだ。
「そんな話はしていない! 法治国家として――」
「それとも何だ? 貴様らは、自分がただの犯罪者予備軍だと自覚していないのか?」この法律が制定されれば、多くの人が幸福になる。故に私は正しいのだ。
「だが、第二次――」
「黙れ黙れ! これ以上狂った偽善者に付き合ってられない! おい、そこの警官共、何を突っ立っている⁉ 早くあの粗大ゴミを廃棄しなさい! 奴らは犯罪を奨励しているのですよ!」
「なっ!? おい、何をする! やめろ、放せ! こんなものは違憲だ、独裁だ――」
私に歯向かった悪人達は引きずられて行く。民衆の敵は政治の世界から追放された。これで良い。私は正しいのだ。
「よし……もう反論は無いですよね?」辺りを見渡すが、敢えて口を開こうとする愚者はいない。当たり前だ。私は正しいのだから。「これで、私が提案した法案は”全会一致で可決”です。当然の結果ですがね」
不快行為禁止法。それが新しい法律の名前。内容は簡単、『他者が不快になる行為は、これを禁ずる』。自分の事しか考えない猿なんて、罰せられて当然。私は正しいのだ。
「では、何から手を付けるか、考えましょうか」静かになった国会議事堂に、正しい私の声が響く。「それでは手始めに……漫画、アニメ、ゲームなどといった無意味な娯楽は駆逐しなければ。私自身、あのような反社会的な表現を見ると前々から不快だった。ああいった物の生産は今すぐにやめさせるべき。あんな物があるから犯罪が無くならない。皆もそう思うだろう」
「…………」
弱者の事も考えてあげる、優しい私は正しいのだ。
「それと、テレビ番組の検閲も再開するべき。食事時にブサイクなオッサンなんか見せられたら、消化に悪いだけ。どう? あなた達、さっきから黙っているけど、まさか反論でもしたい?」
「いえ、滅相も無い……」
民衆の夕食の事も考えてあげる、賢い私は正しいのだ。
「せっかくだから、成績の悪い子供もさっさと処分しましょう。空っぽの頭ではどうせ良い事など出来やしないのだから、誰かに迷惑をかける前に悪の芽は摘んでしまえばいい。おや、何かご意見ですか? ああ、あなたのお子さんは少しばかりテストの点数が低いのでしたね。残念ですが社会のためです。例外はありません」
「そんな……!」
将来世代の生活も気にかけてあげる、思慮深い私は正しいのだ。
「ついでに、男などというすぐに性犯罪に手を染める浅はかな生き物は、全員まとめて早急に国家の監視下に置くべき。私達のような心清き者だけが生きる、優しい国を目指しましょう。議員の数も随分減りますが仕方無いですよね」
か弱い女性を守ってあげる、平等を重んじる私は正しいのだ。
私は今、刑務所の中にいる。
私の正義の鉄槌により、全ての書籍、全てのテレビ番組、あらゆる絵と文章から暴力描写や性描写が排除された。完璧な子供などこの世にはおらず、未来予知など不可能なため全ての男は塀の中。物も、人も、どんどん消えた。そして確実に、事件も事故もどんどん減っていった。
そこまでは良かった。
調子に乗った尻軽をちょっと殴っただけで逮捕されるなんて不快だ、との非難によって警察は事実上の消滅を見せた。ライバル企業の存在が利益を減らすから不快だと言い合った国内の大手企業は日に日に解体された。金が無いと買えない物が目に入るのは不快だと、あらゆる商店が破壊された。
そして私は――。
「アンタのせいで国中で大混乱だ。これもお前が、身勝手な価値観で腐った法律を作ったからだ。何が正義だ。イケメンの顔も見れやしないこんな国で、誰がまともな生活なんか送れるもんか、この不快なクソ野郎が」
あの法律が出来た半年後に、私が投獄された理由。私を告発したデモ隊の言い分だ。ああ、今でも覚えている。
一体なぜ? これだけ民衆の事を考えてやったというのに。
「……そうだ。間違っているのは愚かな凡人の方だ、私の意図を理解しなかった馬鹿な国民の側……!」
正しいものに逆らうのは間違っている証拠。
「そうだ! 私は正しいのだ! 私こそが正しいのだ!」
私は正しいのだ。だから、私は正しいのだ。
なぜなら、私は正しいのだから。私は正しいが故に、正しいのだから。
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