6. ようこそ、クズスキル持ちの楽園へ
(本当に俺たちだけで、あいつらに勝ったんだな)
立ち去るアギトたちを眺めながら、俺は高揚感を隠しきれずにいた。
そばに控えるサーシャも同様だろう。
それは生まれ持ったスキルに恵まれなくてもやれるという証明、初めての達成感。
その事実を誇るように、辺りにはサーシャが蹴散らしたモンスターの死体が転がっていた。
「悪い、街に戻るのは少し待ってくれ。
せっかくのAランクモンスターだ、素材は持って帰ろう」
「え、いいよ。雑用は私の役割。
リーダーは休んでて?」
「いやいや、雑用は基本的に俺がやるよ」
これまでの悲しき習慣だろうか。
誰もが面倒くさがる雑用を、何故か俺たちは奪い合う。
名前も実績もない小さなパーティーだ。
ここでお金になりそうな素材を持ち帰る意義は大きく、そのことはサーシャもよく理解していた。
「やっぱりリーダーは考え直さないか?
どう考えてます、柄じゃないよ」
「……生き残ることができたのも、元・パーティーメンバーと決着を付けることも出来たのも、全部エイルのおかげだもん。
あなたがいないと、私は人並みに戦うことも出来ない。
――このパーティーの要は、間違いなくあなただよ」
少々の言葉は本心からのものだろう。
その瞳から感じたのは、揺らぐことのない真っ直ぐな信頼。
(そんなことはないと思うんだけどなあ)
俺の目から見て、少女は普通に強い。
パッと目立つスキルはなくとも、俺の支援を受けた状態――理想の姿をイメージするだけで、大きく身のこなしを改善してみせたのだ。
ある種の天才と言えるだろう。
そんなことを考えていると、少女がそそくさとやって来て、モンスターの毛皮をはぎ取りだした。
「ふふん。どうやらモンスターの後処理は、私のほうが得意みたいだね?
リーダーはどっしり構えて、これからどうするか考えてよ」
テキパキと手を動かしながら、サーシャはドヤ顔を披露する。
これまでのパーティーで、雑用を一手に引き受けてきたのだろう。
かなりの手際の良さだ。
「むっ。俺だってモンスターの毛皮を剥がせたら、右に出るものはいないてたんだ。
その発言は、俺に対する宣戦布告か?」
「そ、そういう訳じゃないけど……」
そうして俺たちは、なぜか競い合うようにモンスターの後処理を進める。
毛皮を丁寧に剥ぎ、汚さないよう丁寧にポーチにしまう。それから値段が付きそうな状態の良い牙があれば、それも防腐液に浸してしまい込む。
やっていることは普段と変わらない単調作業のはずなのに、不思議と楽しい時間だった。
「……悲しいことにさ。
人が雑用してるのを見てるだけって、本当に落ち着かないんだよ」
「分かる。これまでずっとやって来たし――それを当たり前だと思ってたもの」
パーティー内で、俺たちの扱いは底辺だった。
雑用をすべて完璧にこなして当たり前。何かミスがあらば容赦なく罵倒される――そんな世界。
メキメキと腕が上達するのも当然のことだった。
「2人でやれば、こんなにすぐ終わるのにな」
「本当にね。偉そうに指示だけ出して、自分は見てるだけ。
それを当然の権利だと思ってる」
どこも似たようなものだ。
やるせないが、それが現実。
「同じ思いをしてきた人たちは、他にもいっぱいいるんだよね」
「そうだな」
「どうしようもないのかな?」
心優しい少女の純粋すぎる言葉。
普段なら「どうしようもないさ」と答えただろう。
すべての感情を呑み込んで、笑ってみせただろう。
それが賢い生き方、現実と折り合いをつけていくということだ。
――そんな現実なんてクソ喰らえだ
「これからどうするか決めろって、そう言ったよな?」
さっきまでの高揚感をそのままに。
獲物でパンパンになったリュックを背負い、俺はサーシャに尋ねる。
「エイルは私の恩人だから。
あなたが決めたことなら、私はどこまででも付いて行く」
捧げられたのは忠誠。
サーシャはまるで身分ある騎士のように、改まって誓いを口にした。
……お陰で、口にする決意が出来た。
人前で口にしたら、正気を疑われそうな夢。
「俺はクズスキル持ちの居場所を作りたいんだ」
口にして、想像以上にストンと胸に落ちた。
俺がこんなスキルを手にしたのは、その願いを実現するため――そんな都合の良いことまで考えてしまう。
「クズスキル持ちの居場所?」
「ああ、持って生まれた物で運命が決まってしまう世界。
そんなのって――あんまりじゃないか?」
サーシャと俺の人生は、踏みつけられるのが当たり前だった。
まともなスキルを持っていたなら、違う未来もあり得ただろう。
冒険者として最前線で活躍する、そんな華々しい未来。
クズスキルと判定される者は、決して少なくはない。
この世の中には、同じ思いをしている人も大勢いるはずだ。
「俺が作りたいのは、誰にも踏みつけられることない世界。
当たり前のことが、当たり前に認められる――そんな場所だ!」
諦めきっていた。
でも変えたいと願ってしまったのだ。
サーシャと出会って胸に灯った熱量をそのままに、俺は自らの願いを口にする。
「クズスキル持ちの居場所。
とても、とっても素敵な夢だよ!」
サーシャは目をキラキラさせて、そう言ってくれた。
「俺のスキルなら、全てをひっくり返せる」
サーシャが一瞬で、Aランクのモンスターを蹴散らせるようになったように。
クズスキル持ちは、断じてクズなんかではない。
――俺のスキルにとって、クズスキル持ちはまさに宝の山なのだ
「そうして居場所を作り出したらさ。
こう言って迎えてやるんだ――『ようこそ、クズスキル持ちの楽園へ』ってな」
ようこそ、クズスキル持ちの楽園へ! ~役立たずと言われたスキル【下剋上】は、弱いスキルほど超強化するチートスキルでした~ アトハ @atowaito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます