第九話 入学式乱入
「ここは南校舎。特別教室はこっちの校舎にあるの。で、あっちが北校舎。教室と職員室、校長室がある。北校舎からは講堂につながる渡り廊下、南校舎からは小体育館に繋がる渡り廊下があるよ」
私はただこの子を送り届けても、また迷ってしまったら可哀そうだから、軽く学校の施設を紹介してあげた。頷いて聞いてくれてはいるものの、ちゃんと記憶しているかは分からない。
北校舎の教室は1階が1年生の教室、2階は職員室と自習室、3階が2年生の教室、4階が3年生の教室となっている。
私は咲良ちゃんが4組だというので教室の前まで送り届けてあげた。
「ありがとうございました。波倉先輩」
「いやいや、大丈夫だよ」
「でも、お昼ご飯、小さい子に横取りされてましたよね?」
「……え」
やば。見られてた? ……終わった。最悪だよ。どうしよう。ええやばいやばい。先生にチクられたら終わりだよー! アマテラスー!!
(何どうした? ……ボクがご飯を横取りするところをさっきの子に見られてた!?)
お前のせいだからな。許さないからな。どうしたらいいんだよ。
「……波倉先輩?」
「え!? あ、いや、えーっと、そのー」
ねえ! どうしたらいいの!?
(……適当に誤魔化しといて)
あ、逃げんな!! おい! お前本当に許さないからな!! 今日の夕飯抜きにしてやるからな!!
「あー、気にしなくていいよ。大丈夫だから」
「ならいいんですけど……」
「……さっき見た小さい子の事、内緒にしといてもらっていい?」
私が誰にも聞かれない様に小さな声で言ったことを察してくれたのか、咲良ちゃんは黙って頷いてくれた。
「ありがとう」
マジで天使。
私はそろそろ昼休みの終わりの時間が近づいていることに気づいたので、咲良ちゃんにもう一度お礼を言って教室へと戻った。
♢ ♢ ♢
「これより、第17回山吹学園入学式を挙行致します」
教頭先生のかたっ苦しいあいさつで入学式は始まった。リハーサルはしていない。全体の流れを各クラスで確認しただけだ。在校生は一番初めの国歌斉唱と終わりの校歌斉唱以外することはない。ずっと座ってるだけだ。
教室で聞いた話だと次は新入生入場だった気がする。そんで私たちはそれが終わるまでずーっと拍手。
卒業式の時も思ったんだけど、これきついよね。威風堂々と一緒に拍手の効果音流せばいいんじゃないかな? 意外と名案じゃない?
(幸絵ー。そろそろ反応してよー)
さっきからずっとアマテラスが私に話しかけてきているが、無視し続けている。昼休みのアマテラスの行動は私の逆鱗に触れてしまった。自業自得だ。
拍手をしている間は本当に退屈だ。入学式がそもそもつまらないし、退屈ではあるのだけれど、この時間は来賓の式辞の次くらいに退屈である。仕方ないので、列を作って入場してくる新入生を何となく眺めていた。
あ、咲良ちゃんだ。やっぱり目立つよねー、あの青い髪と可愛さは。ほら、もう新入生でコソコソ話してる人いるよ。あれは間違いなく有名人になるぞ。
それにしても、今年の新入生目立つ子多いな。女子も男子も。金髪ハーフの子とかいるんだけど。咲良ちゃん意外にもかわいい子多いし。
「新入生の皆さんは着席してください」
ふう~。やっと終わったよ~。私たちの時もそうだったけど、この学校って新入生多いんだよね。1学年8クラスとか多いって。4クラスくらいでいいよ。そしたらもっと楽なのに。
あー退屈だなー。こんな時誰か話し相手とかいればいいんだけど。
(呼んだ!?)
でも喋ったらだめだしなー。本当に暇。
「それでは次に、来賓の方よ……」
ん? マイク切れた? 教頭先生がマイク叩いたりしてるけど。あーあーあーあ。こんな時にトラブルなんて、最悪だよ。こっちも待たされるじゃん。
私はざわざわと騒がしくなる場内で、一人溜め息をついて爪をいじり始める。昔からやたら爪が荒れる体質の私。爪の手入れはもはや習慣の一つになっている。
(幸絵! 何か来る!)
アマテラスのその言葉の直後、大きな音が校庭から鳴り響く。何かが勢いよく落ちたような音だ。最初は雷でも落ちたのかと思ったが、今日の天気は晴れだ。そんなことはあり得ない。
先生たちが校庭を確認しに行くが、それよりも先に講堂がパニックになった。
「何が起きてるの!?」
「怖いよー!」
「ここにいると危ないんじゃないか?」
生徒、特に在校生は勝手に立ち上がり講堂から出ようとする。しかし、教員はまだ安全が確保できていないからと、生徒たちを何とか講堂から出さないように制止している。
(幸絵! 今すぐボクの所に来れる?)
ちょっときびしそう……。何とか隙を見て講堂から出たいけど、まだ時間がかかるかも。……またフェンリル?
(いや、今回は違う。あれは、手のかかるボクの弟だ)
え? アマテラスの弟ってことは、神様ってこと!?
(スサノオノミコト。まだ懲りずに暴れるか……)
「えー、只今校庭にて問題が発生したようです。詳細は確認できていないので、安全確認が取れるまでここで待機していてください。繰り返します——」
マイクが復活したようだ。教頭はとにかくこの混乱を鎮めようと注意喚起をするが、誰一人聞く耳を持っていない。皆ここも危険なのではないかとひたすらに逃げ出そうとしている。
あ、非常口からなら出れるかも。
(分かった。今からそこに行く!)
全員がメインの出入り口に集中している隙を突いて、私は非常口から脱出することに成功した。
「幸絵!」
「アマテラス! 何が起きてるの!?」
「奴らが本格的に動き始めている。スサノオが来た」
「なんで神様が敵にいるのよ!?」
「その話は後! とにかくあいつを追い払わないと……!」
私は非常階段を駆け下りながらアマテラスから詳細を聞こうとした。しかし、どうやら十を話そうとするとかなり時間がかかるらしい。
「波倉先輩! どこ行くんですか!?」
「……咲良ちゃん!?」
私が階段を降りきったとき、頭上から私を呼ぶ咲良ちゃんの声がした。
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