第十話 スサノオノミコトとの戦い①

「ちょ、ちょっと待って。咲良ちゃん」

「いいえ、待ちません。何でその子、宙に浮いていたんですか? そもそもなんで学校にそんな小さな子どもがいるんですか? 教えてください!」


 何故だか私を追いかけてきた咲良ちゃんに尋問されている。そんなことをしている暇は私にはないというのに。


「本当に! 後で説明するから講堂に戻ってて! 危ないから!」

「危ないのは波倉先輩も一緒です! 先輩が戻らないなら私も戻りません!」


 もう! なんでこの子こんなにしつこいの!? 私とは今日初めて会ったばかりなのに!


「幸絵! 急がないと!」

「わかってるって! 咲良ちゃんお願い!」

「嫌です!」

「あーもう!」


 これじゃあ全然思うように動けないよ! 


(さっさと変身して校庭に行っちゃった方が良いんじゃない?)


「それは駄目だよ!」

「何が駄目なんですか?」

「あ」


 終わった。さすがにこの流れでその発言は不自然でしょ。何て説明すんの? ていうかさ、咲良ちゃんが私にこんなに絡んでくるのも、もしかしてアマテラスのせいなんじゃないの?


 あなた、神様の自覚ある?


(ごめんなさい……)


 今更謝ってのもどうにかなる話じゃないの!!! 咲良ちゃんに見られた時めんどくさがって逃げようとしたツケがここで来てるんだよ。まったく。


「とりあえず、お願いだから講堂に戻って。本当に」

「でも……」

「でもじゃない」

「だって……」

「だってでもないの。咲良ちゃん」


 私は真剣なまなざしで咲良ちゃんの目を見る。私だってやるときはやるんだ。いつまでもネクラなんて言わせないもん。


「……分かりました」


 咲良ちゃんは渋々納得してくれたようだ。黙って階段を上っていく。


「さあ、幸絵。行くよ」

「うん」


 私はアマテラスと一緒に駆け出した。校庭に向かう途中で私は大変なことに気づいた。


「アマテラス。いつ変身すればいいの?」


 とても重要なことだ。魔法少女たるもの、その正体は決して見破られてはいけない。これは暗黙の掟だ。正体を隠しながら戦うからこそ、魔法少女は魔法少女なのだ。これだけは絶対に守らないと。


「え? そんなのスサノオのとことまで行ってからでいいんじゃない?」

「でもそんなことしたらみんなに見られちゃうじゃん」

「あ、確かに。じゃあ、もう今変身しちゃうか」

「そうだね。神託、アマテラス!」


 ああ、眩しい。目を開けていられないくらい眩しい。でも、眩しさが私の夢を叶えてくれているんだと思うと、とても嬉しい。


 心の中にアマテラスがいるのを感じる。力が心から溢れ出ているのを感じる。……うん。これは夢じゃない。


(さあ、行こう)


「うん!」


 校庭では2m程の巨体をした紺色の短髪で上半身裸のムキムキの男が佇んでいる。着地の衝撃で地面にクレーターが出来ていて、その他に何も跡がないから、着地した地点から動いていないんだろう。


 近づいていくと分かったが、体にいくつもの刺青がある。特に何かの絵になっているわけではないが、何だかよくわからない模様をしている。正直言うと、かなり気持ち悪い。


 目測で私とスサノオの距離が15mくらいになった時、スサノオは目を見開き顔を私の方に向けた。


「うおっ! びっくりした! ……何してるんですか?」

 

 あまりにじーっと見つめてくるからちょっと質問してみた。


「姉さんこそ、こんなところで何をしているんだ」

「え? あ、アマテラスの事か。なんかよくわからないけど神様の世界が大変なことになっているから人間界に助けを求めに来たらしいよ」


(よくわからないってなんだよ! ボクは散々説明してるでしょ!?)


「そうか。神託の戦士を探しに来たのか。と、いう事は……」


 ということは……?


「俺の敵だな」


 スサノオは地面に手を突っ込んで長剣を取り出す。


 あーやっぱりか。敵なのは分かってたよ。分かっていたけどさ、そんなに悲しまないでよ、アマテラス。つらいのは分かるよ。でもさ、やるしかないじゃん。


 私の中に私のものじゃない感情が広がる。


(本当に、馬鹿な弟だよ。まったく……)


 スサノオが剣を構えたので私もとりあえず身構える。……あっち武器持ってるけど私素手で戦うの? 


 そんなことを考えているとスサノオは私に向かって剣を振り下ろしてきた。長いし重そうな剣なのにすごい速さだ。とりあえず私は後ろに跳んで躱す。私が宙に浮いた瞬間スサノオは剣を素早く持ち替えて腹の部分で薙ぎ払うように攻撃してきた。


「これは、ちょっと躱せないっ……!」


 私は腕で一応ガードはしたが、それでも衝撃は凄まじいもので、20mは離れていた校舎の方まで吹きとばされてしまった。


「……痛い」


 衝撃はかなり感じたけど、痛みは衝撃ほど感じてないのが不思議なもので、私は校舎の瓦礫をどかしてすぐに立ち上がることが出来た。


(あ、えっとね、こっちにも武器はあるよ)


 あるなら早く言ってよ!! 今じゃ遅いでしょ!! 私もう攻撃くらってんだけど!?!?


(ごめんごめん。胸のエンブレムの所に手を当てて)


 はあ~もう。今日はアマテラスにイライラしかしてない気がするよ……。


 私はとりあえず言われた通りに胸に手を当てる。すると、エンブレムが輝きだして、私の手に何かが押し当てられる感覚があった。私はそれを掴み、引っ張ってみた。


「おおおおお、剣だ」


 光り輝く黄金の光の剣。それが私の手に握られている。剣というよりかは刀かな? 片方にしか刃がついてないみたいだし。


(それが幸絵の武器だ。名前はないから幸絵が好きに付けていいよ)


 なんとこんな立派な剣の命名権をいただいてしまいました。えーどうしよう。何にしようかなー? んー……。


「……もういいか?」


 私が剣の名前を考えているとスサノオがそう尋ねてきた。そういえば戦闘中だったよね。気分がよくなって忘れてたよ。


 剣の名前はとりあえず後にしよう。すぐに思いつかなそうだし。とにかく今はスサノオだ。こいつをどうにかして倒さないと。


 私は剣を握りしめ再びスサノオと対峙した。

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