第八話 新入生、水辺咲良
「ふぁぁ。眠い……」
「朝の4時までアニメ見てればそうなるよね」
大きな欠伸をした私にアマテラスはツッコミを入れる。そういうアマテラスの目の下にも隈が出来ている。なんやかんや言っても結局、私と一緒にアニメを見ていたからだ。
だって仕方ないじゃんおもしろかったんだし。魔法少女シリーズ全作品のキャラが集結する劇場版は何回見ても最高なのよ。今はテレビで我慢してるけど、大人になったら絶対にホームシアター買って大きなスクリーンで見てやるんだから。
「ていうか、アマテラス学校ついてくるの?」
「うん。だって幸絵と一緒にいた方が何かと都合がいいし、それに他のみんなを探さないと」
「確かにね」
でも流石に教室までは連れていけないよな。どうしよう。……あ、そうだ。えーっと確か昨日はこんな感じだったっけ?
(アマテラス、心の声って離れてても聞こえる?)
(うん。遠すぎなければ大丈夫。少なくともこの町にいれば聞こえるはずだよ)
(それじゃあ学校では人に見られない様に動いててね。見つかると多分めんどくさいことになるから)
(わかった。でもさ、)
「今は普通に喋っててもいいんじゃない?」
「あ、そっか」
私とアマテラスは大きな声で笑った。
♢ ♢ ♢
今日は入学式だ。新しい一年生が山吹学園に入学してくる。午後から入学式で、午前は準備の時間だ。新入生や保護者のための椅子を並べたり、在校生の椅子を運び込んだり、生徒会長は祝辞の練習をしたり……
そんなこんなであっという間にお昼の時間になってしまった。
「それじゃあ、今から昼休憩なー。14時から入学式始まるから、在校生は30分前集合だぞー。遅れないようにー」
担任の眞壁先生はそう言って教室を出て行った。
お昼かー。この教室で食べるのは初めてだな。しかも結構真ん中の席だし。絶対こういうとこって周りに人が集まるんだよな。……ほら。
私の周りには運動部の陽キャたちが集まってくる。しかも他のグループの子も近くで集まって食べようとしてるから椅子足りないし。……あ、やば。目あっちゃった。
「ねえねえ。一人で食べてるならちょっとそこ譲ってくれない?」
ほらほら出たよ。こういうの本当に嫌い。一年の頃は後ろの席だったし、最後の方は廊下側の端の方だったからこういうのなかったけど、やっぱしこの辺に座ってるとそうなっちゃうよね。
「……どうぞ」
私は弁当を持って席を立つ。
「……あの子って、名前何て言うの?」
「えーっとね、波倉幸絵だっけ?」
「ちょっと、やばくね?」
何がやばいんだ。全部聞こえてんだからな。私からしたら自分たちの都合を他人に強要してるお前たちの方がやばいわ。頭沸いてんのか。
「なんか、1年の初めの頃の自己紹介で魔法少女が好きですー、とか言ってたらしいよ」
「えー! まじで? あんなのまだ見てる人いたんだ。まだ見てるとかオタク系?」
今のは解せん。馬鹿にすんなよ。
「うわっ。睨まれた」
「怖すぎー」
あーもう! 嫌だ!
(アマテラス! ご飯食べよ!)
(はいよー。ちょっと待っててー。今ボク学校の外にいるからー)
(早くして!)
(八つ当たりしないでよ……)
私は大きな音を立てて教室を出て行った。
私は教室の空気があまり好きじゃない。常に誰かと一緒にいないといけない、そうしないと除け者にされる、そんな雰囲気があるからだ。
だから、私は人が全く来ない隠れ家的なものを校内でいくつか見つけておいてある。今は南校舎の裏にある倉庫の近く、第3の隠れ場でアマテラスを待っているところだ。
「遅いなー」
私は今すごく気が立っている。あんなことを言われたら誰だって怒りを感じると思うが、多分図星だからこんなに腹が立っているのだろう。自販機で買った紙パックのイチゴミルクを一気に飲み干す。
「ごめん幸絵!」
「遅い!」
アマテラスはバレない様に空を飛んできたようだ。着地早々私の機嫌がすこぶる悪いことにため息をついている。
「なにがあったのかは大体知ってるけど、やつあたりはやめてよね」
「うるさい。もう本当に頭にきたんだから!」
これが八つ当たりであることなんか分かっている。それでもこの気持ちを放出しないと気が済まない。とりあえず私のお弁当のおにぎりをアマテラスに1つ投げて渡す。
「それはそうと、なんか学校の前にやたら人が集まってきてるね」
「今日が入学式だからだよ。あれは全部新入生」
アマテラスはおにぎりを頬張りながらガヤガヤと声のする正面広場の方を見て言う。もう新入生が集まってきてるんだ。午前の準備の時、周りの人はいろいろ話してたけど、私は死ぬほど興味がない。
「アマテラスは何してたの?」
「ん? 町の散策と神社巡り。この町はいいところだね。神社が3つもあるし、きちんと信仰も集まってる」
へぇー。そうなんだ。確かに、昔からこの町には神社にまつわるイベントが毎年開かれてるし、他の町と比べてもそういう文化がきちんとある場所なのかも。
「……あのー」
「!?」
そんな話をしていると校舎の影から声が聞こえてきた。私は口に含んでいた米粒を動揺のあまり気管へと送り込んでしまい、盛大にむせる。
「ああ! 驚かせてすみません!」
声の主は私の方へと駆け寄ってきて背中をさすってくれた。アマテラスはその隙に倉庫の影へと身を潜める。
ようやく咳が止まった。本当にびっくりしたよ。何でこんなところに人が来るの……?
「私、新入生の
聞いてもいないのに自己紹介をしてくれた。新入生、水辺咲良ちゃんね……。
……めっちゃ可愛いこの子。え、なに? 天使かなんかですか? 日本人? なんで髪の毛青いの? 肌白すぎない? ぱっちり二重だし、目でか! 現実にこんな可愛い子存在するの?
っていうか教室は北校舎だよ!? 何をどう迷ったらこんな所に辿り着くの……? 可愛い上に方向音痴とか、これで頭良くて運動も出来たら、完璧だけどちょっとドジなところがギャップ萌え、とか言われて学年でちやほやされるんだろうな。
「わ、私は、波倉幸絵。えーっと、教室なら北校舎だよ」
初対面の新入生にこんなところでいきなり話しかけられるなんて、思ってもみなかった。しかも可愛い子だし。私ちゃんと喋れてるかな?
「北校舎ってどっちですか?」
「あ、そっか。えーっと、えーっと……」
何て説明すればいいのかな? 普段何も考えなくても校内移動できてるから、いざ説明してってなるとうまく話せない……。
(一緒に行ってあげればいいんじゃないの?)
それはそうか。
「よかったら、案内しようか?」
「あ、ありがとうございます! 波倉先輩!」
せ、先輩! そうか。私はもう先輩なのか。こんなに大人びてて、綺麗で、礼儀正しくて、可愛いこの子の、先輩なのか。なんかすごい優越感。先輩っていうステータスいいかも。
「いいよいいよ。顔上げて。こっちだよ」
「はい!」
私は新入生の水辺咲良を連れて第3の隠れ家を後にする。
(食べ終わってない幸絵の弁当ボクが食べておくね)
(あ! ……謀ったなこのくそ神め!)
「? どうかしました?」
「な、何でもないよ!」
あー! 私のお昼ご飯がー! アマテラス絶対許さないからな!
私は去り際においしそうに弁当を食べるアマテラスをとびっきりの恨みを込めて睨みつけてやった。
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