第6話 ごく普通の異世界勇者召喚だったのに
通勤ラッシュのその時、事故は起こった。
階段で少女が転倒した。それだけであれば、問題はなかったのだが
運が悪く、その少女を起点にドミノ倒しが発生し……
「今日は運がいいな、うまくすれば座れるかもって、ちょっと押さないでもらえま………」
その結果、ホームで電車を待つために並んでいた列の先頭の男が押し出され
電車にははねられて死んだ。
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そこは白く何もない空間だった。
「一体ここはどこでしょうか?」
男の目の前が光ったと思うと、そこには女性の姿があった。
そしてその女性は
「佐々木希子さん、あなたは死にまし………ってあれ?」
「え?」
「すいません、佐々木希子さんですよね?」
「いえ私は、鈴木一郎と申しますが……」
「……」
「えっと性転換したとかで、名前を変えたとかはないですよね?」
「はいずっと鈴木一郎ですが……」
頭をかかえる女性
「また管理部門がミスったの?」
「私は一体どうなったんでしょうか?まあ最後の記憶が電車にはねられたもので
この状況からすると死んだのだと思いますが?」
「ちょっと待ってね、今調べてるので」
そういうと、女性の前に半透明の板が現れ、何か操作をしながら言った。
「死ぬはずだった佐々木さんが生き残って、死ぬ予定じゃない人が死んでる」
「すいません、何か今おっしゃられてることからすると、私は死ぬ予定ではなかったように聞こえるのですが?」
「ええそうよ、あなたは死ぬ予定ではなかったの」
「状況を整理したいのですが、まず私が死んだのは今の話からもわかったのですが、
ここはどこで、あなたはどのような方でしょうか?そして私はこれからどうなるのでしょうか?」
女性は、透明な板を手で払い消すと男性の方に向いていった。
「まず、ここは俗にいう神界です。そして私は転生を司る天使アルミエ、そしてあなたのこれからはまだ未定です。」
「未定ですか?」
「ええ予定外のことで、いま対応をどうするか協議中です。ただ予定外のことなので色々手続きが必要です。」
「手続きですか?」
「ええ、未申請の魂がそのままで神界での滞在は許可されていないので、その申請が必要です。今から用意する書類を書いていただけないでしょうか?」
「書類ですか?」
「ええ、まず神界への臨時滞在許可書に、魂の維持に必要なMPの供給に伴う承諾書、あと一時自動転生停止申請書にってそれはこちらの書類ね」
「神界もお役所みたいなんですね」
「ええ、お役所よ。わかりやすく神界なんていってるけど実際のところは、次元世界間バランス調整機構ってお役所よ」
アルミエが手を振るとそこに、事務机が二つ現れた。
「そこに座って、この書類を見て必要事項を記載してもらえる?」
2セットの書類を渡された男は、机に座って内容を見ながら書類を仕上げていく。
その横ではアルミエが山積みになった書類を見上げ、処理を始めてる。
「記載が終わったのですが、これでよろしいですか?」
「あーもう特例スキル付与申請に、特例転生申請、特例保証に……って、書類に記載ができたのね。うんこれで完璧ね。ちょっとまだこちらで必要な申請書類が出来上がってないので、そこで待っていてもらえる?」
アルミエが手を振ると、そこソファが現れた。
「よければ私に関わることですし、お手伝いしましょうか」
「これは一般の人には無理よ、俗にいうお役所書類だから色々お約束があってね」
「それなら大丈夫ですよ、見た感じ、うちの省で取り扱ってる書類にフォーマットが似てますし何もやることがないと逆に不安で」
「え?うちの省」
「ええ、私は、死ぬ前まで、厚生労働省で事務次官を拝命しておりました。」
「ちょ・・・ちょっと待ってください。一般の方でない?」
「はいそれが?何か?」
透明な板を操作し、頭をかかえるアルミエ
「……」
「どうなさったのですか?」
「これ世界線の調整無理……」
「?」
「今調べたのだけど、あなたがこの後やる予定だった政務が止まる影響で、修復不能なレベルで世界線が乱れてあの世界は滅ぶわ…」
「まさか、私のような官僚なんて、一人や二人死んだところで影響はないですよ。」
「あなたは、官僚で終わらない予定だったの…」
「え?」
「10年後に、省を引退後に今の政権をとってる政党から依頼を受け、政治家に転身。そして内閣総理大臣までいく予定だったの……」
「流石に、それはまずいですね。」
「まずいわ。これどれだけの運命の調整と各所の調整を行わないかと考えると、私の手には余るわ」
「死んだとはいえ、残された妻や息子のいる世界が滅ぶのは、座視できないのですがどうにかならないのですか?」
「まず、あなたを生き返らせることができればそれは防げるけど、流石にミンチになった人が生き返るのはむり。」
「他に方法はないんですか?」
「天使とはいっても全知全能ではないし無理よ」
「先ほど運命と各所との調整をすればという話をされていましたが」
「ええ、それができるなら可能よ。運命の調整はなんとかなっても、各所との調整はまず無理よ。」
「なぜですか?」
「お互いで仲の悪い部門もあるし、部門間の利害関係の調整なんて無理、そんなことを専門にした人材は
神界にはいないしね。いたら、天使同士や神同士の争いもなくなるんだけど」
「それだけが問題ですか?」
「それだけよ、でもそれが……」
「私にそれをやらさせていただくことは可能ですか?」
「え?」
「私は省庁間での調整能力を買われ事務次官までのし上がったものです。このまま自分のいた世界が滅ぶのを座視するぐらいなら、できる限りの事をしてみたいのです。」
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元の世界は救われ、そして幾千年もたった。
「あの時あなたが来てくれたのは、奇跡ね。次元世界統括官様。」
「いえいえ、私は様と言われるようなものではなく、ただの死者ですよ」
「もう諦めて昇神してくれませんか?」
「いえ、私は一介の事務屋兼調整屋ですので、そのような身分には…」
「いや本当にお願いします。あといい加減勇者転生しようとするのはおやめください。」
「いえ、本来なら異世界転生してその世界の魔王を…」
「もう幾千幾億の世界を救ったと思ってるんですか、もうあなたは現場になんて出なくていいんです。」
「いえ、現場に出て現地の声を聞くのも……」
まだ彼は勇者転生(現場訪問)を諦めてないようです。
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おまけ
「そういえば、交渉を今からしていくためにも、私がやるはずだったことを教えていただけますか?」
「ほんとうにやるの?」
「ええ、やらないと世界が滅ぶんですよね?」
「なら諦めてもらうためにもいうと、まず日本の総理大臣になったあと、各省庁間、政党間での不要な対立を
大幅に改善しこの後発生した世界レベルで発生した未曾有のパンデミックでも国内での被害を最小限で抑えるの、その後外交でも、各国の橋渡し役になり、あわや発生しかけた世界を滅ぼす第三次世界大戦をも未然に防ぐの。」
「それはすごいですね」
「いやこれ、あなたの本来ならやっていたことに対する功績だから」
「それでこちらから元の世界に干渉はできるのですか?」
「地球だと、こちらからできるのは、ちょっとした干渉だけなの」
「ちょっとした干渉というのは?」
「ほんの一瞬だけ体を操作したり、夢枕に立ったりね」
「それだけあれば十分なのでは?」
「操作する人間に信仰がある程度ないとダメだし、信仰心をリソースに操作するんだけどいまの地球だとそのリソースが少ないのと管理神同士が仲が悪いというか
利害関係があるから、うちのリソースは使いたくないとか、あいつのを使えとかそれぞれの調整がすごく難しいの」
「信仰心がリソースなんですか……確かに今の地上ではすくないかもしれませんね」
「一瞬だけ操作するなら10年単位のリソースで済むけど、それじゃどうやってもあなたのやったことを誰かに行ってもらうのも難しいし、夢枕に立つレベルだと1000年単位のリソースかかるし、夢だけあって、その通りに動いてくれるとは限らないしね。」
「仮にですが、今地球の管理神のところに集まってるリソースを全てかき集めたらそれ以上のことは可能ですか?」
「うーん細かいところは計算してみないとわからないけど、全ての管理神のリソースを限界まで絞って集めるともしかすると誰かを代行者に引き上げることが可能かもね」
「代行者というのは?」
「奇跡を起こせる救世主ではなく、神の声を聞くことができるだけの人ね。」
「それがあればなんとかなるのではないでしょうか?」
「まあ確かにそれができれば可能性があるけど、管理神同士の利害調整なんて…」
「世界が滅んだら管理神はそこからリソースを得られなくなるんですよね?」
「ええ、そうよ」
「ならなんとかなりますよ。任せてください。」
一風変わった異世界召喚シリーズ @keios
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