第5話 微妙にリアルすぎる勇者召喚もの

ここは大神殿の召喚の間


「幾千もの世界をこえ、幾千もの顔を持つも名を持たぬ無貌の神よ、ここに用意したる供物を持って我らに勇者を与え給え!!」


大神官が叫ぶと同時に、空から声が降ってきた。


「その願い叶え給おう」


「おお、神よ!ありがとうございます。」


その言葉とともに床に刻まれた魔法陣が光を放ち、その中心には光の渦が生まれる。

その光の渦がひときわ大きくなった瞬間光が弾け、何も見えなくなった。


「XXXXXXXXXXXX」


そこに一人の男が現れた。

その男の発する言葉はわからないが何かを言っている。


大神官の横に控えていた側仕えの少年がイヤリングを持ってその男に近づく。


「これを耳につけてください。勇者様」


こちらの声が聞こえても意味がわからないのを前提に少年は

そう言いながら手に持ったイヤリングを耳につける仕草をする。


そしてその男は、イヤリングを不器用ながらも耳につけるすると・・・

「俺の言葉わかりますか?」


「はい勇者様わかります。」


「俺は神に選ばれし勇者 郷田一郎 お前たちの願いにより異世界より呼ばれた ってこれでいいんだっけ?」

勇者は何かメモを見ながら喋っていた。台無しである。



大神官が一歩前に踏み出しこうべを垂れていった。

「勇者様、今この国は魔王によって攻められております。勇者様のお力を持って魔王を討伐していただけないでしょうか?」



「ああ、それは神に聞いた。そして俺は神から最強の力を賜った勇者だ。たちどころに魔王も魔王軍も討ち滅ぼしてみせよう。」



「ありがとうございます。勇者様。」


「ああ、ところでその代わりに要求したいものがある。」


「はい、私どもで用意できるものなら」


「ちなみにこの国にはお姫様はいるのかな?」


「・・・はいおられました」


「おられました?」


「王族や貴族の中で未婚のものは勇者様の召喚のために青い血の義務として生贄としてその身を捧げました。」


「・・・」


「ハーレムをご希望ということであれば、なんとしてでもご用意いたします。ただ婚姻済みのものを離縁させるとなると流石に心の準備をさせとうございますのでお時間をいただけないでしょうか?」


「あーいや、そこまで無理をしなくても・・・あー庶民でもいいんだけどどうかな?」


「しょ・・・庶民の女性ですか?」


「ああ、それならまだ適齢期で未婚のものもいるよね。」


「はい、いるのはいるのですが、本当によろしいのですか?」


「ああ、それなら負担も少ないだろう?」


「はい、勇者様ご配慮ありがとうございます。」


「それでは、私についてきていただけますか?この国の王にあっていただきたいのです。」


「わかった。」



ーー 大広間 ーー


王様

「おお勇者様、よくぞきてくれた。」


「いえ王様」



「私が不甲斐ないばかりに、勇者様を呼び出すことになり申し訳ない。詫びとして足りるのかわからぬが、確か勇者様の国ではこういう場合は腹を切って自裁するのだったな。それを行うが、魔王が討伐されるまでは待ってほしい。せめて犠牲になったものたちにお前たちの犠牲は無駄ではなかったと伝えたいのだ。頼む」

王様は玉座を降り、頭を地面につけ伏した。


「王様、頭を上げてください。私は望んでこの世界に来たのです。」


「そういうわけにはいかぬ。本来なら今すぐにでも腹を切って自裁するべきだ。」


「王様は、悪くありません悪いのは魔王です。どうか頭を上げてください。」

勇者は王様の肩を持ってそう言った。



「勇者様、すまぬ・・・」

王様は泣きながら顔を上げた。


「王様いいんです。困った時はお互い様です。」


「後のことは全て宰相に任せてある。この国にあるもので必要なものは私の命も含め全て自由に使っていい。ただ国民にはできるだけ負担がかからないようにし犠牲が出るとしても青い血の義務を持つ貴族だけにしてほしい。」


「王様、それは必要ありません。ご無礼だと思いますが失礼します。」


勇者は背中に背負っていた剣を抜き放った。

それは、目も眩むような虹色の輝くを放つ大きな剣であった。


「これは神剣ニャルカリバー、この剣があればあとはなにもいりません。」


「「おお神よ!!」」


大広間に集まっていた人々全てがこうべを下げる。


「私は明後日、魔王城を強襲し皆の憂いを立ってみせよう。」


大神官が聞いた。

「明後日に魔王城にですか?」


「ああ、神から授かったこのスクロールを使えば、すぐにでも魔王の目の前に行ける。」


「おお!!」


「すぐに行けなくて申し訳ないが、明日1日かけて、この世界に体を慣らしてから魔王を打ち取ってみせよう。」


「「勇者様万歳!!勇者様万歳!!勇者様万歳!!」」


ーー 大食堂 ーー


給仕のものが料理を運んできた。



「え・・・」


「おおこれは素晴らしい。さすが勇者をもてなすに値する料理だな・・」



そこには腐りかけた干し肉を焼いたとしか思えないものや

パンとしなびた酢漬けの野菜とそして不純物が入っているとしか思えない

岩塩の塊があった。


「勇者様、どうぞお食べください。」


「え・・・」


「食べ方のマナーについては気になさらないでください。世界が違えば違うと聞いておりますので。」


「あ・・・ああ」


勇者は無難そうなパンをとってかじった。

ガリ・・・ 石が入っていた。


「今日のパンは美味しいですな。」


「ああ、特別にフスマを抜いて焼かせたんだ。」


「・・・」


「勇者様いかがなされました?」


「いや・・・なんでもない。」


勇者はしなびた酢漬けの野菜の皿を取り、少し躊躇したが口に入れた。

発酵していた・・・


「・・・」


「勇者様いかがされましたか?」


周りの人間は目の前に置かれた岩塩の塊を舐めながらお酒を飲んだり

その酢漬けの野菜を食べていた。


「ちょっと飲み物をもらおうか・・・」


「はい勇者様どうぞ。今年のワインの出来は最高ですぞ」


勇者は注がれた赤い酒を口に含んだ。

吐きそうだった。皮の破片は残っている、タネの破片も入っている

そしてまずい。


「・・・」


「どうかされましたか?勇者様。」


勇者はガリガリと音を立てつつパンを食べきり言った。


「嫌なんでもない。召喚前に念の為食べてきていたので、あまりお腹が空いてないんだ。」


「そうですか・・・それは残念です。これほどの料理はなかなか貴族でも味わえないというのに・・・」


「いやこれは、今日集まってくれた貴族の方々に振舞ってほしい。」


「おおさすが勇者様!!」


「それでは明日は早いから、本日俺が寝る場所を案内してくれないか?」


「はい、勇者様。」



ーー 勇者に与えられた寝室 ーー


「くそーあのバカ神様め、こんなの飯が不味いなんて聞いてないぞ!! もうどうしようこれ」


トントン

「勇者様よろしいでしょうか?」


「誰だ?」


「本日勇者様の夜のお相手をするものを連れてまいました。」


「ああ、女かわかった。連れて入れ。」


男が着飾った?というかゴテゴテした服を着た女性を連れて入ってきた。


「勇者様、このものが本日勇者様のお相手をするものです。ごゆっくりおくつろぎください。」


ロウソクの灯りだけなので、暗くてはっきり見た目は見えないが、メリハリのある

体つきの女性のようだ。


「わかった、それではお前は帰っていいぞ。」


「はい勇者様、良い夜を」


バタン


「勇者様、本日お相手をさせていただく 一夜の夢のガーネットと申します。お見知り置きを」


「一夜の夢?」


「はい、主に貴族様相手専門の超高級娼館でございます。勇者様は初めてのものをお好きな方が多いとお聞きしておりますので、本日水揚げ前で無作法なものではありますが私が派遣されてきた次第です。」


「そうか、こっちにきてくれるかな?」


勇者は、ベッドの方に誘ったすると・・・


「く・・臭い」


「勇者様臭い?ですか」


ウンコの匂いがする。


「お前は風呂には入らないのか?」


「風呂というとあの湯を浴びるものですか?」


「そうだ!!」


「そんな野蛮なものには入りませぬ。」


「え?・・・まさか・・・」


「ゆ・・ゆうしゃさま?」


「ライト!!」


勇者は光の魔法ライトを放った。そしてその明るい光の元・・・

女のきているドレスの裾には・・・


「とりあえず近寄るな・・・」


「ゆ・・・勇者様なぜ?」


「少しまて、神に聞くことができた。俺をここに連れてきた神よ!!」


勇者が叫ぶとともに時は止まり、勇者は白い世界に連れ込まれた。


「はいはい、なんでしょう?」


「魔法のある世界だとは聞いていたが、文化面が中世ヨーロッパ並みかそれ以下なんて聞いてない!!普通こういう時はいい感じのナーロッパではないのか?」


「そんな御都合主義はありませんよー」


「そんなの聞いてない」


「いえ、ご希望通り、オレツエーができて酒池肉林ができる世界ですよ?」


「それは文化面が一定を超えてるのが前提だ!!なんとかしろ!!」


「なんとかしろと言ってもすでに契約済みですので」


「なんとからならないなら俺を元の世界に返せ!!」


「魔王を倒さない限り無理ですよ。そういう契約なので」


「わかったすぐ倒すから、倒したらすぐ俺を元の世界に戻すんだ!!」


「はいはい、じゃあ元に戻しますよ・・・」


勇者は元の部屋に戻った。


「君今日はいい、あくまで君を呼んだのは敵を騙すには味方からという俺の世界の言葉のためだ」


「勇者様?」


「俺は今から魔王を倒してくる。さすがにすぐにくるとは思っていないはずだから倒すのも簡単だ」


「・・・」


「君は俺がこの部屋から消えたら、そのことを大神官様に伝えてほしい。」


「・・・ゆ・・・勇者様!!」


「では俺はいく!!」


勇者は翼のような形の何かを手に持ち体が光ったと思えばそして消えた。


そして勇者は帰ってこなかった。




ーー 翌日 大神殿 神託の間 ーー


そこには神に仕える巫女の姿があった。


「大神官様、今お告げがありました。勇者様が魔王と魔王城にいた魔物を全てを倒したそうです。」


「おお!!勇者様 それで勇者様はいつもどられるのだ?」


「それが・・・」


「それがなんだ?」


「勇者様はこの世界の負担になってはいけないと言われ元の世界にさられたそうです。」


「・・・」


「あと最後に、「俺がきたのは良き王の強い意志に惹かれたため、王には責任はない、自裁などせず


命ある限り善政を敷くように」とお言葉を残されたそうです。」


「・・・」


斯くして勇者は元の世界に帰っていった。

そのあまりに高潔な振る舞いによりその勇者は、勇者の中の勇者と称えられ

数千年後その王国が滅んでもなおその名は語り継がれるのであった。



*****************************


流石に トイレツボとか飲み水を組んでる川ネタとかあったんですが

あまりにやばいので今回はオミットしました。


最後に勇者から一言

「現代世界最高、飯もうまいし、ハーレムは2次元だけで十分。」

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