第4話 遅すぎた召喚

城の地下にて


「師匠、これで勇者様が召喚されてこの国は助かるんですよね。」


「そうだ、いまの作業で最後だ。あと13時間ほどで龍脈から送り込まれた魔力で召喚陣が起動する。」


「でも師匠?13時間持ちこたえられますか?」


「わからん。さあ地上に出て最後の戦いに俺たちも参加するぞ!」


「はい師匠!」


そして数万年の時が過ぎた。


「先生、これはなんでしょうか?」


「これか?うーんなんだろう。絵柄からすると精神文明時代の何かだと思うが。」


「精神文明っていうと、魔法文明のことですか?」


「ああ、一般に魔法文明と言われてる奴だね。まあおそらく魔法なんてものはなくて

手品か何かだったんだろうが」


「先生は夢がないなぁ。あ、ここかけてるなぁ。先生ここに埋まる破片てさっきどけた土砂の中にありません?」


「あーどれどれ、今スキャンをかけるよ。おーあったあった。おいそれを出してくれ。」


何もない空間が光ったと思えば、模様の書かれた石の破片がそこに突然と現れ浮いている。


「先生、最近は便利になりましたよねーうちみたいな場末の研究室でも亜空間庫経費で買えるようになりましたし」


「そうだな、一昔前ならうちみたいな貧乏研究室では・・・っておいこら!」


「ははは、先生自分で言ったのにひっどーい!」


「ひどいはないだろひどいは! まあいい、シュミレータで見るのもいいがたまには現物を見るのもいいか

よしそこにはめてみてくれ。」


「はい先生、はめてみますね」


そして助手の女性が床のかけた部分に破片を埋めた時

床が光り始め、絵柄の中心点に渦が生まれた。


「先生?一体何が?」


「これはもしかしたらもしかするかも知れんぞ!」


「先生、もしかして?」


「そうだ、ペテンと言われていた精神文明の逸話に出てくる魔法かも知れん。今センサーは稼働しているか?」


「はい、発掘時に使う標準的なセンサーは動いていますが、それだけで観測できるかどうかは・・・」


「これが現実であると証明できる精度があれば、十分だ。一度あったんだ、二度目もあるかも知れないし

大幅な予算アップと人員追加も期待できるぞ。」


「え?じゃあ私に後輩ができるんですか?」


「ああ、いっぱい後輩ができるぞ!っと中心で空間に揺らぎが発生したな。発生している素粒子の磨耗度からして数万前年の何かが出てくるようだぞ。」


「時の完全固定庫?まだ試験段階って噂のあれですか?」


「いやそこまで便利なものではない。この感じだとある程度の劣化はあるみたいだ。おっと顕現するぞ!!

自前端末とかでもいいから少しでもデータを集めるんだ!!」


「はい先生!!」


パリーンという音とともに裸の男が飛び出してきた。


「xxxxx.xxxxx.xxxxxxxxxx」


男は何かをしゃべっているようだがわからない。


「先生?これは?」


「古代人の生き残りかも知れん。万能翻訳機今お前持ってるか?」


「犬用のなら・・・」


「それでいい、あいつに使ってみろ」


「えー、せっかくうちの子用ににカスタマイズしてたのにぃ、これ相手変えたらカスタムデータ飛ぶんですよ

先生これ終わったらカスタム無しでも翻訳できる最上位モデル買ってくださいね。」


「わかったわかった、だから早く使いたまえ。これがバレて政府が回収にくる前にできるだけの情報を聞かんとな」


「はい先生。」


「・・・おれ・・・ゆしゃ・・・ 、 おれは・・・ゆう、俺は勇者だ、魔王はどこだ」


「へ?先生これは?」


「俺にもわからん。こちらの言葉がわかるか?」


「わかる。俺が倒すべき魔王はどこだ、そして俺のハーレムに入るお姫様は?そこの女は年増すぎて・・・」


「私はまだ20歳ですよ!!ひどい」


「お前は喋るな、時間がないんだ。とりあえず君の名前はなんだね?私はこのチームの主任教授モーリだ」


「俺の名前は、田中一郎。魔王を倒すべく召喚された勇者だ」


「魔王?興味深い。君はマルク王国のものかね?」


「俺は日本人だ!」


「日本?聞いたことがない国だな・・・ちょっと待てこの地図でいけばどの国だ?」

教授が空間ディスプレイに数千年前の地図を投射し田中に見せる。


「俺の国はこの世界ではない、よくわからんがこの国を救うために召喚されたのだが?どうなってるんだ?」


「ショックかも知れないが、聞いてくれ、おそらく君が生きていた時代から最低でも数万年は経過している。」


「嘘を言うな、この世界に来るときに神にそんなことを聞いてないぞ!!」


「神?これはまた興味深い。そうだな証拠として理解できるかどうかわからんがこれをみてみろ。」


教授は、発掘経過のこの部屋から土砂が取り除かれる映像を田中に見せる。


「嘘だ嘘だ嘘だ!俺は・・・」


「どうしたんだい?」


「俺は勇者だ。騙されないぞ魔王の手先め!!必殺の魔法を喰らえ ファイヤボール!!」

田中は火の球を虚空に浮かべると教授に投げつけた。


「虚空に、ヒドラジン思われる酸化物と粘度の高い油とアルミの粉末を混ぜたものを生み出すか、興味深い」


勇者が投げつけた火の球を手袋一つつけてない生身の手で軽く受け止め観察している。


「え?なんで魔法が効かない?ならこれはどうだ!!チェーンライトニング!!」

勇者は今度は手からいかづちを放ち教授にぶつける。


「今度は電気か・・・パワーは微妙だがこの空間のナノマシンからのエネルギー供給もない。これは興味深い。

他には何が使えるんだね。早くやってみせたまえ!!」


「お・・・お前が魔王か!!」


「魔王とは失礼な、ただの考古学科の教授だよ。」


「・・・」


「さぁさぁさぁ、失われた精神文明の技術もっと堪能したい。もっとやるんだ!!」


ガクガクガク教授は勇者の肩を掴み揺さぶる。


「すいませんもう勘弁してください。」

勇者は土下座して謝る。


「どうしたんだ?」


「先生、先生の悪い病気見たらみんなこうなりますよ」


「悪い病気とは失敬な!いまは病気などと言うものはない!」


「公に認められてなくても、先生のは病気です。いくら過去の文明を体験したいって言っても、トラップ解除せずに突っ込んで体で体験するのは先生だけです。」


「きみだってトラップにかかることがあるだろう?」


「私のはミスです。先生みたいに自分から突っ込みません。」


「いやいや、そこに罠があったら体験するのが考古学というものだろ?」


「それは先生だけです。この間だって太陽表面に見つかった遺跡の発掘中に転移トラップで中心核に飛ばされたのは誰ですか?」


「いや転移先を調べるのに・・・」


「先生、今時その程度では死なないにしても普通は 無人機を送りますよ」


「そうか?楽しいのに・・・」


ガタガタブルブル、田中青年は震えている。


「どうしたんだい、田中くん」


「た・・・太陽の中心にい・・いって帰ってきて無事なんですか?」


「今時の服ならその程度標準だろ?流石にブラックホールの中の遺跡だと専用スーツ着ないとちょっと危ないけどな」


「ブラックホールの中が専用スーツで・・・」


「まあそれはいいから、子供のおもちゃはどうでもいいから大人用の何かをみせてくれないかね?」


「子供用のおもちゃ?大人用?」


「そうさっきの現象としては面白いけど、子供騙しのおもちゃじゃなくてちゃんとしたやつ。」


「いやあれが・・・」


「冗談はよしたまえ、例えば電気であればほら」

それは博士の両手の間で泳ぐ電気でできた龍


「とりあえずお手頃な10の18穣W 程度で作ってみたがどうだね。」


「え?」


「うーんこれはもしかして期待はずれかな?」


「先生の期待に添えるような文明なんてありませんって。」


「君のいた時代では何ができるんだね?」


「え?」


「一番早く移動できる乗り物は?」


「えっと火星まで1年でいける船かな?」


「火星とはなんだね?島か大陸か?」


「いや惑星です太陽を回る星で、俺たちが住んでいる地球の隣にある惑星」


「すごい発見だ!!精神文明では惑星間航行まで行えていたのか!!」


「でも先生超銀河団を超えるのならともかく惑星間で一年はおそくないですか?」


「まあ確かに技術的には大したことはないか」


「さて急がんと政府のやつがおっとり刀でくるから急ごう、それでは医療面はどうだ?いくつまで生きられる?」


「えっと80年くらいかな長い人だと120年?」


「やはり短いなぁ。」


「いや先生が長すぎるんですって。私だってまだハタチなのに、先生今年で600歳でしょ?」


「すいません一つお聞きしたいのですが・・・」

おそるおそる手を上げる田中


「なんだね?」




「本当に数千年たっているのですか?」


「ああ、おそらくそうだ。」


「俺、神様からこの世界で最強の力をもらって無敵の勇者として呼ばれたはずなんですが・・・」


「神というのが何かわからんが、高位次元生命体だとして気まぐれに力を与えるものがいるのかもしれん。」


「・・・?」


「だが、今や科学万能の時代。数千年前の最強であっても今だと、子供のおもちゃレベルかもな。

田中くんが理解できるか、ああ、バカにしてるのではないよ翻訳機の限界で君の言語体系に表せる言葉があるかわからんという意味だ。」


「・・・」



「今や光の壁を超え、1日あれば銀河の端から端まで移動が可能になり、一人の人間が使うエネルギーは大体この人類発祥の地である恒星系の太陽の約一万倍。」


「・・・」


「おそらく惑星から少し足を伸ばせる程度の文明とでは比較にならん。今や子供のおもちゃでも太陽一つ分のエネルギーがある。」


「・・・じゃあ俺はもう用無し?」


「まあまだ聞きたいことがあったが、時間切れだな・・・」


「用無しではなく、時間切れ?」


ヒュン、教授の後方にいくつかの光が見え、複数の武装したと思われる男たちが現れ

その中で最も偉いと思われる人が出てきてこういった。


「モーリ教授、私は次元管理機構軍の管理官B2344です。特殊汚染物管理法に基づき隔離措置のために来ました。」


「早かったね。」


「流石に過去の人間というと、今では未知のフィルター対応していない病気のかたまりですから即時凍結処理に入ります。」


ピキピキ、田中は問答無用で一瞬で氷の彫像と化した。


「それで私たちはどうだね?」


「いまログを確認させていただきました。彼が現れる前から完全隔離モードにしていたんですね。それなら今回隔離措置はありません。」


「それは良かった。まあ考古学者なら嗜みみたいなものだからね。」


「それではご協力ありがとうございました。それでは失礼します。」


男たちは彫像となった田中を連れて消えていった。


「先生、いつものことですけど連中態度悪いですよね。」


「まあしょうがない、発掘中に見つかる生き物なんて一般人からみた迷惑度から言えば彼のいっていた、伝説の魔王みたいなものだからなハハハハハ」



*****************************


流石にここまで文明差があるね・・

なお勇者がこの後どうなったかは、今の所不明です。

次回  「早すぎた召喚」   遅刻もダメだけど早く来すぎるのもダメだね 

をご期待ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る