第6話復職の話
暫く経ったある日、携帯の呼び出し音が鳴った。暫く聞いていなかったと思うぐらい、久しぶりだった。そして、発信先を見ると、以前の会社からだった。
「はい、柴田です」
「柴田さんの携帯ですね。今変わります。おまちください」
「柴田君ですか?部長の野村です。久しぶりです。元気にやってますか?」
「はい、お陰様で元気にしています」
「そうですか?それは良かった。実はですね、君が怒らせてしまったというお得意さんとお話する機会がありましてね、君の話が出たんですよ」
「私の事ですか?」
「そうなんですよ。お得意さんから、この頃柴田さんはお見えになりませんが、どうされたんですか?って言われましてね。事情をお話したら、私は首にしろなんて事を言ったつもりはないって、こちらが怒られてしまったんですよ」
突然の展開に頭の中が真っ白になっていた。
「はあ」
「お得意さんも、以前は感情に任せて怒ってしまった事を悪かったとおっしゃっているんですよ。それで、色々お話をしましたら、君をもう一度担当として、復帰させて欲しいと言われているんですよ」
「えっ、担当としてって、復職ってことですか?」
「はい、そうなんです。良かったですね。私も嬉しいですよ。給料は以前よりもプラスにしますよ」
「あ、ありがとうございます」
夢のような話だった。首になり、何をするのも面倒になって、自堕落な生活を送りそうになった時、占い師になった。なれない仕事は疲れるし、復職出来ればどんなに嬉しいだろう。こんな日が来るとは思ってもみなかった。
後日、都合の良い日にアポをとり、会う約束をした。
そして、約束の日時に会社を訪れ、部長と30分程復職について話をした。
話の内容は、自分にとって十分に満足のいくものであった。晴れ晴れとした顔つきで、会社の外に出た。空にはあまり見りる事のなかった太陽が、おめでとうと言っているように見えた。
「よし、家に帰って、仕事に行く為に、着替えでもするか」
そして、事務所のドアを開けると、競馬新聞と睨めっこをしている立花がいた。
「立花所長、これからも宜しくお願いします」
「ふぇ?はい、宜しく」
腑に落ちないそんな感じを残しながら、競馬新聞に目を移していた。
何時もの風景がそこにあった。海の公園に見台を置き、今日1日が始まる。そして、明日もこの場所にいるのだろう。
(いっそ、預言者にでもなるか?)
そう思った時、(なれるか~い)と頭の中で、誰かが突っ込んでいた。
夕焼けに染まる空には、占い師の自分と関わった人達の、幸せそうな笑顔が浮かんでいた。
完
占い師or預言者 誠 育 @kktomakoiku
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