隙間

きさらぎみやび

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 同級生で友人のアキラが行方不明になった。

 アキラはある日の放課後、学校を出たまま家に帰ってこなかったのだ。

 当初は本人の意思による失踪もしくは誘拐と思われたけど、置き手紙もなく、また誘拐犯からの連絡もなく彼はその日から姿を消した。

 神隠し、と噂が立つようになったのも当然かもしれない。


 友人の僕の所にも警察が聴取に訪れたけれど、残念ながら彼が姿を消す理由に僕はまったく心当たりはなかった。


 彼が姿を消してから1週間ほどたったある日の事、「おい、これ見てみろよ」と言いながら興奮した様子で友人のヒロシが教室に駆け込んできた。


 手にしたスマホをこちらにかざして、僕に画面を見る様に促してくる。

 表示されているのは今では当たり前になった地図アプリに搭載されているストリートビュー機能だった。アプリから操作をすることで、カメラで撮影された現地の画像が見られるサービスだ。

 友人が映しているのはアキラの家のほど近くで、彼の通学ルートになっていた霊園と寺の敷地に挟まれた十字路を写したものだった。

 画像の撮影日を表示させるとちょうど彼がいなくなった日だった。


 その画面に道を歩く一人の学生が写りこんでいる。

 プライバシー保護の目的で写っている人物の顔にボカシが入れられているために断定はできないけれど、背格好から考えるとどうもアキラのように見えた。


「たまたま地図を見てたら、このあたりの画像が更新されていたんだけど、これ、アキラじゃないか?」

「うん、ぱっと見る限り僕もそう思うけど、顔が写っていないからなぁ。判断が難しいね」

「さすがにスマホの画面じゃ見ずらいか」

「ちょっと待って、ちょうどノートパソコン持ってきているから」


 僕は鞄からパソコンを取りだして起動させ、地図を立ち上げてストリートビュー画面を表示させる。確かに大きな画面で見ても写っているのはアキラのように思えた。背負っている鞄に見覚えがある。

 友人が表示させていたポイントから画面の表示座標を移動させていく。

 おそらく撮影している車がアキラの後ろから近づいていく形だったのだろう、画面が進むと同時にアキラの姿は徐々に大きくなっていった。

 後ろから近づき、ちょうど真横にアキラの姿が来るタイミングで十字路に差し掛かる。そこからさらに座標を進めたところで、彼の姿は画面から忽然と消えていた。


「あれ、ここから先には写ってない」

「ここからは別の日に撮影したんじゃないの?」


 隣でパソコン画面を覗き込んでいたヒロシが聞いてくる。


「いや、でもそれなら光の当たり方や画像の彩度が変わってくると思うんだよね。それにほら」


 そう言って僕は画面の端に映っている野良猫を指さした。


「ここに猫が写っているけど、この猫は位置を進めてもずっと写っているでしょ?体の柄も全く同じだし、別の猫とは考えずらいからやっぱりこれは同じ日に撮られている画像だと思うよ」

「でもそうするとアキラはなんでいきなり写らなくなったんだ?」

「それは分からないけど……」


 言いながら僕は位置をそのポイントに固定してなんとなくグルグルと視点を回転させる。360度カメラは移動しつつ角度を変えながらもアキラの姿を画像に収めているのだけど、ある角度で画面を表示させたところで手が止まった。隣で覗き込んでいたヒロシも息を飲んで黙り込んでいる。


 その画面に写っていたのは、真っ黒な手に首を掴まれているアキラの姿だった。その手の持ち主がいる位置はちょうど画像の継ぎ目なのか、いくら視点を動かしても確認が出来なかった。


 僕は背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、まるで時空の隙間から手が伸びているように見えるその画像を黙って見つめることしかできなかった。


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