第6話 アクアの魔法適正の謎が解けました
庭で腰辺りまである髪を靡かせながら元気よく庭を走り回るアクアを、テューポーンが捕まえて少しばかりのお説教をした。
父親から説教をされたアクアは反省しているのか肩を落としてしゃがみ込み、地面に木の枝を使ってお絵かきをしてしょぼくれてしまっている。
その姿をみたアメリアは苦笑いを浮かべたが、魔法を教える約束をしていたので話を切り出した。
「それではアクアちゃん。今から鳥の魔法を教えるからこっちに来てくれるかな?」
その声を聞いたアクアは落ち込んでいたのが嘘かのように笑顔を浮かべ、アメリアの前まで駆け寄ってきた。
「うん!!アクアね、あの可愛い魔法使いたいんだ…。アメリアお姉さんに酷いことしちゃったけど、アクアに教えてくれる…かな…?本当にさっきはごめんなさい」
「いいよ。大丈夫だからね。お姉さんは全然気にしていないからね。魔法というのは誰しも最初は周りの人に迷惑をかけてしまうから。気にする必要はないよ」
そういってアメリアはアクアの頭を撫でた。
アクアは目を細め、されるがままにしているが早く魔法を教えて欲しいようで、早く教えて欲しいな。と言ってアメリアを見つめた。
蒼い瞳で見つめられたアメリアは咳ばらいをして、胸を張ってさながら教師かのような態度で話し始めた。
「では第一回、王宮魔導士アメリアによる魔法指導教室を開催したいと思います。最初にだけど、アクアちゃんはさっきお姉さんが使っていた鳥の魔法。あれがどういった魔法かわかるかな?」
「んーっとね。多分だけど<造形魔法>?の仲間じゃないかなってアクアは思うの」
アクアは考えながら、顎に人差し指を置いて首を傾げながら言った。
ちなみにファフニールとテューポーンはこの様子を遠目で見ており、口出しはせず、ただ我が子の成長を見守っているようだ。
「半分正解で半分はまだアクアちゃんの知らないことって感じかな。まずこの鳥の魔法はわたしのオリジナル魔法でもあり<造形魔法>の一種でもあるんだよ。それにね実際は人に<見える魔法>なんだ」
そういってアメリアは杖を握って、可視化された鳥を出して見せた。
アメリアが出した鳥はアメリアの周りをグルグルと回っている。
「これは索敵などに使用することが出来る<造形魔法>でもあり<索敵魔法>でもあるんだよ。自らの魔素を、形あるものに変化させる。そしてこの鳥さんは、自分の魔素で作り上げた<造形魔法>だから魔素の感知に優れた魔導士であれば、これを使って索敵も出来る。そういった仕組みだよ。ちなみに別に鳥じゃなくてもいいんだけど、鳥って可愛いでしょ?それに犬を<造形魔法>で作り出したというのに、犬が空を飛んでいるようじゃ少し不気味じゃない?」
つまりアメリアが言うには、別に<造形魔法>で犬を作り出しても良いし、猫でも良い。それこそ魔素が大量にある者であるなら、大きな動物や魔物の形をした<造形魔法>で作り出すことが出来ると言ったわけだ。
「んー??ということは、<造形魔法>を見えなくしたのが可愛い鳥さんの正体ってことなのかな?」
「そうだよ。凄いねアクアちゃんは。これだけの説明で理解しちゃうなんて。けど、流石のアクアちゃんでもいきなり見えない鳥さんを魔法で作ることは難しいと思うわ。けど、まぁ見せて減るものでもないから一回わたしが手本を見せてあげるね。わたしは王宮魔導士でもあるから簡単に出来るけど、実際は魔法を不可視の状態にするというのは凄い技術が必要な事なのよ」
そういってアメリアは杖に魔素を込め、<造形魔法>で作り上げた鳥を徐々に透明にしていく。
みるみるうちに鳥は見えなくなり、次第に完全に消えてしまった。
しかし、アクアには消えた鳥が見えているようで、目で鳥を追っているようだ。
「これが<不可視の鳥>よ。まぁ不可視と言ってもアクアちゃんには見えちゃっているんだけどね」
「――――凄いね!!鳥さんが魔素の色だけになっちゃった!!この魔法、アクアにも使えるかなぁ??」
「どうだろうねぇ。とりあえず一回挑戦してみましょうか。アクアちゃんは<造形魔法>をもう使えたりするのかな?」
「んーっとね、使ったことはないんだけど、魔導書で読んだことがあるよ!それにさっきのアメリアお姉さんのを見ていたから多分出来ると思うの!」
そういってアクアは杖も持たずに自らの両手を前に出して、受け皿みたいな状態を作り、そこに魔素を集めていく。
しばらくすると、小さな銀色と金色が混じっている小さなドラゴンがアメリアの手の中に現れた。
小さなドラゴンのフォルムは鱗の一枚一枚までしっかりと作りあげられており、初めて<造形魔法>を使った者が作り上げる物ではなかった。
「で、できたのかな…?アメリアお姉さん。一応真似してやってみたんだけど、これ間違えてないかな?」
「え、ええ。間違えていないわ。それにしても金と銀のドラゴンかぁ。まるでアクアちゃんのパパとママみたいだね」
それにしても何よこの完成度。普通最初に<造形魔法>を使ったら歪な形になるのが当たり前なのに。とアメリアはアクアが作り出したドラゴンを眺めながら、その完成度に驚いているようだ。
「ま、まぁいいわ。じゃあ今度は、そのドラゴンさんを動かしてみましょうか。まずは自分の周りをグルグルと移動させてみて。イメージとしては、その作り上げたドラゴンと自分の魔素を繋げて動かすイメージかな。自分の魔素で作った<造形魔法>には自分の魔素は入り込みやすいの。だから動かすだけなら初めてでも簡単だと思うんだけど…」
「こうかな?翼も羽ばたかせた方がカッコいいかな。それにドラゴンだし、ブレスも吐けたらカッコいいな~」
アクアはそう言って<造形魔法>で作り出したドラゴンの翼を羽ばたかせ自らの周りをグルグルと飛ばしてみせた。それに加えてドラゴンの口からはたまに<火球>のようなものが出ており、まるで本物の小さなドラゴンがアクアの周りを飛んでいるかのようになっていた。
アメリアはまさかドラゴンに火を吐かせるなんて思ってもいなかったようで驚きの声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってアクアちゃん!!それどうやっているのよ!普通はね<造形魔法>で作り上げた物は出来たとしてもせいぜい動かすことぐらいなはずよ!」
「え、だってドラゴンさんはブレスを吐くでしょ??けどアクアはブレスを吐けないからどうやって再現したらいいかわからなくて…。それでじゃあ<火球>でいいかなって思ってドラゴンさんのブレス代わりにしたんだけど…。ダメだったかな…」
ドラゴンを完全に再現できなかったことを怒られたと勘違いしてしまったアクアは肩を落として作り出したドラゴンに対してごめんね。と言って謝っていた。
「ち、違うの。怒っているわけじゃないの。その<造形魔法>に<火球>を使わせるっていうのがもはや古代魔法の域なんだよアクアちゃん」
「――――なに?古代魔法だと?どういうことだアメリア」
古代魔法という言葉を聞いて、先ほどまで我が子の成長を見守っていたテューポーンが口を挟んできて、ファフニールと共に近寄ってきた。
アメリアは頭を悩ませながらもテューポーンとファフニールに説明をし始めた。
「ファフニールなら知っているだろうけどね、大昔、それこそ一万年以上も前の話なんだけどね。古代遺跡にゴーレムって呼ばれる<造形魔法>で作られた物があったのよ。昔の人はそのゴーレムを使って色々としていたみたいなの。それでそのゴーレムっていうのはね、魔法で作られたはずの<造形魔法>なのに意志を持って行動するの。それこそ魔法を使ったり、遺跡を外敵から守ったりってね。私だって古代魔法に精通しているのだから<造形魔法>を動かすことくらいは簡単に出来る。実際、<造形魔法>を動かすこと自体が古代魔法に近い技術なわけなんだけどね。しかし、<造形魔法>に魔法を使わせるとなるとわたしでも至難の技になる。それこそ今のアクアちゃんみたいに余裕を持ってすることはわたしでもほぼ不可能よ」
「――――つまり、アクアの技術は古代魔法の域に達しているということで間違いないのか?」
「信じがたいけどそういうことになってしまうわ。一体どういうことなのよ本当に…。アクアちゃん?どうやってドラゴンさんに<火球>を使わせているのかお姉さんに教えてもらってもいいかな?」
アクアはいつもの考えている時のポーズを取りながら、いつも以上に考えて言葉を発した。
「――――多分ね、アクアが自分で作ったドラゴンさんだから出来ると思うの。だからアメリアお姉さんが作った鳥さんには出来ないと思うよ。だってドラゴンさんは自分の魔素で作ったから、アクアの魔素がスーッってドラゴンさんの中に入っていくの。だからドラゴンさんとアクアの魔素を繋げて<火球>を使ってあげれば、ドラゴンさんは<火球>が使えるでしょ?」
「いや~…。それは多分そうなんだろうけどね…。結構神経の磨り減る作業だと思うんだけどそれ…」
「そうかな?アクアはドラゴンさんにブレスを吐いてほしかっただけだったから、そんなに難しいと思わなかったよ?」
そう言ってアクアは<造形魔法>で作り出したドラゴンの口から<火球>を吐かせて、ぐるぐると自分の周りを飛ばせている。
アメリアは頭を抱え、そんな簡単なことじゃないのに…。と五歳児の魔法に対するセンスに呆れてしまっている。
「まぁ難しいことは良いではないか。我もさっぱりアクアの言っていることはわからんぞ。しかしアクアは魔法の天才なのかもしれんなぁ。偉いぞアクア」
「全知全能と言われるあたしでさえ、古代魔法の技術に関しては知り得ないことが多いのよね。ゴーレムやその他の古代魔法については知っているのだけど、使い方までは知らないわ。一体アクアは何でそこまでの魔法に対して適正があるのかなぁ」
ファフニールはアクアの凄さに驚き、テューポーンはアクアを抱き上げてグルグルと回転して偉いぞアクア。と言ってアクアを褒めている。
「そういえばアクアちゃん。さっき魔素に色があるって言っていたよね?それ、今のドラゴンさんはどうなっているのかな?」
アクアはテューポーンの抱っこから降ろされ、ドラゴンを見て確認をしてから答えた。
「えっとね、ドラゴンさんは黄色だよ!あ、ちなみになんだけどアメリアお姉さんの鳥さんも黄色だよ!ということは<造形魔法>は黄色ってことなんだね!」
そういってアメリアは再びテューポーンと戯れ始めた。
「<造形魔法>は黄色…?<火球>は赤色?<水球>は水色…?」
――――はっ?!もしや?!
アメリアは何かに気付いてアクアに続けて質問を出した。
「アクアちゃん。今からお姉さんが<火球>を使うから見ててもらってもいいかな?」
アクアはいいよ!と言いながらどうしてなんだろうと首を傾げていた。
アメリアは杖から<火球>を生み出し、案山子に対して放った。
大きさはそこまで大きくないようで、案山子にあたってすぐに<火球>は消えていった。
「―――――アクアちゃん。今のお姉さんの<火球>の魔素は何色だったかな?」
「赤色だけど、アメリアお姉さんは多分<赤色の魔素>の魔法は使いにくいと思うよ?だって、お姉さんの魔素は黄色と緑色だもんね。魔素の色を変えなきゃいけないと思うから、その分威力が弱くなっているような感じがするの。」
「――――やっぱりね。じゃあ次は<水球>を放つから、また見ててもらってもいいかな?」
うん!というアクアの返事の後、アメリアは今度は<水球>を案山子に放った。
「それも同じかな?お姉さんの魔素の色と魔法の色が合ってないから、凄い使いにくそうだよ?」
「――――わかった。ありがとうアクアちゃん。その言葉で私が長年考え続けた謎が解けてしまったようだ」
アメリアはそういうと、再び<不可視の鳥>を出してみせた。
「あ、鳥さんだ!!えっとね~…、アメリアお姉さんの魔素は黄色と緑色の魔素だから<造形魔法>の時は…何て言ったらいいのかなぁ…。スムーズ?って言えばいいのかな?凄いスムーズに魔素が魔法に変わっているね!!」
「――――なるほどね。アクアちゃんの言う通りなら、わたしの適性魔法がわかってしまったというわけか」
そのアメリアの言葉にテューポーンとファフニールは、困惑の表情を浮かべている。
「アメリア。それは一体どういうことだ?」
「そうよ。もう少し分かりやすく説明してくれるかしら?」
「――――わかった。少しかみ砕いて説明をしよう」
そう言ってアメリアは胸を張り、再びさながら教師のような態度で話し始めた。
「アクアちゃんが言うには、人によって適正魔法の違いがあるのは魔素の色が原因だという事になるのよ。アクアちゃんは私の魔素の色を黄色と緑色だと言ったよね?つまり私は<黄色の魔素>と<緑色の魔素>を使う魔法が得意となるのよ。元から持っている魔素を使う魔法の場合、それは簡単に使えてしまうのよ。しかし、私は<火球>やその他の火を出す魔法は得意ではないわ。まぁ時間を懸ければ<炎球>や<獄炎>といった火の中級魔法や上級魔法を使う事は出来るんだけど、時間はかかってしまうわ。もしもアクアちゃんが言う事が正しいのであれば、それは魔素を別の色に変化させる工程があるからだと思うのよ。つまり、人は自らが最初から持っている魔素の色に合った魔法を使うことが「適正」とされるはずよ」
「――――なるほど。つまり我が持つ魔素の色は赤色なため、火を使う魔法であれば簡単だというわけか?確かに我のブレスは全てを焼き尽くすブレスであるからに、その仮説は正しいのかもしれぬが」
「確かにあたしも水を生み出す魔法が得意ではあるわね。その気になれば雨を降らすことも可能だし」
「つまりね。人は個人個人に合った魔法があるということになるね。しかも、火を出す魔法が赤色の魔素で、水を出す魔法が青色の魔素であるとしたら、それぞれの魔法に対しての適正な魔素の色が案外簡単に見分けられるのかもしれないわ」
アメリアとファフニールとテューポーンは話し合っているが、その間アクアは何を言っているのかあまりわかっていないようで、自分が作り出したドラゴンと遊んでいた。
「それにしても、なんで王宮魔導士の私がこんなにも簡単な事に気が付かなかったのかな~。だって人って絶対にそれぞれ得意な魔法と苦手な魔法があるのよ。ちょっと考えたらわかりそうだったのに…」
「まぁまぁ、良いではないか。アクアのおかげでまた一歩この世界の魔法技術が進むかもしれぬということで」
「――――あれ?ちょっと待って。じゃあアクアはどうなるのよ。あの子自分の魔素の色はいっぱいあるって言っていたわよ?」
ファフニールがアクアに対する疑問をアメリアに投げかけたが、アメリアはさも当然の事のように返答した。
「それは多分だけど、アクアちゃんは魔素の色は白色なのか透明なのかっていう感じじゃないかな。それに加えて魔素をたくさん持っているってことじゃないかな。だって魔素が白色か透明だったら何にでも変えられるってことになるでしょ?例えば赤色を青色に変えることは出来ないし、もし変えることができたとしても難しいと思わない?けど真っ白な物を赤色や青色に変えることは簡単だし、透明なものに色を付けるのも簡単でしょ?多分それがアクアちゃんの魔法に対する適正の答えなんじゃないかな」
「――――つまりアクアはとんでもないほどの魔法に対する適正を持った天才だということで結論が出たというわけだな?」
「まぁちょっと悔しいけどそうなっちゃうかな。アクアちゃんのおかげでまた一歩、私の研究が進みそうだわ」
三人の大人たちは会話に花を咲かせているが、その間アクアは難しいことはわからないと言わんばかりに興味が無く、ただずっと自分が作り出したドラゴンと遊んでいた。
ドラゴンに育てられた少女は最強になり、世界を旅するようです @pucharo
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