第11話 水と学問の都フローラ

 世界中から人々、知識、文化が集まり、行き交う人々は肌の色、体格、表情、服装も違いがあり交わす言葉もちらほらと異なって聞こえる。建造物は直線的、曲線的などに設計されて所々に装飾、彫刻が異なるものの統一感があった。検問所をくぐり抜けた先はこの光景が奥まで続く。ここは水と知識の都フローラ。

 

 その大きさは到底人が作ったとは思えず、コハクは夢を見ている様に思えた。村で教わってきた無秩序で荒廃した無の世界などここにはなかった。


「すごい、何なのここ!? 私達とは全然見た目が違う人が一杯でこんな大きな建物がずっと遠くの方まで並んでる!!」


 更なる驚きにコハクは胸をときめかせる。市場らしき場所に気が付き、駆け出すコハクにヒスイは”あっ”と思ったがここは諦め、ゆっくりと後を追って行った。左右に並ぶ屋台には食料、雑貨、衣服、書物、何だかよく分からない物、ここには全てがあると思えるくらいだ。コハクは果実、野菜の屋台の前にいた。自身が収穫していた物とは違う物が並び、見た事ないそれが知りたくてしょうがない様だ。

 

 そんな彼女の様子を見ていた店主の女が果物を一つ慣れた手際で捌き、その一欠片を差し出した。コハクは一瞬戸惑うがここだと言わんばかりに店主の目を見つめ少し震えながら言った。


「イ、イハコーレ」


 店主の女はニコッと微笑んだ。その一部始終をヒスイは後ろで見ていた。


「それ貰ったのか?」

「そう! それでありがとうって言葉伝わったよ!」

「良かったな、それも食べてみればいい」

「果物だよね? 見た事ない」


 白く水々しい断面がキラキラとしている。躊躇いなくコハクは齧るとシャクっと音と共に爽やかなで優しい甘みの果汁が口の中に広がり、コハクはその初めての味に満面の笑みを浮かべた。


「美味しい~~! 初めてこんな味! ヒスイも食べてみてよ!」

「いや、コハクが全部食べなよ」


 半分残ったそれを差し出されたがあまりにも美味そうに食べるものだからヒスイは断った。 


 それから様々な物の誘惑が襲ってくる中も二人は市場の中を進んだ。


「ねえ、食べ物だったり、雑貨?みたいな物を交換する時、みんな丸くて小さいボタンみたいな物と交換しているよね?」

「あれは貨幣という物だ、それにはそれぞれ決まった価値があって貨幣と同等の物質と交換する」

「自分が持っている物と交換は出来ないの?」

「外の世界は通貨によって物の交換が決まっているらしい」

「へ、へえ~」


 コハクはうまく理解が出来なかった。ソダライトには通貨という物は存在しない。基本的に自給自足であり足りない物、欲しい物ががあった場合は相手が欲しい物を差し出す生活をしている中で売買という概念は無いのだ。


「これから貨幣を手に入れに行く」

「どうやって?」

「換金所という所があって、そこに持ち込んだ物と貨幣を交換する事が出来るんだ」

「それってやっぱり物々交換した方が手っ取り早くない?」

「貨幣はこの国に管理されている物だから自国の資産が見えやすいんだ。他国でも利用されている事からどこでも使える。それに相手が望む物が手元になくても貨幣であれば売買が成立する」

「ご、ごめん、ちょっと難しくてあんまり分からなかったんだけど、それどこで覚えたの?」

「家に置いてあった本という本を読んで」

「そりゃ~誰にも会わなくなるよね」

「……楽しかったよ」

「ところで何を交換するの?食べ物とか雑貨とかじゃないよね」

「換金できる物は石炭、金などの資源だ」

「資源? 鉱石とかでもいいの?」

「その通りだよ」


 ちょうど換金所なる場所へ着いた。扉を開け中へ入ると異なる容姿の人々が多く、異なる言葉が飛び交っていた。その場の熱気に尻込みするコハクの手を取り、ヒスイは人混みを縫うように進む。人の波を抜けると横に長い机越しに眼鏡をかけた老人が新聞を読みらがら座っている。


「換金して貰いたいのですが」


その老人にヒスイは話しかけると、その声にゆっくりと顔を上げ、ヒスイ達をじろじろと見た。そして再び新聞に目を落とし、なんとも気怠い声で言った。


「ノエの実、半分程度の貨幣にもならんだろうな。さっさと家に帰ってお母ちゃんにお駄賃でも貰ってきな」


 何を話しているのか分からなかったが、何処と無く嫌味を言われている空気である事はコハクにも分かりあたふたした。ヒスイは何もこちらに興味が湧かない老人を見つめていた。

 そして何やらマントの下でゴソゴソと何か探り出す。出てきたのは掌に収まるくらいの何かが入っている袋だった。それを机の上に置いた。老人はヒスイの顔を見上げながらその袋の紐を解き次にその中身を確認すると老人は先ほどの無愛想な表情が一変、興奮しながら話し出した。


「これほど上質で、こんな量初めてだ! 待ってな、すぐに換金してやるよ!」


 そう言うと奥の方へ走って行った。


「どうしちゃったの? あんなに慌てて?」

「手持ちの貨幣じゃ足りなかったみたいで、足りない分を取りに行ったみたいだ」

「え、そんなに高価な物だったの?」

「赤石だよ。俺達にとっては特別貴重ではないけど、ここでは装飾品に使われるくらい貴重品らしい」

「昔はよく石切で川に投げてたなぁ……勿体ない」


 老人がドタバタと帰ってきた。


「これでどうだ」


 机の上には先ほど渡した袋の十倍以上大きな袋が置かれ、その中にはギッシリと貨幣が入っていた。当然コハクは驚き、同時に周りの者達もざわつき始めた。

 この場に居座ることはよくないと判断したヒスイは、すぐに袋を手にしコハクの腕を引いた。

 

 換金所から少し離れた広場まで来ると備え付けてある長椅子に二人は腰を下ろした。

 

 改めて貨幣を確認するとその多さに驚いたが、それがどのくらいの価値であるかはコハクは当然ながらヒスイさえ分からなかった。


「これからどうするの?」

「まずはどこかに宿を探す。ある程度の場所でいい。二週間程度の滞在にしよう」

「二週間? お父さんとお母さんは一週間したら次の場所を目指せって」

「あの状況と右も左も分からない土地で一週間の期限は短すぎる」


 ヒスイのその合理的な返答であったとしてもコハクはどこか優しさを感じた。

 

 それから宿を見繕う為、再び市場の方へ戻る。しばらく歩いている通りで活気のいい声が耳に入った。その声がする方向には強面で大柄な男がいる。その男の前にはズラッと物が並んでおり、装飾品から日用雑貨のような物など多種多様に並んでいた。ヒスイは声をかけた。


「この辺りにそれなりで長期的でも安い宿はありますか?」

「なんだ、兄ちゃん見慣れねえ格好だなあ」


 つま先から頭の先までじろじろと見られた。


「そうだなぁ……この先に緑の看板がぶら下がってるだろ。あそこでいいんじゃねかな」


 先ほど同様、適当にあしらわれているような感じだ。そこでヒスイは考えた。


「これは何ですか?」


 店主はその言葉に商売魂が宿った。


「兄ちゃん、いい目しているねえ! こいつは西の遠い国のナイフさ! 一点物だからここで逃したら二度とお目にかかれないぜ!」

「手にしても?」

「もちろんさ!」


 手に取ったナイフを鞘から抜き、そして持っていた革の切れ端で切れ味を試すと、何とも素晴らしい切れ味であった。


「すごく切れるね、ヒスイ買うの?」

「そうだな、手持ちのナイフは交換してしまったし」

「あああ……あの時はごめん。それにしてもその色合い、青の池を思い出すね」


 ヒスイは改めてその刀身を改めて見てみると、薄く青みがかっていて、コハクの言う通り”青の池”を思い出させた。


「それでどうすんだい?兄ちゃん?」

「これ買います。この国の貨幣でどのくらいですか?」

「30,000ジダだ」

「すいません、貨幣という物を初めて持ったからどれを出せばいいか分からない」

「そりゃ苦労してんな、いいか?貨幣は5種類ある。銅色の穴開き貨幣が1ジダ、穴なしが5ジダ、銀色の穴開きが10ジダ、穴なしが100ジダ、金色が1,000ジダだ」


 袋の中に金色の貨幣を30枚取り出し店主へ渡した。


「ありがとよ、兄ちゃん。それにしても運がいいぜ、そのナイフ西の国から年に数本しか流れてこないんだ」

「そうですか、それは良かった」

「嘘じゃねえぞ、俺だってこの仕事に誇り持ってやってんだ。良い物しか売らねえし、どんな奴でも大金巻き上げようだなんて考えた事ねえんだ」


 この店主は先程の態度から一転上機嫌だ。


「おっとそうだ、宿探してるんだってな、ちょっと待ってろよ」


 店主はささっと紙に書き込みヒスイに渡した。


「ここに行きな、悪くないはずだ。この店の名前”カンナ”を伝えな」


 その紙には地図と宿の名前が書き込まれていた。


「ありがとう、早速行ってみるよ」


 そうして二人は地図に書かれた宿へと向かった。大通りから少し外れて広くも狭くもない路地に入る。

 少し薄暗く人影は少ないが雰囲気的に治安は悪いとは感じられない。進んでいくと”ウト”と書かれた看板がぶら下がっている。カンナの店主から渡された宿の名だ。外観は年季は入っている。扉を開けると備え付けの鈴が鳴り中に入る。右側にカウンター、左側に一台の机に二脚の椅子、奥には扉、室内は狭く薄暗い空間がそこにはあった。


「……なんかお化け出そう」


 しばらく立ち尽くしていると”ギイ……”と音が奥からした。


 それにコハクは驚き、ヒスイにしがみつく。視界が効きづらい中、ゆっくりと扉が開いていくのが薄っすらと見える。


「お客かい?」


 眼鏡をかけた小柄な老婆が現れた。


「カンナの店主に紹介されてここに来た」

「ああ、あのうるさいのにかい」


 老婆はカウンター上の蝋燭に火を灯すと部屋全体の雰囲気が柔らかくなった。


「何泊がご希望だい?」

「二週間ほど滞在したい」

「……まぁ特別うちには人が来ないから構わないけどねえ。金はあるのかい?」

「どのくらいですか?」

「一泊1,000ジダで14,000ジダだよ」

「これで」

「……確かに。部屋に案内するから付いておいで」


 奥の扉に向かう老婆に付いて行くと階段があった。ギギと音を立てながら登って行くと廊下は蝋燭の優しい光に照らされている。ここでの内観も同様古くはあるが掃除が行き届いていた。途中、気まずさからかコハクは老婆の名前が気になりヒスイに聞いてもらった所”パパラチア”と返ってきた。二階につくと三部屋通り過ぎたのち、角部屋まで来た。


「ここだよ」


 老婆に開けられた扉に二人は入る。そこにはベッド、蝋燭が一つ乗った机、椅子が一つ。窓は一つだけで明るいとは言えない室内だ。


「食事はなし。厠、水回りは共同。この宿での外出、戻りは時間関係なく自由だが静かにね、騒ぎやうるさくしたら直ぐに叩きだすからね、それじゃ」


老婆が扉を閉めようとした時、コハクが言った。


「す、すいません! 二人で一部屋なんですか!?」


 何を言ったかはパパラチアには解らない。コハクは思わず、村の言葉が出てしまった。


「あ! ごめん、ヒスイ聞いてくれないかな」


 ヒスイはパパラチアに尋ねてみると、もう部屋はここしか空いていないと答え部屋を後にした。


「ここしかもう空いていないみたいだ」

「さっき人いないって……」


 思わずベッドに目をやると途端にコハクの顔は赤くなる。


「べ、ベッド一つだけんだけど、どどど、どうしよう?」


 コハクはあたふたし始めたがヒスイは即座に返答する。


「俺は床で、コハクはベッドだ」

「へ……あ、え?」

「何か問題あるのか?」

「いや……大丈夫です」


 何となく予想は出来ていたが拍子抜けした。


 コハクはマントを脱ぎ、荷物を床に置きベッドに腰掛けた。今までの野宿からの固く湿った地面との生活とは一転、ベッドの心地よさに心から安堵した。気の緩みからか”ぐ~~~”という音が小さな部屋の中に響いた。沈黙の中、コハクの顔が赤くなっている。


「そろそろ、日が暮れるから外に出て夕食を食べに行こう」

「……行きます!」


 外に出ると辺りはオレンジ色に染まっていき昼間とは街はまた違った表情を見せる。

 

 宿屋ウトを出て再び大通りに出ると人が溢れかえっていた露店は片付けを始め、飲食の店が開店の準備を始めていた。所々ではすでに宴が始まり賑わっている。


「なんか昼間とは違う雰囲気で素敵だね~。どのお店がいいんだろう?」

「取り敢えず、パパラチアからお勧めの店を教えてもらったからそこに行こう」

「この街の人って皆繋がっているのかな」

「自分が稼ぐために互いに補っているだけだろう」

「ふ~ん、ところでどんな物が食べられるのかな!?」


 渡された地図を片手に大通りを進むと見てくれこそ小さいが一際賑わう店があった。どうやらここが教えられた店であった。扉は解放されていて敷居を一歩跨ぐ。


「いらっしゃい! 二人!?」


 まるで突風のような声。その主は若い女性であった。両手には料理が乗った皿を何枚も器用に持っている。


「宿ウトから食事をしたいならここに来るように言われたんだ」

「お母さんから!? よしきた! 奥のテーブルが空いているだろ、あそこに座ってな!」


 娘の名はインカという。若くしてこの店の切り盛りをしていた。言われるがままに奥の席に着き二人は待つ。店の中は客で溢れ聞き取れない会話が飛び交っている。あたりをきょろきょろと見渡し落ち着かないコハク、またまた冷静なヒスイ。


「お待たせ! 何にするか決まった?」


 注文を取りにインカが来た。


「ここで一番の人気の料理は何ですか?」

「そりゃあシダイだね。ここらの郷土料理さ!」

「それを二つで」

「飲み物は?」

「水で」

「水~!? それは最後でいいだろうに、取り敢えず一杯目はサービスしてやるから!」

「あの」

「1番! シダイ二つとポロ二つ!」


 ヒスイの話は遮られ娘は注文を通した。


「な、何が出て来るんだろ……」

「分からない」


 数分も待たずにインカはジョッキと、そこの深い器を二つずつ器用に持って再びやってきた。


「お待たせ! この器のスープがシダイね、野菜と小麦粉を練って団子状にした物を煮込んだスープ、それでこれがポロね、飲み過ぎは注意よ!」


 目の前に置かれた器には見た事はないが色とりどりの野菜、不揃いの団子がゴロゴロと入っていて食べ応えがありそうだ。湯気が立ちのばり、その香りは食欲をかき立てた。


「ヒスイ、早く食べようよ!」

「頂きます」


 二人は野菜と団子をスプーンで掬う。コハクはまじまじと観察した後に口に運んだ。口の中では野菜の様々な食感、旨味が凝集されたスープ、そしてそのスープの染み込んだ団子が踊る。その初めての味にコハクは頬を押さえて歓喜した。


「んん~! 美味しい~~!! 何これ! 初めての味!」

「村のスープとは違う味だ」


 夢中になって二人はシダイを口に運ぶ。


「これはポロ? って言う飲み物だっけ? なんか泡が出てるけど」

「これも村には無いな」


 ヒスイはポロを手に取り匂いを嗅ぐと気が付いた。


「コハク、ちょっと待っ……


 目の前では両手でジョッキを持ちゴクゴクとポロを飲むコハクの姿があった。その姿をただヒスイは見るしかなかった。


「何だろこれ! よく解んないけど嫌いじゃないなー!」

「コハク、これ飲むのは止めた方がいいと、あ……」


 ヒスイの言葉も届かず、コハクは再びジョッキを手にしポロを喉に流し込む。後の祭りと思ったのか、ヒスイはもう止めはしなかった。それから分厚く食べ応えのある肉料理、酸味の効いたソースがかけられた揚げ魚の料理が運ばれると二人は今までの旅路の最低限の食事からの反動か感動さながらに全て平らげた。


「もうお腹いっぱい! 幸せ~~」

「水を貰おうか」

「私ポロがいいな! ヒック」

「それはもうダメだ」

「なんで? あ、お金足りないとか?」

「金はある」

「ヒック、じゃ! もう一杯!」


 コハクの顔はほんのりと赤みを帯びており、目元はトロンとしている。コハクはポロを3杯飲んだ。ヒスイは止めなかった事を少し後悔した。


「はい! ポロ二つ!」

「頼んではないが」

「あんたの彼女が飲みたいって言ってんだから持ってきちゃったよ! これは私の奢りだよ!」

「*+*>>{{`P*{+」

「???この子なんて言ってんだい?」

「……ありがとうございますと言ってる」


 目の前に置かれたポロを嬉しそうに飲むコハクを見てヒスイは呆気にとられるも見守った。


「ありがとね! 母に宜しくお願いね!」

「ご馳走さま」

「&%$#?><!(ご馳走さまでした!!)」


 最後のポロを飲み干したのを最後にヒスイとコハクは店を出ると外はすっかり夜を迎えていたが、ここは飲食街らしく街灯に火が灯され屋街での宴も目立つ。


「夜でもこんなに人がいっぱい! 村とは全然違うね!」


 開放的になっているコハクはより感情が豊かで好奇心旺盛になっていた。


「あんまり、はしゃぐと転ぶぞ」

 

 コハクはくるくると回りながらヒスイの前を行く。キラキラと輝く街並みに照らされたコハクはまるで絵画のように華やかでヒスイはその姿を見つめる。街を踊り歩くコハクは耳に微かに軽やかな音が流れ込んで来るのに気が付いた。

 足を止めて、その音がどこから来ているのかきょろきょろと見渡すと人集りがあった。どうやらあそこで何か行われているらしく、コハクは心が赴くままにその人集りに突っ込んで行ってしまうと、ヒスイは溜め息をつき頭を掻いた。

 

 コハクは人の波を縫いながら音の元を目指す。音楽はどんどんと鮮明に聞こえはじめ、やっとの思いで荒波を抜けるとそこにはあったのはまるで舞台の様だった。

 笛、ギター、アコーディオンの三重奏に合わせ男も女も踊っていた。コハクは初めて見る楽器と音色に心をときめかせる。

 村では一番の踊り子であったコハク、目をキラキラと輝かせいると踊っていた一人の娘がコハクの元まで近づき手を取った。


「$#%"&!''|~=)('&%!]」

「ええ? 何言ってるか解んないんだけど一緒に踊れって事でいいんだよね!」


 手を引かれ丁度真ん中まで連れて行かれ多くの人に注目される中、コハクは音楽に合わせ踊り始めた。村に伝わる伝統の踊りはもちろん外界の人間の目に触れる事はなく、今この場にいる人々はその美しさに見惚れ歓声に湧いた。

 一方、コハクを追ってヒスイもやっと人の波を抜けると人集りは見知らぬ少女の登場も更に大きくなっていた。


 そんな中で多く目線を浴び自身の境遇も忘れ眩しいくらいの笑顔で踊り続けるコハク。軽やかな足の運びと流れるような腕の動き、華やかで美しく人々を幸せな気持ちにさせる。そんな彼女の姿に対しヒスイは何年もしていなかった表情をした。

 

 そんな表情にも気がつかないままコハクは踊り続ける。

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